第67話 この村の役割を一つ増やそう

 彼女は教室で。俺の、後ろの席だった。


 つまり香織や相田、鈴原と馬鹿話をしている時。

 彼女はここに居たと、矢印が付きそうな所で、ずっといた。彼女はおとなしく、眼鏡をかけて静かな印象だった。


 佐藤君、ひどいと言った彼女は。眼鏡をかけておらず、一瞬分からなかったのは仕方がないだろう。


「瑠衣ちゃんどうして此処へ? 政治関係で神地さん連れてきた訳じゃないね」

「多分死んで。白い部屋に着いたと思ったら、いきなり『行け』と言われて。気が付いたら公園みたいなところに居たの」


「「死んだ? なんで?」」


 思わず、香織と声が揃ってしまった。


 そう聞かれて、彼女は言いにくそうにしていたが。

「あのね、佐藤君たちが居た頃からだけど、諸経費の引き落としができなくて、私だけ。封筒を貰っていたのは、知っているでしょう」


「うん? でもたまに、他の子も貰っていたじゃない」

「家は毎回で。その後も多分払っていないと思う。それで…… 3年生になってから、学校から何か言われたらしくて。……親が仕事をして、金を稼げって言い出して。ネットの、…… 売春あっせんみたいな所に、私を登録したの。…… 多分。それを見たんだと思うけれど。不良な子たちに、目を付けられて。襲われて。逃げたんだけど……。 ずっと追いかけて来たから、踏切。…… 遮断機をくぐったら、白い部屋へ。でも、くぐる前に。電車はまだ来ていなかったの絶対」


 柳瀬さんは、涙を流しながら教えてくれた。

 香織が柳瀬さんを抱き締め。背中をポンポンと、優しくたたきながら、「大丈夫だよ。怖かったね」となだめている。


「それより。どうして佐藤君や香織ちゃんが居るの? 二人のお葬式。私見たのに」

「この村は、そうして死んだ者のうち。割合だと何パーセントだろう。幾人かに一人位が、女神によって、転生する所。体は15歳くらいにされてね」

「そっ、そうなんだ。…… じゃあ。やっぱりわたし、死んだのね。でも、知っている人がいてよかった。ここなら。親たちからも、追いかけられないと言う事だよね」

「うん。それはそう。だけど、今は、帰りたいなら、帰る事は出来るんだ」

 それを聞き。彼女は必死の形相で否定する。

「帰りたくない。絶対いや」


 やっと長尾さんは、理解できたのか。じゃあそうしておくよ。とサムズアップをする。

「じゃあ、お腹は空いてない? 落ち着いたなら、食べていいから」

 そう言って、箸と皿を渡す。


「ここって、今。どういう状態なの?」

「えーと。そもそもは、饅頭を俺が食べたくなって。作っていたんだけど、いつの間にか、宴会と言うかバーベキュー大会になっちゃって。この状態?」


 周りの皆も、柳瀬さんの話を聞き入って、手が止まっていたが、

「これを食べな。貝の磯焼き。サザエとアワビだよ」

「こっちには、エビもある」

 そう言って皆が、色々と持ってくる。


 最初はびっくりしたようだが、徐々に表情がにこやかになり。お礼を言って頰張る(ほおばる)ようになった。


 そうか、良いことを考えた。


 柳瀬さんは、知り合いなのでと言う事で、家で生活を始めた。


 後日、国見さんが来た時に、柳瀬さんの事を話し、同じような境遇で、相談でも受けて、やばそうなことが確認出来たら。

 政府主導の神隠しを行いませんか? と話をしてみた。ここなら、絶対発見ができず。生活は出来る。

「もちろん。本人の意見重視ですけれどね。受け入れはしますよ」

 この事は、村人にも許可を取っている。


 ここでの仕事は、一次産業が主であり。今現在、皆手探りで仕事をしている状態。

 来てから、自分のしたいことを、探せばいい。

 学歴など関係ない。でも、最低限の学校は必要だな。


 その提案を聞いて、国見さんはひたすら「うむむ」と呻いていた。

 ただ。

「怪しいネットの事は、何とかするが、鼬ごっこでね」

 そう、言いながら、酒を飲んでいた。


「ここでの暮らしは、ある種。理想ですからね。今はなくなった、昔の暮らしと、人情がある」

 そんな事を、村長と語り合っていた。

 そんな2人の姿が、妙に印象的だった。




 白い部屋に居たと思ったら、突然。頭に響く『行け』の言葉。


 目が覚めると、公園みたいな所。

 刈り込まれた、草の上で寝ていた。


 訳も分からずに、道なりに移動する。

 看板に書かれた『村』へ向かい、変な人の立つ。村へとやって来た。


 村の入り口には、『はじめてのむら』と、ひらがなで書かれていて、立っている人に話しかけた。

「はじめてのむらへ、ようこそ」

 それだけ答え。その人は、まだ。

 前を向き。立っている。


 村の中からは、おいしそうな匂いが漂って来ているが、下手に入って。

 焼かれているのが、人だったりすると怖いわね。

 などと考えてしまう。


 そうして、村に足を踏み入れると。

 立っていた人が。

「村に入るのなら、こちらで、手続きをお願いします」

 そう言われて、入口の脇にある。鉄塔の立った小屋へと案内される。


「この用紙に、必要事項を記入してください」

 そう言って、A4サイズの用紙を渡される。


 カウンターには、書き方見本があるが、項目がおかしい。


 名まえ、年齢、性別、死因? 事故、病気、自殺、殺人。何れかに〇? その詳細? 見本を見ると、『私は、令和〇〇年〇〇月〇〇時頃。犯人「氏名」に刺されて死亡しました。他にも複数共犯者がいて「氏名」、「氏名」、…… です』などと書いてある。


 なんなのこれは? さらに、日本へ帰りたいですか? はい、いいえ。何れかに〇、またその理由? 見本には『帰りたい。犯人を野放しにしたくない』などと書かれている。


「あのー。此処は、いったい?」

「説明は、後でしてもらえますから、記入をお願いします」

 そう言って、只々担当の方は。にこにこしている。


「はい」

 とだけ答えて、記入をした。


 用紙を渡す。

「はい。結構です。では、まいりましょうか。そろそろ、焼けた頃だ」


 そう言って、村の中へと入って行った。


 すると、そこに煙? を上げる木の筒の傍に、見たことがある。

 いいえ。かれは、死んでしまったけれど、私のあこがれていた人。

 その人に、そっくりな彼を見つけた。


 そういえば、眼鏡をかけていないのに、目が見える。なぜかしら? そんな事より。あの人はいったい?  自分の境遇など、その瞬間に霧散し。思考はまとまらず、心臓がどきどき。していた。

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