スカッと漫画動画 原作アソート@ふぃるめる

ふぃるめる

クズ陽キャに狙われた姉妹を助けたら――――


 夏休みが終わり二学期が始まった。

 高二の二学期と言えばそろそろ受験を意識し始める頃だ。


 「伊織いおりくん、おはよ」

 「小鳥遊たかなしさんもおはよう」


 俺の名前は早乙女さおとめ伊織いおり、ステレオタイプの男子高校生だ。

 唯一、普通じゃないところがあるとすれば挨拶をしてきてくれた小鳥遊たかなし茉日まひるという可愛い幼馴染がいることぐらいだろうか……?

 どれくらい可愛いかって?学年中の男子が興味を示すくらいだ。

 正直に言ってしまえば、茉日の傍に俺なんかがいていいのかって思うこともある。

 それでも彼女とは幼稚園の頃からずっと二人、いつも一緒にいた。

 

 『俺なんかが傍にいてもいいのか?』


 中学生の頃だったかな?

 誰かにお前と小鳥遊じゃ不釣り合いだから離れろと言われて、茉日に聞いたこともあった。

 その質問に茉日は


 『伊織くんの隣は何だか居心地がいいんだよね。私が居たいからそばにいる。ひょっとして迷惑だった?』


 と答えた。

 もちろん答えはノー。

 俺にとっても二人だけのとき、茉日の隣はまるで陽だまりのように居心地がよかった。

 それから俺の隣が嫌になったら勝手に茉日の方から離れていくだろうって思っているうちに高校進学を迎えた。

 

 「やぁ茉日ちゃん!今学期もよろしく!」


 気障っぽい挙動と馴れ馴れしい言葉で茉日に挨拶を交わしていく男がいた。

 このクラスのリーダー的な存在である彼の名は、黒原くろはらつかさ

 部活動はテニス部でThe陽キャといった感じの男だ。


 「お、おはよう」


 茉日が愛想笑いを浮かべながら挨拶を返す。

 すると司は俺を一瞥いちべつした。

 

 「茉日ちゃんほどの女の子なら、隣に置いとく男も選んだ方がいいぜ?」


 またこれか……。

 司は去年、入学してすぐから茉日に執着しているのだ。

 顔は良くて運動もできてトーク力もあって、モテないはずはなく常に女子を周りに侍らせている。

 そんな司の本当の狙いはどうやら茉日らしいのだ。


 「不快な思いさせちゃったかな?」


 申し訳なさそうに茉日は言った。


 「もう慣れちゃったし、いつものことだから俺のことは気にしないで」


 茉日に寄ってくる男はいつも俺を邪魔そうに見るし邪険にあたって来るのだ。

 茉日と長いこと一緒にいた俺にとって司が初めてなんてことは無い。

 どうやってやり過ごすのかとかは俺の日常生活にとっては処世術みたいなものだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 放課後、茉日は陸上部の部活動へ。

 一方の俺は帰宅部なので家へと直帰だ。

 だがその帰り道、俺は少し気がかりな光景を見てしまった。

 知らない人が見ればただのカップル、でも俺はそれが誰なのかを知っていた。


 「ほら〜紗奈さなちゃん、早く俺ん家行こうぜ?」


 男の方は茉日を狙う司で、女子の方は茉日の妹の紗奈ちゃんだった。


 「え……でも私、今日は早く帰んなきゃいけなくて……それに昨日も黒原先輩の家に行ったばかりですし……」

 「俺がヤリたいって言ってんの?それともあれか?お前の姉―――――」


 姉である茉日を自分のものにしたいはずの司は、どういうわけか妹の紗奈ちゃんと一緒にいたのだ。

 二人は既に声の聞こえないところにいて、そこから先の会話は聞こえなかったが、何となくロクでもない話であることは、容易に察しがついた。

 これは一応、茉日に話しておくべきか?

 茉日と仲のいい俺は、当然その妹である紗奈ちゃんとも仲がいい。

 故に紗奈ちゃんのことは少し心配だった。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「ほら脱げよ」

 「でもまだ私、シャワー浴びてなくて……その、今日体育あったから汗かいちゃってますし……」


 今日私は黒原先輩に呼び出されていた。


 「お前、そうやって言って昨日は逃げたよな?」

 「そ、それは……」

 「お前の大事な姉がどうなってもいいのかよ?」


 黒原先輩は茉日まひるねぇのことが気になっているのは知っていた。

 でもそれは「好き」なんていう純粋な感情じゃなくて自分のモノにしたいというドス黒い感情であることはすぐに分かった。

 女子生徒のみんなが憧れるの噂や姿とはかけ離れていた。

 こんな奴に大事な茉日姉を奪われるのは嫌だ、そう思っていた矢先に黒原先輩はどういうわけか私に声をかけてきた。

 

