第66話 村人の事情様々

 村の入り口に、簡易の役場を作った。


 と言っても、大した業務は無く。

 最初に作った住民台帳と、新規の人が現れたときに。登録をするくらいだ。


 担当者は、自称。門番NPCの長尾さん。

 相変わらず。時間があるときには、門に立っているから。お願いをした。

 希望を聞いて、役場の奥には実験室も併設をした。


 実験室と言っても本格的なものではなく、簡単な実験台とドラフトチャンバーと呼ばれる。排気装置付きの実験台程度。ドラフトチャンバーの排気塔は、20mほどの高さにしておいた。

 排気の途中に、チャコールなどフィルターは入れてあるが、くれぐれも、やばい実験はしないようにと、念押しはした。


 そのうち、遺伝子組換え実験とかで、P2とかの施設が欲しいとか、言われてきそうで怖い。まあ専門は化学だし、そんなことはないだろう。


 村の住人リスト作成時に、古くに居て。

 亡くなった方も、分かる限りは、リスト化した。


 村長さんと一緒の事故で来られたわけではないが、西の方へ探査に出たメンバーの一人は、日本で7年前に失踪していた方だった。


 ちょうど、行方不明の期間が7年以上になったため、普通失踪として申立てる失踪宣告処理を行うところだった。墓の場所を教えたら、日本から来た調査の方が、10人全員分のサンプルを持って帰った。あと3年。早ければ、生きていたのに。


 向こうで何があって、失踪をしたのか不明だが。こちらでは、明るい為人(ひととなり)で、みんなに頼りにされている人だったようだ。


 失踪していたことは、村長も知らなったようだ。


 そう言えば、日本へ帰り。犯人を訴えた女の子も、こちらに帰って来た。

 きちんと両親と話をしたうえで、再びこちらで暮らすこととなったようだ。


 詳細は不明だが、犯人が逮捕された折に、被害者一覧が流れたらしく。生活に支障が出たようだ。


 両親は、突然行方不明になった娘を探す。つらい生活を2年もしたため、かなり別れがつらそうだったが。

 現状を考え、娘が暮らしやすいならと言うことで、送り出してくれた。


 ご両親の様に、こちらへ来たい方を、国が取りまとめ。

 年に数回程度だが。催しとして、神地さんがツアーを組んでくれるようだ。

 当然一般向けではなく、関係者のみである。


 はじめてのむら饅頭を作るかと、みんなで笑いあった。

 そこで、話が出たために、饅頭が欲しくなり。作ることになった。


 材料は、薄力粉、ベーキングパウダー、酒粕、料理酒、砂糖、こしあん位なので、村で揃う。酒粕が入っている酒饅頭。ベーキングパウダーは無いが、重曹は海水を電気分解して苛性ソーダを作り、それに炭酸ガスを加えて結晶化をさせれば作る事ができる。

 だが精霊に頼み。簡単に生成して終了させる。

 酸性剤の酒石酸は、ワインの樽に付いている物が、もともと保存してある。


 多めに作り。村の宴会用かまどの一つを使って蒸篭(せいろ)で蒸していると、においのせいか、村人が集まって来た。

 蒸しあがったものから、順に振る舞っていく。


 誰かが、自然とお茶を用意して、みんなが笑いながら、お菓子を家から持ってくる。

 村長さんもやって来て、

「おや、本気で饅頭を売る気かい?」

 と聞いて来た。


「いえ、その話をしたので、食べたくなってしまって。つい作りました」

「私もそう思ったが、作り方を知らなくてね」

「それなら、おれの家に、今回料理の本とかも貰いましたので。見に来てください」

 そう言うと、他からも、貸してほしいと依頼が来た。


 調味料とかも、貰うか買うかした方がいいかな。

 なるべく、昔の日本での生活に近いほうがいいのだろうか? 

「今度、神地さんが来た時に渡すから、調味料とか、必要なものがあれば書き出し。村長のところへ、出しておいてくれるかな? ほか皆にも言っておいて」


「色んなものが、欲しいとは思うけれど。考えると、大体必要な物はすでにあるしね。この村で着飾ってもねぇ。ずっとすっぴんだけど、そのせいか、お肌の状態もいいし」

「そうなのよ。この村だと、花粉症もないし。なんで、なんだろう?」

「あっそれ。私も同じ。若返ったからかな?」

「いや、山のそばだし。違いは黄砂やPM2.5が、ここにはないのが、大きいのかもな」

「車がないから、排気ガスもないし」

「工場もない。あるのは自然のみ」


「お金もないから、悩まなくていいしね。あの月末の苦しみから、解放されたのは、うれしいわ」

「違いない。気楽に生活ができる。ここは天国だな」

 妙な方向に話が発展して、盛り上がっているな。


 蒸篭を出したから、肉まんも作ろうかな。

 と、言っても、中のあんこを肉あんに変えるだけ。


 すると。それを見られて、肉あんが持っていかれた。

 まるで五平餅の様に、幅1.5cm程の平たい竹串に巻き付け、小判というより大判だが。のされて焼かれ始めた。串付きのハンバーグだな。

 となると、酒が出てくるよな。まあいいか。まだ4時なんだがな。


 そんなことを言っていると、長尾さんが、新人さんだよと言って、女の子を連れてきた。あれ? 見たことがあるな?

「瑠衣ちゃん」

 こっちへ、焼くための魚介類を持ってきていた香織。

 突然、女の子の名前を呼んだ。


 相手も、目を丸くして驚いている。

 間で、訳が分からず。おろおろしている長尾さん。

 おいしそうな匂いの立ち込める中。そこだけおかしな空間が出来上がった。


 思い出した。

「ああ。うちのクラスの、柳瀬さんだ」


「佐藤君。ひどい」

 それが、彼女の第一声だった。

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