第2章 広がる世界

第50話 海は広いな

 港から村のみんなに見送られて出航。

 そして、順調な航海のはずだった。


 出航間際に、海にもモンスターが居るかもしれないし、急な浅瀬があるとまずいと言うことになり、バルバス・バウの部分に空間把握系の魔道具を付けた。


 詳細を見ることはできないが。何かが近づくと、距離に合わせ。

 徐々に音が大きくなる。警報を鳴らすようにした。


 甲板で、潮風を感じて感動したり。

 舳先で映画の真似をしてみたり。みんな楽しそうだった。

 だが、その状態は……。

 出港して、わずか数時間の事だった。

 俺たちはその後。

 海の村からの参加者。内村さん一人を残して全滅した。


「内村さん。あっ、後をお願いします。西へ。……西へと向かってくれ。後を頼む……」

 俺は、それだけを内村さんに言い残し、俺達は息絶えた。


 完……。



 船室にこもり。

 ベッドとトイレを、ふらふらと徘徊する。

 ゾンビと化した俺たち。船内は、地獄のような様相だ。



「いやあ。このサイズなら、小舟に比べて揺れが少ないし。ちょうどいい感じに、酔いそうですよね」

 内村さんは、出向前。港で確かにそう言っていた。


 もう少し荒れ気味だと。

 逆に酔わないらしい。


 強化されている体のはずなのに。

 何と言うことだと思っていて、ふと思いつく。

 魔素を体内循環させて、瞑想をしてみた。

 すると、半日もすれば。俺は復活した。


 シャワーを浴びて、操舵室へと上がっていく。


「おや。佐藤さん復活しましたか? さすがに、早いですね」

「魔力を使って、頭を強化しました。三半規管からのフィードバックも、最適化できたのじゃないでしょうか」


 冗談交じりにそういうと、内村さんが反応する。

「それは便利ですね」

 それだけ返して、何か悩んでいた。


 みんなが倒れたりして、何か作業をするときに不便なな事が分かり。

 もう一つ、方位磁針を作って、それとリンクさせる。

 簡単だが、方向を修正する装置を、考案してつけてみた。


 構造は簡単で、磁石の付いたプレートが、船の方向がズレたとき、センサーを押す。押されたセンサーは、信号を出して、逆に舵を切る。

 これだけの、簡単な構造だが使えそうだ。


 これなら、フロートをセンサーにして、フィンスタビライザーも付けれたのじゃないかと思ったが。すでに出港してしまった。今度つけよう。


 フィンスタビライザーは、船底近く。両舷に飛行機のフラップのような、金属板が突き出す構造。船の揺れに対応して、航行時の水流に対する角度が、自動的に調整されて、揺れを補正する。

 うん? 変に補正すると逆に酔うのか? まあ。今度試してみよう。



 何事も、トライアンドエラーだ。



 その後。順番に皆が復活してきた。

 そこで、内村さんが教えてくれる。

「今度。陸に上がると、地面が揺れている感じがして、酔う人が居ますので。覚悟しておいた方がいいですよ」

 ありがたい話を教えてくれた。

 当然皆の表情は、やめてくれよという表情全開。


 ここにきて、速度計を付けるのを、忘れていることに気が付いた。

 今度陸についたら、基準を計測して、作成しよう。


 まっすぐな溝に、水を流す。

 その上に、軽い何かを流して、時間当たりの移動距離を測れば、水流と速度が摺合せできるだろう。

 

「やっぱり。実際使わないと、問題点が分からないな」


 そんなことを、言った矢先。

 内村さんが、何か大きなものを釣り上げていた。


 船の後部へ、回ってもらう。

 ギャフという、金属製の大きな釣り針みたいなものに、ロープを付ける。

 さお先に取り付け。道具を準備する。


 ギャフを打ち込み。引っ張ると竿から外れる。

 そのまま、ウインチで巻き上げて、冷凍タンク側におろそうとした。

「血抜きをしますから、甲板におろしてください」

 指摘が入る。


 まず最初に、タオルで目を抑える。

 長い針金を、眉間にあたるところから突き刺す。すると、一瞬痙攣し、魚の動きが止まった。

 すぐに、尻尾を落として、鰓(えら)の所にも包丁を入れる。

 口に、海水をくみ上げるホースを突っ込み、少し置くようだ。


「内村さん。この魚何ですか?」

「いや。よくわかりませんが、記憶にあるマグロに比べて、目が大きいし、胸鰭(むなびれ)が長いから、メバチマグロでしょうか?」

 体長が1mくらい。

 言われたように、胸鰭が長い。

 確かに目も大きい。


「じゃあこれ。3年物くらいですかね。もっと釣って、冷凍しておきましょうか?」

「そうですね。村のみんなに、お土産ですね」


 回転魔道具に、ドラグ付きのリールを付ける。

 ドラグと言うのは、一定以上の力がかかると、空回りする機能のことだ。


 それを付けた糸巻きを、4つ用意する。

 船尾に竿先を改造して、クリップを付つけたものを用意。

 それに糸をはさむ。


 ある一定以上の、力が加わると外れるようにしてある。


 針には、白いゴム製の、ビラビラしたものを付けて、イカの疑似餌を作り、海に流す。


 これで釣れれば、回転魔道具に魔力を流すだけ。


 テーブルと椅子を、甲板上に生やして、座り込む。

 二人で乾杯しながら、かかるのを待つ。


 飲み物を飲みながら、ゆったりした釣り。

 釣れれば、竿先につけた鈴が鳴るはず。


 その時。リンと鈴が鳴って、一本の竿がしなる。

「よし喰った」

 そう内村さんが叫んで、魔道具に魔力を流しに行った。


 すごい勢いで、竿がしなると、ラインが外れた。


 やばい。持つかな? と、危惧した瞬間。

 「パン」と、軽快な音を立てて。糸が緩む。


「しまった。ドラグが強すぎたか?」

 釣り糸(ライン)にしていたのは、強度のある蜘蛛のモンスターの撚糸(ねんし)だったが、太さ2mm 位の太さでは、耐えきれなかったか?


 そう思っていると、少し距離はあるが。

 体にひれが4つ付き。尻尾と長い首を持った何かが、マグロを咥えて、海面にジャンプした後。海に潜っていった。


 内村さんと顔を見合わせて、「ネッシー?」と叫んでしまった。

 あの形は、エラスモサウルスに近かった。

 体長は10mほどで、小ぶりだが。

 俺は、先端下部向けに付けていた警報機を、急遽。全方位に設置。音は控えめにして、対象の距離が近くなれば、魔道ランプが全部点くようにした。

 5個。つまり5段階で作った。


 当然すぐに、皆に知らせた。

「この海には、恐竜がいるから注意!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る