第22話 隙間を過ぎれば

 何とか、山間の隙間を抜けた。


 すると、目の前に広がる広い平野。

 これは、報告情報だな。


 色んなものを、栽培するには、カモーンな環境。

 カメラが欲しい。


「人がいるかは、見えそうもないね」

 隣で目を細め、手のひらをかさにするように、親指側を額につけて眺めている。川瀬さん。

「でも、よさそうな土地。川もあるし」


「そうだな。水害への対策さえできれば、良さそうだ。報告するのにカメラが欲しいよ」

「そうね。まあ実際は、行ってみないと、どんなところか不明だけどね」


「さて。あそこまで行くのは、また今度にして一度帰ろうか」

「うん。さすがにお風呂も入りたい。水浴びしようとしたら、こんな所で泳ぐと寄生虫に感染するかもしれないって、脅すんだもん」


「池とか、沼とかはだめだよ。飲まなくっても、皮膚から入ってくるタイプもいるんだから。流れのある川なら何とか? かな?」

「へえ、皮膚から入ってくるのが居るんだ」

「学校で習わなかったっけ? 日本住血吸虫(にほんじゅうけつきゅうちゅう)とか」

「あー。習った様な気も、しないでもない」

 てへへ、と笑っている。


 こういう危険性は、今の状況なら、覚えておかないと、いけないんだけどね。


「まあ帰ろう」

 川瀬さんは、元気に歩きはじめる。


 途中で一泊して、やっと音のした川へと、帰って来た。


 すると先日渡った場所から、400m~500先で川が切れていた。

 消えたわけではなくて、崩落というよりは、どん!とその場所で、陥没をしたようだ。滝ができていた。


 危険だから、あまり近付かない方が良いが、興味が勝ってしまった。


 のぞき込むと、見事に柱状節理の6角形の頭が見える。川に削られて柱状節理面が出たため、節理面での崩落が起こったようだ。


 みんなご存じ。柱状節理は、マグマが冷えて固まるときに、ゆっくり固まると規則正しい。柱のような割れ目が出来上がる。たまたま今見えているのは、6角形だが4、5、7、8の角を持つなど、様々になることが分かっている。


 それで、この割れた面は当然もろい。


 そのため、今回。今見えている景色のように、水により底がえぐられて、ぱったんと倒れてしまったのだろう。


 下流側に回ると危険そうなため、上流側へ迂回して川を渡ることにした。


 どこがいいか選んでいると、妖精がやって来て、橋をかけると便利だよ。と言ってくるのが分かる。

 お願いすると、あっという間に、向こう側まで石の橋ができた。

 俺も、川瀬さんも、目が点である。


 行きの時にも、教えてくれれば楽だったのに。

 と思ったが、好意で教えてくれたのだ、今度は忘れずにお願いをしよう。有難いことだ。



 その後も、村へ向けて歩いて行く。

 そして、もう一泊。

「明日には、村へ帰れるね」

 村に住みだして、あまり長い期間ではないが、すでに家に帰るという気持ちが起こるのが不思議だ。

 彼女も、うんうんと頷いている。


 帰り道。森の中へ入っていく。

 そのついでに、村の方へ向かう道に沿って、木を切り倒す。そうして、道を作っていく。

 途中にある川にも、妖精に頼み橋を架けてもらった。


 そして、やっと村へ帰ると、雰囲気がいつもと違う。


 先日お世話になった、狩人の山中さんが居たので、話を聞く。

「今日。いや昨日かな、来た奴が殺人犯人だったみたいでな。被害者と一緒に転移してきたんだが、ナイフとかは一緒に来ていないから、被害者3人で、何とか撃退したらしい」 


「それで、その犯人は、何処へ行ったんですか?」

「山に入ったらしい」

「それじゃあ、被害者たちは?」


「今。村長の家だ」


「よし、久美は家に帰って。みんなの安全確認と戸締り。俺は村長の家に行ってくる」



 慌てて、村長の村に行くと、なぜだか、村長が殴られていた。

「ろくな物がない。もっと、まともな物出せや」

 などと口々に言いながら暴れ回り。村長さんは、蹴り転がされている。

 やっぱり、双方からの話を聞くのは大事だなと理解しつつ、土足ですまない。心の中で、村長に謝りながら、軽く暴れていたやつらをぶん殴る。


 うん、軽くだったよ。

 大事なので言いました。

 軽く殴ると、みんなたおれたの……。うん。


 こぶしを見つめて、ぼーぜんとする俺。


「えっ。俺。いま人を殺した?」


 起き上がってきた村長。

「おお。ありがとう。助かったよ」

 村長は喜んでくれるが、完全に惨劇の部屋だ。


 村長が怪我をしていたので、最近イメージができるようになり、発動できるようになった治療魔法をかける。自分で実験をして、治療で変に新陳代謝を活性化すると、免疫の過剰な反応が起こったり。細胞が腫瘍化するエラーが出た。細胞レベルでバランスのいいサイクルを意識して、適切にアポトーシス(自死)させる。

 怪我をして、血を止めるために血小板を増やし。

 血管を詰まらせて、死にそうになるなんて本末転倒だ。


 なんて、うだうだと講釈を頭の中でしているのは。むろん現実逃避だ。

 客観的に、自分のしたことが、まだ信じられない。


 こぶしを振るった。


 殴った感じも、あまりないくらいの力加減。だった。

 でも。相手は。

 それだけで、なぜか首が、半周回転をした。


 騒ぎになったので、当然村長が説明をする。

 俺は褒められ。

 人だったものは、共同墓地の隅っこに埋葬された。


 村長から、殺人犯と呼ばれていた彼を、探してくれと頼まれ。

 意識を広げる。

 すると、森の中に、ゴブリンから逃げ回っている人がいる。


「こっちだ。そのまままっすぐ行けば、道に出る」

 妖精さんに頼んで、声を届けてもらう。

 

 この前の狩人。

 山中さん。三城さん。藤川さんにお願いして、救出に行ってもらうことにした。

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