未来でプロポーズをするために

セツナ

『未来でプロポーズをするために』

「長谷川理子は小鳥遊潤を愛しています」

その一文が書かれた紙を渡された私は、ただその場に立ち尽くしていた。

「意味が分かりません」

 長谷川理子、と言うのは私の名前だ。ありがちな『長谷川』と言う苗字に、『理子』というありきたりな名前。

 理子、と言う名前も気に入らない要因だ。そんなに理系に強くないくせに、幼少期からその名前のせいで理科の時間に変にからかわれて、むかついた事を思い出す。

 そして、小鳥遊潤というのは今まさに私に紙を渡して来た目の前の男だ。

 『小鳥遊』とかいう珍しい苗字に『潤』とかいうアイドルみたいな名前。更にその顔は学内にファンクラブが出来るほど整っているときたら、神様は理不尽だと思ってしまうだろう。

 そんな見目麗しい誰もが羨む彼が、こんなモブ代表みたいな女に、どうしてこんな。

「罰ゲームか何かですか」

 そうとしか思えない。質の悪い冗談だ。

「これは、10年後の君が僕にくれたものだ」

 そしてここで初めて彼は私に口を開いた。

「君は、10年後僕と結婚し、13年後に亡くなるんだ」

 冗談で人を殺すな。しかし――

「また……君に会えて、良かった」

 しかし、そう言った彼の眼は真剣そのものだった。

だから、私は彼の話を少しだけ聞いてやることにした。



「私は将来、小鳥遊くんと結婚するんですか」

「そう。僕にとって君は、同級生であり尊敬する科学者であり、最愛の人だよ」

 どうして理系の進学を死ぬほど嫌がってる私が、科学者になっているのか。

 なんてそんな事は、この男の瞳の前ではどうでもよくなった。

「また、会えてよかった」

 涙をこぼしながら、目の前で愛おしそうに私の手を握る彼。

 この先、私がどんな偉大な実験をしたのかなんてどうでもいい。

 ただ彼が私を愛し、こうして私に再会するためだけに時間を巻き戻ってきたのだという事実だけが、私の胸に強く響く。

 そうしているうちに、目の前の彼の姿が徐々に薄れていることに気付いた。

『時代に干渉したものは、存在が消えてしまう危険性を持つ』

 いつか何かのSF作品で見た話。タイムなんちゃらと言うその単語を思い出す。

 この男は、自分が消えてしまう事もいとわず、私に会いに来たのだ。

「どうか、あなたは科学者にならないで、俺以外の誰かと、幸せに生きて」

 最後にそう言った彼の瞳から一滴の涙が落ちると同時に、彼の姿は消えてしまった。

 「理子」と言う名前は嫌いだった。勝手に理系が得意だと思われるから。でも――

「こんな情熱的な告白されて、はいそうですか、とはならないのよ」

 残された手の温もりをぎゅっと握りしめた。

 その手の中には、彼から渡された手紙。

 いつか、また彼に出会えたら、この手紙を彼に渡すのだ。


-END-

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未来でプロポーズをするために セツナ @setuna30

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