カマビスドレアムS
猪原だ!
第1話
「ねぇ、やっぱりこの世界も剣と魔法で何もかもが決まっちゃうものなのかな?」
「それは冷やかしか?俺だって好きで兵士をやっているわけじゃないが、目標とか信念は一応あるもんなんだよ。」
ある日のこと、この広大な大地の隅に住んでいる2人はいつも通り話をしている。1人は木陰で昼食をとり、1人は木刀で素振りをする、この辺りではおかしくない行為である。
「でも剣と魔法が支配する世界でなんて生きたくないよ。」
「そんなにか?」
「当たり前だよ!いつこの平和が崩れたっておかしくないんだよ?こわくないの?」
「そのための俺らの特訓じゃないか?攻められたら攻め返す…負けたらお終いだけどな。」
「やっぱりそうじゃない。最近じゃ科学っていうのが進歩してるっていうしそっちにもっと力を入れてほしいの。」
「カガクねぇ…あれは感覚的に進化させるものじゃないんだろ?頭の弱い俺には無理かもしれんな。」
「もう!なんなのそれ?」
「そういうもんだろ?それぞれの時代に似合う人が上に立つ…カガクとかいうもんに俺は似合ってねぇ。」
「だったら、みんなが平和にはなれないじゃない。上部だけの平和なんて嫌だよ!」
「そう駄々をこねるな、いつかみんなが平和な時代はきっと来る、そうでなきゃこんなに世界が慌ただしくなることはない。」
彼らが忙しく泣いていたのが恋しくなる頃、上下に分断された世界の下の大地、テールに住む少年グラことグラディウスは決まって朝10時に起きる。そしてもうすぐ10時を迎える…
「もう!今日ぐらいはもっと早く起きてくれてもいいじゃん!」
「シアンちゃん、ごめんねぇ。グラは物心がついたころからずっとそうだから、治んないのよねぇ。」
「折角朝早くから準備したのに…これじゃ早起きが無駄だよー。」
シアンことラクシャンは遂に上の大地、ハリアーに行くためのマシーンを作り、その同乗者として幼馴染のグラディウスを選び、彼が起きるのを待っていた。
「おはよ…」
時刻は午前10時を迎え、半開きの目で大きな欠伸をするグラディウスが階段を降りてきた。
「やっと起きた!グラディウス昨日話したこと覚えているでしょ?」
「あぅ…あー。あぁ、あー。」
「え……覚えてないの?」
「何か話したか?すまんが記憶が曖昧だ。朝には弱くてな。時間を置いてくれ。」
グラディウスは手で目を覆い、下を向く。
「なんなのそれ?もう…知らない!」
ラクシャンは勢いよく家を出た。
「シアンちゃん、早朝からずっとグラのこと待ってたのよ?グラと一緒にハリアーに行って魔法を学ぶんだって。」
「…………そういやそんな馬鹿げた話をしてたな。母さんそれ信じてるの?」
「信じるか信じないかじゃなくて、シアンちゃんの一つの夢じゃない。見守ってやるのが当事者の役目でしょ?」
「夢ね……。」
「シアンちゃんに悪いことしちゃったんじゃない?行かなくていいの?」
「世間的には良くないな。しゃーない。行ってくるよ。」
グラディウスは支度をし、ラクシャンといつも話している所まで行った。
「思い出してくれた?」
ラクシャンは駆けつけたグラディウスに尋ねる。
「まさか、本当に準備してるとはね。」
グラディウスの目の前ではラクシャンがこれまでの短い人生の知恵を捻り出して作り上げた今で言う飛行機が毎秒何十回と細かく振動している。
「凄いでしょ?前に見せた時はまだモーターすら付けてなかったし、結構印象違うでしょ!?」
ラクシャンは飛行機をポンポンと叩きながら得意げに言う。
「で、これでハリアーに行くのか?」
「もちろん。何か不満でも?」
「いつ壊れてもおかしくはないなって思っただけだ。」
「あのね、ハリアーの下では言ったと思うけど上昇気流が発生してるの!その範囲内に入ればハリアーに行くことができるの!考えなしにハリアーに行こうとしてるわけじゃないから!」
ラクシャンは顔を真っ赤にして前のめりになりながら説教する。
「そうかい。ま、御宅はいいから早く始めよう。俺は後ろの席か?」
ラクシャンは顔を赤くしたまま頷き、席につく。
「じゃあ、飛ぶよ。そこにあるヘルメットかぶってね。一応安全のために。」
「ああ。」
だんだん振動が大きくなり、2人は大地を離れた。
「風、気持ちいいね。」
「丁度良い涼しさだな。」
「ね!!」
調子に乗ってラクシャンは空中を一回転する。
「今、すごく楽しいよ!私が世界から認められてる気がする!さあ、ここからが物語の始まりよ!」
ラクシャンは高笑いする。
「そうかい。それより上昇気流まで後どのくらいだ?」
「もう後少しかな。スピードあげて行くよ!しっかり捕まっててね!」
振動は更に大きくなる。
「3…2…1…!」
先端が上昇気流に触れる。
「ゼーロッ!」
全体は上昇気流に弾かれた。
「え?なんで!?」
「結界みたいなのが貼られていたな。」
「そんな…しかも制御が効かない!」
「このまま行くと墜落するぞ?」
「そんなこと…分かってるって!」
ラクシャンはあれこれとコントローラをいじる。
「ダメ…びくともしない。」
ラクシャンは肩を下ろした。
「とりあえず降りるぞ。服をパラセール代わりにすればなんとかなる。」
グラディウスは上着を広げて両橋を持ち飛行機を降りた。
「グラ?行くのが速いよ!」
ラクシャンは小さな上着をグラディウスと同じようにし、飛行機を降りた。
「これなら一応大丈夫かな。」
ひとまず安心していたラクシャンだが、少し経つと落下速度の速い夢の詰まった飛行機がラクシャンの頭に容赦なく追突し、気を失ったラクシャンは1人短い人生を共にしたクーターの地へ打ち付けられた。
墜落した飛行機は微動だにしなかった。
「夢を追い続け、必死に運命に抗ったラクシャンに幸福があらんことを…」
ラクシャンは高さのあまり致命傷で済んだグラディウスとは裏腹に命を落とした。今はラクシャンの告別式が行われている。
「シアンちゃん…うちのバカ息子がごめんね。本当にごめんね。」
「グラ君は悪くないですよ。シアンが勝手に言い出して実行したことなんですから。」
「気を使わなくて大丈夫ですよ。一番辛いのはあなたなんですから。」
「いえ…私なんてただの傍観者。致命傷にまでなったグラ君が本当にかわいそうですよ。私の方からもごめんなさい。」
「グラのことなら大丈夫です。10時に起きることも、冷淡なことも、何も変わってませんから。強いて言うなら彼からアウトドアな姿勢が減ったぐらい……すいません。」
グラディウスの母もラクシャンのおばも気を紛らわそうとするが、やはりそうはいかずすぐに話が涙を駆り立てた。
そしてもうすぐ午前10時を迎える。
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