 『俺の彼女になれよ』


 ロマンもへったくりもない言葉。

 もちろん私はそれを一度断った。

 だがそれからしばらくたった先日のこと、


 『お前の姉の茉日をモノにしたいって奴らがさ悪いこと考えてるみたいなんだよな』


 黒原先輩は私にそう言った。


 『そんなの……イヤです!』

 『だよなァ?俺だったら止めてやれないこともない』


 下卑た笑みを浮かべて黒原先輩は私を値踏みするような目で見た。


 『なら、止めてくださいお願いします!』


 茉日姉が変な男に汚されることは絶対に嫌だった私は必死に頼み込んだ。


 『いいぜ、でも一つ条件がある』

 『条件ですか……?』

 『お前が俺の彼女になること、それが条件だ』


 その言葉が意味するところはすぐに分かった。

 この話を仕組んだのは黒原先輩で、茉日姉に告白したところで振られるのは目に見えているから、まずは私に近づいて私を心身共に服従させ、それを脅しに使って茉日姉と付き合おうとしているのだと。

 ここで私が黒原先輩の出した条件を飲めば、茉日姉がすぐに何かされるってことは無くなるだろう。

 でも私の身体は汚されるし、時間稼ぎにしかならない。

 だが他にこの状況を打開する手段がない。

 仕方なく私はその条件を飲んだ。

 全ては茉日姉を守るために。


 『わかりました、黒原先輩の彼女になります。だからどうか姉を助けてください!』

 『話が分かるようで助かる。でもな誰にもこのこと話すんじゃねぇぞ?バラしたらどうなるか、分かるよな?』


 黒原先輩は、思った以上のクズ男だった。

 お願いだから誰かがその本性を暴いて、皆の目を覚ましてくれますように―――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「それって本当なの?」

 「あぁ、間違いない」


 その日の夜、俺は見たままのことを電話で茉日に伝えた。


 「紗奈に聞いてみる!」


 スマホ越しに聞こえる茉日の声は明らかに動揺していた。


 「待て、聞いても紗奈ちゃんは本当のことを話してくれない!」


 これは俺の予想だけどな。


 「どういうこと……?」

 「多分だけどな、黒原の本当の狙いは茉日、お前だ」

 「じゃあ何で、紗奈と付き合ってるのよ!?」


 やっぱりそれが気になるか。

 

 「今から俺の予想を話す。ショッキングな内容になると思うが最後まで聞いてられるか?」

 

 しばしの沈黙の後、覚悟を決めたのか「大事な妹のことだから話して」と茉日は言った。

 だから俺は話した。

 茉日をモノにしたい黒原は、直接告白されれば振られることを分かった上で紗奈をダシに使っているのだと。

 茉日をモノにするために、何らかの工作をして紗奈ちゃんと付き合い始め、その関係の延長線上で茉日に自然な形で近づき、最後は紗奈ちゃんの純潔を対価に茉日との関係を迫ると。


 「ちょっと考えすぎじゃないかな……?」 

 「じゃあ、あの聡い紗奈ちゃんが自分の意思で黒原と付き合うと思うのか?俺は思わないな」

 「仮に伊織くんの最悪の予想が当たっていたとして、私はどうすればいいの?」

 「警察や教師に相談するってのが一番手堅い選択肢だと思うが証拠を揉み消されればそれで終わりだ。だから別の解決策を俺が用意する。だから茉日は、紗奈ちゃんにバレないようにスマホのトーク履歴とか写真フォルダを漁って証拠を集めてくれ。そんでそれを俺に送ってくれ」

 「わ、分かった!」


 もしかしたら時間は一刻を争う問題なのかもしれない。

 おそらく黒原は、予想通りなら紗奈ちゃんの純潔は奪わないまでもギリキリの行為くらいはするはずだ。

 紗奈ちゃんがそれを拒めば、黒原は予定よりも早めて茉日に関係を迫るだろう。

 俺は心当たりのある奴に電話した。


 「お、伊織くん、こんな時間にどうしたんだ?」

 「実はさ、特大のネタがあってな、そのせいで可哀想になってる一年の女子を俺は助けたいんだよ」


 通話の相手は青木という広報委員の友達だ。

 彼は、二年の二学期になって広報委員会の委員長になっていた。


 「詳しく聞かせてもらおうか、ちょっとメモの用意をするから待っててくれ」


 俺は黒原と紗奈、そして茉日の間に起きているだろうことを伝えた。


 「まだ予想の範疇を出ないが、茉日から証拠が届いたらそっちに送る」

 「これは特大ネタだね!最近校内新聞を読んでくれる人がいないから、こういう面白いネタは助かるよ」

 「本当に頼む、被害者は幼馴染の妹なんで助けてやりたいんだ」

 

