ルルーナガー3

「明日も世界が穏やかに続きますように」


 ベッドの中でそう祈ってから、目を閉じた。

 おやすみ全人類。



 翌朝、砂浜で目が覚めた。

 目の前には竜宮城が建っている。壁も屋根もぴかぴかで、玄関のドアも手垢一つついていない。新築だろうか。今年度の生け贄たちはここで刺青を入れられることになっているのかもしれない。中に人がいるのなら逃げなくちゃ。でも、人の気配はなかった。

 中国の宮殿みたいな壁を撫でたら、白いイタチが壁をぬるりと抜けて出てきて、私に磯辺焼きをくれた。食べてみたらもちもちして美味しかった。でもちょっと臭い。

「これ何? 普通の磯辺焼きとは違うみたい」

 私がそう聞くと、白イタチはケヘン、ケヘンと咳き込みながら去っていった。鉄棒を舐めたみたいな後味がして気分が悪い。


 砂浜を歩いて行くと、遠くに街並みが見えた。商店街もあるようだ。きっとお母さんもあそこにいるに違いない。私は駈け出したが、性格のまがったカニに足首をつかまれて転んでしまった。カニはふしゃふしゃと笑って、砂にもぐっていった。

 なんだかとっても悔しくて砂浜を両手で叩いていたら、海面からざばあとしぶきを上げて村崎くんが顔をだした。身の丈10メートルくらいもある。しかも顔色が悪い。唇まで真っ青だ。

「海水浴なんてしないほうがいいよ、毒にやられちゃうよ」

 私は海に向かって叫んだけれど、海風で声がかきけされてしまった。

「明日さぁ」と、村崎くんが叫ぶ。

「テレビにゴーサが出るから見ろ!」

 私は叫び返した。

「やだー」

 ぶるりと砂浜が振動した。砂が動いて、文字を作る。

「このたびはタルエル決済を御利用いただきありがとうございました。引き落とし予定日は27日です」

 とあった。

「なんだろう、これ」

 私は砂でできた文字を蹴散らした。すると、水がしみ出てきたので、私はぎょっとして飛び退いた。おそるおそる臭いを確認したが、毒の臭いはしなかったので、ほっとした。

「毒? なんで毒だなんて思ったんだろう」

 そんなものが湧いて出てくるわけないのに。

 思わず空をあおいだ。青かった。青いことに、ひどく驚いた。

 空っていつから青いんだっけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る