悪魔

 天使が消えた後、この世界に入り込んだ悪魔とやらに会ってみることにした。娘と会う前に、脅威を排除しておきたい。

 悪魔と会うのは簡単だ。念じればいい。悪魔よ、ここに出てきなさい。


「この世界は間違っていると思わないか」

 黒いぶつぶつの集合体は、あらわれるなり、そう切り出してきた。

「御馳走をあいつが独り占めしてやがる」

 白い馬にタコの足が生えた悪魔が歯ぎしりする。

「タナンティ、タナンティヒ、るるす777」

 毛むくじゃらの7本足は、何かを囓りながら、ふすふすと音を鳴らしている。


 悪魔は全部で99体いた。すべて目の前に呼び集めることができた。私は思わず笑みをこぼした。どうやらカンを取り戻してきたようだ。

「おまえたち悪魔がこの世界で何人食べたのか、私に話しなさい」

 この世界に入り込んだ悪魔たちが言うには、私が世界維持を祈らない夜に限って、人を食べていたとのことだった。私が祈れば天使が食べたはずの生け贄を、悪魔がかわりに食べていた。

 ああ、結局は生け贄は殺されたのか。祈っても祈らなくても殺されたのか。それは私にとって救いになるだろうか。いや、ならない。なぜなら、この世界のありようそのものが罪だからだ。行き着くのは、つまり全て私が悪いという結論。


「こんなのは正しくない」

 うごめく海藻でできた扉みたいな悪魔が、悪臭を放ちながら私に同意を求めた。

「ここは1日に1人しか食べちゃいけないルールだ。そういう契約でできた世界だからな。悪魔1体につき1人じゃない、1日に生け贄になるのは1人だけという決まりだ。こんなクソみたいなルールがあってたまるか。俺たちは99人もいるから、とても量が足りない」


 私が念じると、時空がねじれて、手のひらに鎌が発生した。死に神が持っているような、長くて大きな鎌だ。ひんやりとした感触で、握るとしっくりくる太さ。私のための死神の鎌。


「そもそも生け贄の屍の上に、平穏と忘却の天国を作るなど実におぞましいぞ。人間は正しく奪い合い、いがみ合い、殺し合わなければいけない。人の本質を忘れてしまっては世界が歪み」

 私は勢いよく鎌を振るい、ウザイ悪魔を真っ二つにした。


 残り98体の悪魔たちも鎌で斬り殺した。


 怪我ひとつしなかった。返り血すら浴びていない。世界の主たる私の決定に、この世界に存在するものが逆らえるわけがないのだ。

 


「悪魔達の肉は、こまかく刻んで、皮で包んでフライパンで焼こう」

 さて、餃子が何人分できるかな?

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