ルルーナガー2

「明日も世界が穏やかに続きますように」


 ベッドの中でそう祈ってから、目を閉じた。

 この世界では、すべてが私の望みどおり。

 おやすみ全人類。



 翌朝、お母さんが作ってくれた餃子を食べた。具にはお母さんが狩ってきた悪魔たちの肉を刻んで入れてある。あまり好きな味じゃないけれど栄養はあるらしい。食べると、死を遠ざける能力が上がるんだって。私の能力は生まれつきのものなのに、食事で上がったり下がったりするなんて変じゃないのかな。疑問に思うけれど、お母さんに逆らうのは面倒なので、私は黙って餃子を食べた。脂っこいからちょっと胃もたれしてしまう。


 登校し、小六の教室に入ると、金剛印の描かれたTシャツを着た村崎くんが、「昨日のテレビ見た?」と聞いてきた。

「見てない。私テレビって見ないもん」

「なんでだよ。昨日の「痛みとは祝福である」にゴーサが出てたのに」

 村崎くんはゴーサとかいうタレントの大ファンで、その布教活動がちょっとしつこい。

「約束やぶんなよ。ちゃんと見るって言ったくせに」

「えー、そんなこと言ってないよ」

「言ったって!」

「言ってない」

 ランドセルがぶるりと震えた。中に入れているタブレットがメールを受信したのだろう。私は自席についてメールをチェックした。

「このたびはタルエル決済を御利用いただきありがとうございました。引き落とし予定日は27日です」

 とあった。

「なんだろう、これ」

 迷惑メールってやつかなあ。私は深く考えずにメールを削除した。


 担任の先生が教室に入ってきて、「みんな、よく聞いて」と、声を張り上げた。

「同じ信徒のお友達が生け贄として捧げられました」

 生徒たちはみんな黙っていた。

 だって、もう、こんな不幸な知らせは慣れっこなんだもん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る