第70話 村での初めての夜
そこには、バスローブを着て。
ちゃぶ台脇に座った佐藤君と、脇に敷かれた布団の中で寝ている女の人。なんだか佐藤君に頭をなでられて、ぴくぴくしているけれど。
長瀬さんが、
「お客さんだよ」
と言って、私をつれて部屋に入った後。後ろで扉がしめられた。
一瞬、彼はあせったようだが。
「どうしたの? やっぱり、慣れないベッドだし。眠れなかったかな?」
そう聞いてきた。
「そうじゃなくて……」
そこまで言うと。
「彼女。私たちが、この部屋に居るのが気になるみたいよ。モテモテね普人」
そう言って、笑っている長瀬さん。
「あー。どう説明しようかな。まあ簡単に言うと、彼女たちは家族だよ。ここは日本と違うからね」
その瞬間。家族? 家族ってどいう事。と思ったが、夜中。彼の部屋。ぴくぴくしている女の人。そして、もう一人。そんな事を考えていると。
「まあ、お茶にしよう」
彼が言って、長瀬さんが、もう一度出て行った。
「あの彼女は?」
「湯呑を取りに行ったんだろう。狭いけれど、座って」
そう勧められて、私はポスっと座り込む。
「彼女は、隆君のお母さんですよね」
「うん? そうだよ」
何も悪びれず、当然のように答える彼。
「うーまいった。どんどん人間離れしていくから、こっちが大変」
そう言って。さっきまでぴくぴくしていた、女の人が起き上がった。
毛布が、バサッと落ちると、何も着ていない。下半身は毛布の中だけど。
「大丈夫か? お茶飲む?」
「ありがとう」
そう言って、にっこり笑って、湯呑を受け取る彼女。
ひょっとして、ここに居てはいけないのでは。どう見ても恋人同士の会話。
そう思ったら、もう一人が帰って来た。
「おっ、気が付いた?」
長瀬さんが、女の人に声をかける。
「あれ? じゃあこの人は? あっ、今日来た子。ごめんね、こんな格好で」
そう言うと、ごそごそと毛布の中で服を着ているようだ。
「いえ。あっ。こちらこそ。すごくよくないタイミングで、来たみたいで。すぐ出て行きますので、ごゆっくり」
私でもさすがに気が付く。この雰囲気。きっとエッチの後なんだ。どうして2人いるのかは謎だけど。はっ、何かマッサージとか? それなら、おかしくはないけれど……。
「あのー。佐藤君に、マッサージとか何か、でも、受けていたんですか?」
女の人二人は、まじめな顔をして、顔を見合わせる。
「そうね。ある種マッサージだわ。受けると体調がすごくよくなるし。ストレスなんか、吹っ飛ぶというか、気にならなくなるしね」
笑いながら、布団の上にいる人。あっ、川瀬さんがそう言った。
「そうね。究極のマッサージだわ」
長瀬さんも、同意して笑っている。
「まあ。眠れないなら。ざっと、この村の説明でもしてあげる? どうせ、明日にでも案内をするんでしょう?」
「だけど、この時間だからな。軽く一杯いってもらって、寝てもらおう。みゆき。飲みやすそうなのを、一杯作ってあげて。炭酸系で良いだろう」
「あーそうね。じゃあ、そうしましょ。みんなも要る?」
「いる―」
川瀬さんも、手を上げる。
佐藤君の部屋には、新しい感じの本棚が作りつけてあって、色々なジャンルの本が並べられている。うん? 日本語だ。
「ちょっと、聞いていい?」
「どうしたの?」
「本棚の本が、日本語なんだけど、ここも日本なの?」
「いや。最近になって、持ってきてもらっただけで。ここは異世界。ここに住んでいる人は、みんな何かの原因で。亡くなった人間ばかりだよ」
「そうだよね。持って来て貰ったって、どうやって?」
そう聞いたところで、長瀬さんがトレイに、グラスを乗せて帰って来た。
「はい。これどうぞ。ベースは、ヤマモモのシロップ漬け。久美はいつものやつね」
きれいな、透き通るような赤い飲み物をもらった。一口飲んでみると甘口で、でもさっぱりしている。
「これ、好きかも」
「そう。よかった」
「さて。元の地球と、行き来するには、空間系の能力が必要となる。俺たちはたまたま、その能力を持っていて。こっちへ遊びに来ていた神地さん。神地行人という人と、連絡を取ることができたんだ」
「へーすごいね。どうやって、連絡を取ったの?」
「何年かに一度くらいは、顔を出すと聞いたから、精霊に頼んだんだ」
「精霊? この世界。そんなのが居るんだ」
「俺達には見えなかったが、地球にもいるみたいだよ。精霊は、今ここにはいないけれど、妖精ならほら」
そう言って、魔力を周りにいる妖精へ与える。そうすると、丸い形の妖精たちが光り始める。
周りを見回し「うわー」と言いながら、柳瀬さんは口を開けて見ている。
「すごい。魔法なの? さっきの光」
「さっきのは、単に魔力を放出しただけ。魔法は、魔素を魔力に変換するときに形。つまり、属性と機能を指定して出す。そうすると、次々に周りの魔素を巻き込んで、大きくなる。と、言っても最初に出した魔力量で、大きさは決まるけどね」
そう言って、手の上に氷を浮かべる。
「すごい。私も使えるの?」
うれしそうに、聞いて来る。
「力が強ければ。そのままでも、そこそこ使える。でも、まともに使おうとすれば、魔素への最適化ということを、しないといけない。そうすると、楽に魔法は使えるが、地球には帰れなくなる。あとは、この星の人になるから、避妊をしないと、子供ができる」
「へっ? 子ども?」
「そう。体を最適化していないと、子供ができない」
柳瀬さんが、少し赤いのは。酔っているのか、子供の話を聞いたからか?
「皆さんは、その最適化をしているんですか?」
そう聞かれて、二人とも首を横に振る。
「まだいいかなと思って、していないわ。子供が欲しくなったら、受けるけれど。ねぇ」
なぜか、こっちを向いて、そう言う久美。
「じゃあ、私もまだいいかな」
そう言って、グラスの中を空にする。
「じゃあ。お邪魔しました。戻って寝ます」
そう宣言して、柳瀬さんは部屋へと帰っていった。
部屋に戻ると、ベッドへもぐりこむ。
あの飲み物の為か、ふわふわして、気持ちが良い。
「子どもかぁ。良いなあ」
そんなことをつぶやきながら、私は、はじめてのむらでの、初めての晩を終了した。
はっ、こんなパジャマで、夜中に佐藤君の部屋へお邪魔しちゃった~。少し悶えながら寝た。
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