 そう伝えるとスマホのスピーカーの向こうでは唸るような声が聞こえてきた。


 「うーん……これは個人を攻撃するような記事だから新聞に載せるのは良くないと思うんだ。でも……これはイジメと同レベルでタチの悪い話だし僕個人では記事にすべき内容だとも思う。だから……」

 「だから……?」

 「説教と委員長クビ覚悟で僕の独断で記事にして公開するよ!こういうのってワクワクするな!まるで時代劇の鼠小僧みたいな感じでさ!」

 

 通話はそこで終わりだった。

 通話を終えてスマホを置こうとしたとき、今度は茉日からの着信が来た。


 「伊織くんの…言う通りだった……」


 聞こえてくるのは酷く沈み込み、今にも泣きそうな嗚咽混じりの茉日の声。


 「紗奈と黒原くんのトーク履歴……それから証拠になりそうな……一部の写真を送るね」

 「一部?」


 一部という言葉が気になり茉日に聞き返した。


 「ごめん……見せられないような画像が黒原くんから茉日に送られてたの……。口淫オーラルまでだったけど……私のせいで、私のせいで紗奈がッ!」


 本番までいってなかったのはせめてもの救いか。

 俺も強制的にさせられている紗奈ちゃんの姿なんて想像したくもない。


 「ありがとう、あとは俺の方で何とかする。一番、紗奈ちゃんに影響の少ない形でね」

 「お願い、紗奈を救って!」

 「任せとけ」


 それから俺は、青木と一緒に深夜までかかって紗奈ちゃんへの影響が一番少なくなる記事を模索しながら新聞の記事を仕上げた。


 「あとは僕がやっとくから、伊織くんは明日を楽しみにしててよ」

 「手間かけさせてすまんな」

 

 持つべきは良き友人だと改めて実感させられた。


 ◆❖◇◇❖◆


 そして迎えた翌日の朝、沈みこんだ茉日と共に教室へ入ると、教室は騒がしかった。

 クラスメイト達は背面黒板に掲示された校内新聞の前に集まっていた。


 「マジかよ……」

 「あいつ、相当クズやん」


 どうやら復讐は上手くいっているらしかった。

 記事の方も紗奈ちゃんが傷を負わないように紗奈の名前も出ていなかった。

 

 「みんな、集まってどうしたんだ?」


 いつもの気障っぽい言動で教室へと黒原が入ってくる。

 その存在に気づくと新聞を読んだクラスメイト達は白い目を黒原へと向けた。


 「黒原くん、これはどういうことかな!?」


 新聞を読んだ茉日が黒原を問いただす。

 黒原は新聞の存在に気づき、それをしばらく読むと叫んだ。


 「これは何かの間違いだァァァ!俺はこんなこと絶対にしてない!陰謀だ!嵌められたんだ!」


 喚き散らす黒原の言葉を信じる者は誰もいない。

 そこに青木が教室によく通る声で俺の名前を呼んだ。


 「伊織くん、君にお客さんだよ!」


 クラスメイトがその声に気づいて教室のドアのそばにいる青木の方を見た。

 その後ろから姿を現したのは今回の被害者である紗奈ちゃんだった。


 「伊織先輩!私を助けるためにこの記事を用意してくれたって青木先輩から聞きました!本当にありがとうございました!」


 それが黒原にとってはトドメとなった。


 「伊織テメェェェェェェッ!余計なことしやがってこのクソ陰キャが!」


 黒原は口汚く罵ると俺の胸ぐらを掴みにきた。

 胸ぐらを掴まれるより前に俺は思いっきり黒原の頬を平手打ちした。

 モロに受けた黒原はよろけて尻餅をついた。

 

 「お前のやったことは十分犯罪だ、一生後悔しとけ」


 言いたいことは色々あった。

 でも怒りのあまり、上手く言えずに言葉に出来たのはそれだけだった。

 そのまま俺は騒ぎに気付き駆けつけてきた担任と学年主任から、青木、茉日、紗奈ちゃんと一緒に事情聴取を受けた。

 

 「平手打ちするわあんな新聞出すわでこっぴどく怒られたな」


 全てが終わった後、漏れたのは自嘲気味た笑い。

 でもそこに悔いはない。


 「伊織先輩は私のために、そこまでしてくれたんですよね!?好きになっちゃったかもしれません」


 一緒に事情聴取を受けた紗奈ちゃんがどういうわけかそう言うと俺の左側から抱きついてきた。


 「でもそれ、私のためでもあるんだから!」


 さらに右側からは茉日が抱きついてくる。


 「おいおい、こんなことしてたらまた怒られるぞ?」


 なんだかスカッとした気分を胸いっぱいに広がった。

 ちなみにこれ以降、学校でアイツの姿を見ることはもう二度と無かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る