第32話 ミシンと副産物
昼食後。
村のみんなを集めると、意外にも裁縫をできる人がいた。
作られたミシンを見て、半回転式だわと言って、珍しそうにしていた。
最近は水平釜式で、ボビンケースそのものが、ないらしい。
業務用は、ツノのない全回転式のボビンケースを採用していて、糸がからみにくいと言っていた。
今のところは、とりあえず詳しい構造が分からないため。
特徴を聞いて、構造を考えると言うことになった。
元服飾関係者の秋田さんと、柳瀬さんが。
「ミシンあれば、色々な物が縫えるわ」
そう言ってくれて、彼女たちに、一台ずつ預けることにした。
今。
村では、基本綿から糸を紡いでいる。
そのつむぎ方を変えて、多少ストレッチしたり。
特殊な。いくつかの種類の糸を作っているが、ほかの素材も欲しい。
俺の考えたイメージを、周りにいる妖精たちに教えて、繭を探すことにした。
すると森の中に、大量に繭があるところを見つけたらしく、教えてくれた。
直径10cm。長さ40cmはありそうな芋虫が居て。
そこら中に、空の繭があった。
妖精にお願いして話をする。
空の奴は、食べることもあるけれど、基本要らないと言う事なので、貰ってくることにした。
村のみんなを連れて来て、空の繭をどんどんもらって来る。
大鍋で煮込みながら、ついでに洗浄もした。
最初。糸が太いと思ったが。数本がくっついていたようで。煮込んでかき混ぜると、ほぐれて言い感じの糸が取れた。
その後。
糸を3~5本で紡ぐと、さすがに生糸よりは太く。20d~25d(デニール)ほどだった。
だが、それでも肌触りはよく、保温性もよさそうだ。
糸を紡ぎ、生地を作る。
張り切ったのは、秋田さんと柳瀬さん。
彼女たちは、ほぼ専任で。
型紙から裁断まで一気に引き受けて、村の服は一気に変わった。
特に、女性向けだが。
そのせいで。
「秋田さんと柳瀬さんが言っていたの。樹脂とか、ゴムとかが欲しいの。そうすると寄せたり、あげたりできるみたい。今はまだ。体が若いけれど、20歳超えると、たれ始めちゃうから」
みゆきが言うと、久美が目を吊り上げる。
「じゃあ何。私には時間が無いじゃない。持っていたブラがダメになって、ブラもせずに。もう3年なのよ。だめよ普人、お願い。何とかして。お口ででも何でもしてあげるからぁあ」
とんでもない事を叫びだして、大騒ぎとなった。
そこで、どっちにしろ必要だった。
ゴム製品を先に作る事にした。
樹脂や油からの混合物から錬成ができて、耐久性は不明だが。
そこそこの物が合成できた。混ぜ方により、硬さも調節できて、比較的いいものが作れた。
この時。
構造強化用に、植物のセルロースを混ぜて遊んでいたら、セルロースに熱を加えて溶融紡糸できる構造も発見した。
これにより、新しい糸も作成した。
それまでのミシン。
改良も進み。良いものになったが、足踏みの方が速度コントロールがやり易く、魔道具バージョンは、速度コントロールが、やはりネックとなっていた。
ゴム部品ができたことにより、テーパー部分に対して、押し付けるレバータイプクラッチを作った。
おかげで、ミシンの速度調整ができるようになった。
あまり、負荷のかかるような物には使えないが、ミシン程度なら十分使える。
座って操作。
膝でレバーを押すと、速度が変わる。
秋田さんと柳瀬さんが、使ってみる。
「使いやすいけれど、設置場所を考えないといけないわね。気が付くと、大股開きになるから、見せびらかすことになるわ」
そう言って、笑っていた。
これにより。今まで手では縫えなかった、ソファーやベッドなど。丈夫な布の縫製や、スプリングが、樹脂で簡単に作れるようになり、喜ばれた。
綿の布団は干していても、やはりせんべいになり、腰に負担がかかっていた。
各家に、ベッドが入り。
喜んでくれる人が、たくさんいた。
生活が、向上してきて。
いよいよ、平野部の開拓だが。
見に行った人たちが、広さを見て。
無理と、さじを投げてしまった。
次は、トラクターだな。
駆動用エンジンは、やはり回転魔道具。
クラッチプレートに、スプリングと樹脂を併用して、接続時のショックを軽減。変速を金属ベルトに、ゴムをコートしたCVTとした。走行用と、耕す爪を回す部分を、別にして、パワーを稼ぐ。
当然タイヤもゴムにして、金属プレートを埋め込んで、スパイクとした。
平原に移動して、使ってみると。
どんどん耕せたが、スピードは20km程度。
基本性能に問題はないだろう。
だが、区画は広すぎたかもしれない。
複数台を、レンタル形式で一つの小屋に置く事にした。
当然。自由に使える。
同じように、田植え機も作ってみた。
樹脂のポッドに苗をたてて、そのままプレートごとセットをする。
下部で、爪が苗をつかむと、樹脂板は大きくカーブをして、本体下部に収納される。
ポッドの個数分だけ一度に植え付ける。
これも思い付きで作ったが、うまくできたようだ。
さらに、畝立て機能付きや、畦塗機も使えそうだ。
収穫までには、コンバインを作る必要があるだろう。
だが問題が一つ。
確実に、村の消費量を超えるな……。
村長にそれを言うと、多い分には何とかなるだろうという事だ。
野菜の種類を変えるから、大丈夫だそうだ。
それに、時期もずれるから、何とかなるだろうとの事だ。
そう言えば、海辺の人たちもいるし。何とかなるか。
海辺の人たちは、困惑していた。
突然もたらされた、樹脂製のブイと網により。耐久性が大きく上がった。
定置網を張って、漁獲量も伸びた。
「最近村に戻っていないが、この一年。一体何があったんだ?」
「さあ? なんだか、精霊に助言をもらったやつがいて、大きく変わったらしい」
「港が欲しいな」
「そうだな。噂では、ほかの大陸に、人間がいるらしいぞ」
「なら船がいるな。大きな奴が……」
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