第23話 意図はそれぞれ

 取り合えず。

 皆に、殺人犯の事をお願いして、俺は放心状態で家へ帰った。


 留守中に、変わりがなかった説明を、たぶん聞いたと思う。

 部屋に戻り。

 布団に倒れこむ。


 この布団は、日本の物と違い重いのだが、お日様のにおいがする。

 俺が出かけていた間に、3人が干してくれたのだろう。


 寝ている間に、誰かに頭をなでられた気がする。

 周りにいる妖精から、警告はないから大丈夫だろう。



 どのくらいの時が経ったのだろう。

 外がにぎやかになって、村人の声が聞こえる。


 俺は、村長の家に行こうと起き上がる。

 顔を上げると、4人とも不安そうにこちらを見ていた。


「大丈夫?」

 久美に聞かれる。

「さっきよりは落ち着いた。村長の家に行ってくる」

 そう返事をする。


「顔は、洗っていった方がいいわよ」

 久美に、そう言われる。


「ずいぶん泣いたのね」

 言っている本人も、泣きそうな顔をしながら、優しく微笑んでくれた。


 顔を洗って、涙の後を消す。

 そして、家を出た。


 村長の家に行くと、見慣れない若い男が、うなだれたまま座っている。

 だが、その顔はひどく腫れて、ひどいモノだった。


「おお。佐藤君来てくれたのか。ちょっと治してやってくれ」

 村長に言われて、治療魔法を掛ける。

「治療魔法?」

 そう言って、捕まっている。男が声を上げる。


「ああ。魔法が、使えなかったんだろう」

「そうなんです。あのチャラ女神。使えるって言ったのに」


 それを聞き。

 みんなが、ああという顔をする。


「とりあえず。話は聞いたんですか?」

「いや、まだだ」

「じゃあ、君。名前とざっとの経緯を聞いてもいいかな?」

 俺がそういうと、その男は、ぽつりぽつりと話し始めた。


「僕の名前は、永峰一也。中3です。学校で、ずっといじめられていたんです。でも我慢して勉強も頑張って。やっと、推薦をもらえるという話が来たんです。喜んでいたら。どこからともなく。その話が漏れたらしくて、ナマイキだって奴らが言いだして。僕をいじめても、あまり応えないようだから、妹をさらって。写真でもばらまくかっていう話をしていたのを、たまたま聞いたんです」

 泣きながら語るのだが、辛くて言葉が詰まるようだ。


「それで、実行日もわからず、妹には気を付けるように言っていたんですが。あいつら昼休みに攫いに行ったらしくて、気が付けなくて妹の同級生から話を聞いて探しに行ったんです。そしたら、体育館の準備室で。あいつらの騒ぐ声が聞こえて、飛び込んだら。制服なんかも半分破かれて、泣いている妹が居たんです」

 ぐっとこぶしを握り。話を続ける。


「カッと来て、なぜか足もとに金属バットがあって、妹に襲い掛かっていたやつをぶんなぐって。その後、携帯で撮影していたやつをぶんなぐって。最後の奴はナイフを持っていたんですが、そのままぶんなぐって。気が付くとみんな、息してなくて。妹に俺のシャツを着せて、先生を呼びに行かせて。その間に、撮影していた携帯を壊して、落ちていたナイフで、自分の首を切りました」


 彼は、泣きながら。

「でも。気が付けば雲の上で、変な建物の前に派手な女の人が居て。お前たちは死んだから、自由に使う。魔法も使えるから、バイバイって。それで、こっちへ来て。気が付いた後。なぜか、目の前にいた、あいつらに殴られて、必死で逃げました。山の中を逃げ回っていたんですが、さっき、あの変な動物から助けてもらって、ここへ来ました」



「要所要所が、不自然だ。絶対女神が介入しているな」

 ついボソッと、言ってしまった。隣にいた長尾さんが

「やっぱり。君もそう思うかい? 実は、俺の時もおかしかったんだ」


「彼の話も。都合よく、話が双方向で当事者に漏れるし、都合良く足元に金属バットが転がっているっていうのも、ありえないでしょ」


 すると、永峰くんが、気がついたようだ。

「そういえば、あいつらは? 皆さんに、迷惑をかけるかもしれません」

 そう叫んだ。


 だが、村長が。

「ああ確かに、迷惑を掛けられて、私も殴られた。だが、彼らは、もういない。彼らは、死んでしまったから、安心していい」

「奴らが来たんですか。えっ、死んだ?」


 仕方がないから、俺が言葉を紡ぐ。

「ああ。村長に暴行していたから、殴ったら、死んでしまった」


 永峰くんは、目を見開いて驚いたが、すぐに力が抜けたようになり。その場へ、へたり込んだ。


「さてと。中学3年なら、家事も怪しいもんだな。きみ、料理とかできるかい?」

「授業でちょっと習ったくらいで、できません」

 村長が悩んでいる。そうだよな。しばらくは、目が多いほうが、よさそうな気がするな。

 でもうちは、女性が4人だ。どうするかな?


「俺が見ましょう」

 長尾さんが、手を挙げた。


「俺は一人で一軒使っていますから、人が増えても大丈夫です」

 そう、言ってくれた。


 その後村長に、西の山を越えたところに結構な平野があることと、探査隊の痕跡はなかった事。温泉も見当たらなかったことを説明する。


 すると、何日か前に。大きな音と地鳴りがしたことを聞かれ説明をする。

 川があり、その中腹が崩落したことを教える。


 途中まで道を作って、川に橋をかけたことを説明しておく。


「佐藤くん。列車に期待しておくよ」

 微笑みながら、お願いされる。やっぱり必要だよな。

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