第84話 ご挨拶

 まあ、居たのは家族だ。


 両親と妹の結月(ゆずき)。

 たまたまこっちに来て、ちょっとゲートをいじっている間に、家族まで呼んでいるとは、思っていなかった。


 下種な考えだが、名簿を渡した時点で、人質を取られたみたいなものだな。

 神地さんに聞いた、神地家の所有惑星。何かの時は、国よりも早く確保してくれるように、お願いをしておこう。


「久しぶり。みんな、元気そうだね」

 まあ、こんなもんだ。

 どうこう言っても、気の利いた言葉なんかとっさには出ない。


「普人。すこし大きくなって、がっしりしたな」

 父さんから、言葉が掛けられ。お母さんと妹は抱き着いている。


「ああ。まあ、向こうで蘇って、一年以上だからね」


「失礼。お子さんで、間違いありませんか?」

「ええ。そうです。間違いありません」

 聞いてきた人は、何かをチェックをしていた。


「すいません。対策室の者です。引き合わせたときには、確認をする必要があるので」

「そうなんですね」


「すみませんな。本当は、ゆっくりと会話させてあげたいのですが、何分。イレギュラーなことでね」

「いえいえ。こちらこそすみません。予定を壊してしまいまして」

「いえいえ。今まで、君にどれだけ会いたかったか」

 つい。いえいえ合戦をしてしまった。


「うちの職員から、あちらでの重要人物は君だと。当初から名前が上がるが、出てこないし。軽々に、向こうへは行けないしね」

 そう言ってソファーに座る。

 そして、みんなにも座るように促して来る。


 家族も、一緒に聞いているが、良いのだろうか?

「今作られている。魔道具類は、君が制作をしているのだろう?」

「そうですね」

「ほかにも、村のインフラ整備や生活基盤の向上も。この1年で、君がなしえたと報告が来ている」

 それを聞いて、なぜか神地さんが頷いている。

 

「まあそれは。半分。自分の為でもありますから」

 そう言いながら、周りの反応を観察する。

 何人かが、会話をメモに取り。情報の確認作業中か?


「道路や橋の建設。乗り物として、簡易的な汽車まで走らせているとか。その辺りも本当かね」

「ええ。たまたま、向こうに存在する。精霊と懇意になりまして。力を得たおかげで、実行できました」

「その精霊というのは、どういう物。物は失礼か。存在なんだね?」


「地球で言う所の現象。それが、意識を持ち。自由に行動をすると考えていただければいいと思います。ねえ、神地さん?」

「そうだね。気難しいから。怒らせると、都市の一つくらい蒸発するんじゃないかな?」

「そうですね。彼らなら、やっちゃえでやりそうですね」

 神地さんと笑いあう。


 当然、くさび1の投入。その笑いだ。


「現象そのものが、意識と言うことは、君たちが頼めば。それが起こらなくなるという事かね」

「頼んだ人の、好かれ方によるのじゃないですか? 俺と神地さんが、相反するお願いをすると。どっちを、優先するのか分かりません」

 そう言うと、神地さんが答える。


「気分次第じゃないかな」

「まあ、これは妖精に限ったことで。精霊が居れば、話はシンプルで。協力してもらえる方が勝ちます」


「それはどうして?」

「各世界に精霊は多分一体。当然物質も、その世界の精霊の言うことを、聞くと言うことですね」


「いや。先ほどから、ファンタジーか。スピリチュアルな話で、理解できないが」

 まあ一般的にはそうだろうが、当然こちらにもいる。

 地球人だった時には、わからなかったが、神地さんの周りに大量にたかっている。

 こっちでは、彼が主なんだな。



「すみません。先ほどから、よくわからない話が続いているようですが。私たち、此処にいて。よろしいのでしょうか?」

 うちの母さんから、質問が出た。


「はい。すべて、息子さんにかかわる話です。知っておいていただいた方が、いいと思いまして。実は、向こう側の世界で作られている社会を、息子さんが作り上げ。そこにいらっしゃる。神地家の方につながりを持ち。こちら側へと、たどり着いた。この流れ。すべての中心が、佐藤君なのです」


 ちょっと語弊があるから、情報を追加する。

「基本的な生活基盤は村長たち。先人の努力です。あとは運ですよね。神地さんが遊びに来ていなかったら、どう仕様も無かったし」

「いや君なら、大丈夫だったんじゃないかなぁ」

 神地さんに突っ込まれる。

「はははっ」


「うちの子は、まだ15…… 16。もう少しで、17歳ですけれど」

「ええ。そのわずかな期間。たとえ、日本で造っても、大量の人とお金がかかるものを、一人で行ったようです」

「まあ。ほんとに?」

 そう聞かれ、俺はどう答えていいのか、わからなかった。


「私も、そう伺っています」

 横で黙っていた、勝政さんが。ぶっこんで来た。

「村長さんや、村の人から。彼が来て、一気に現代の生活へと変わったと伺っています。私も、先日家をもらいましたが、最初は竈や囲炉裏がある文化財のような家が、ちょっと目を離すと、現代普通にある家へと、変わっていました」


 折角。勝政さんがしゃべったんだ。流れを変えてしまおう。

「それで、今回来たのは、先ほどお見せしたゲート。それと、うちの国名についてのお話です」


 住民の気持ちを汲んで、ややこしくなるが。

 漢字表記では『日本国』となる事。

 読みは対外的には『ひのもとのくに』。

 村の中では、読みを決めていない。

 首都? は『はじめてのむら』。

 政治形態は『直接民主主義』。

 通貨なし。

 以上を、報告。


「ほかの取り決め。法とかはないのかね」

「人数が少ないですからね。基本協力しないと、生き残れません」


「罰則と言えば、一度暴力によって、村長を襲おうとした奴が居ましたが。死にました」

「それは、どうして?」

「まあ。事故ですね」

 俺が、力加減を間違えたという事故だが。


「まあ基本。1年ちょっと前まで、単なる田舎の集落でしたから。平和ですよ。新人は来ても、村人にはかなわないし」


「それはまた。どうして?」

「魔力は魔法だけじゃなく。身体強化ができます。それに何かが起こると、妖精が瞬時に教えてくれますし。さっき言った魔法は、あっちへ行っだけでは、使えません。使えるようになるための、儀式が必要なのですよ」


「行っただけでは、使えないのかい?」

「訓練すれば、生活に使える程度なら使えますね。実際。俺もそうでしたし」

 魔力は温存したいので、周りにいる妖精に頼み。ろうそく位の火を浮かべる。


 小さな火の玉が俺の前で燃えている。

 ただ、通常ではないことは、球状をしていることで理解できるだろう。


「おおっ。こっちでは、魔法が使えないのでは、なかったのか?」

 心の中で、お礼と魔力を少し与えて、魔法を解除する。


「いや、使えますよ。見た通り」

「前に来た方たちは、体調崩した原因が、魔素がないからだと言っていたのだが」

「まあ。それは、個人差と言うことですね」


 その後は、ウナギの原種の話と、ほかの海産物。完全無農薬の米と、麦が栽培できていること。ウナギについては、来年養殖をしてみること。


 通貨が必要なら、日本で作るよと言われたが、今の所必要がないと返した。

 まあ物が入ってきたら、必要になるかもしれないから。その時は、頼むとは言っておいた。

 現状はまだ、家電品まで。勝手に持っていけ状態だからね。


 よく考えると、年貢も税も存在していない。

 形をある程度決める必要があるが、税を取ってもする事がない。


 まあ、そんな話をして、久しぶりに家へと泊った。

 途中で、神地さんに向こうの家へと家族を連れて行ってもらい。

 こっちの家族を紹介して驚かれ、妹に冷たい目を食らって。

 香織を連れて日本へ帰り。うちの親と一緒に、高橋家へあいさつに行った。

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