第20話
真っ逆さまに谷底へと落ちていく途中、ふいに腕を強くつかまれ、誰かに引き寄せられた。
硬い胸元と両腕に、がっちり頭を抱えられる中、ヴィクトリアはもごもごと呪文を詠唱する。
すると、下から猛烈な風が吹き上げて、落ちるスピードを和らげた。
ヴィクトリアを抱えた誰かも浮遊魔法を唱えたようで、二人とも地面にたたきつけられることなく、ふわりと着地することができた。
「大丈夫ですか?」
頭の上から気遣う声が聞こえて顔を上げる。
暗がりになれてきたヴィクトリアの目は、無表情のロイドを映し出した。
「あ、ありがとうございます。ロイド様」
ロイドは頷くと、体を離して上を見上げた。
「かなり落ちましたね」
「ごめんなさい、私のせいで」
「いえ」
「登れるでしょうか」
「どうでしょう」言いながら、ロイドは魔法炎を焚く。
真上にあるはずのつり橋が、ここからでは全く見えない。
「浮遊魔法を使ってもこの高さは厳しいと思います。それよりも、この広い谷底を探ってみましょう。どこかにつながっているかもしれません」
ロイドの提案にヴィクトリアも頷いた。
「おーい! おまえら」
歩きかけた時、頭上からレイモンドの声が響いた。
レイモンドもつり橋から飛び降りたようだった。
浮遊魔法を使って二人の目の前に着地した途端、ヴィクトリアに向かって怒鳴った。
「このばか! 不注意にもほどがある!」
「ごめんなさい。つい」
「怪我がなけりゃいいけどよ。全く、胆が冷えたぜ」
レイモンドはぶつぶつと文句を言いつつ、ヴィクトリアの頭をポンポンと叩いた。
谷底を少し歩くと、水の湧き出る場所についた。
ぷくり、ぷくりと岩の隙間から水が湧きだし、ちょろりちょろりと、か細い小川になって流れていく。
三人は立ち止まり、小川で喉を潤した。
ふいに右手の袖をつかまれて、ヴィクトリアは隣に立つレイモンドを見上げた。
「レイ? 怖いの?」
「は? 何言ってんだ、お前」
「だって、私の服の袖をつかんでるでしょ?」
「袖?」
レイモンドは両手をヴィクトリアの前に揚げてみせる。
ロイドは、目の前に背中を向けて立っている。
「じゃあ、この手は……」
ヴィクトリアは恐る恐る振り返り、短く悲鳴を上げた。
「ひっ! ケガレ人!!」
「ケガレ人だと!?」
レイモンドも同時に叫ぶ。
ヴィクトリアはとっさに手を振り払い、レイモンドが退魔法を放った。
轟音とともに、ケガレ人は近くの岩に叩きつけられた。
轟音が収まると、土埃の向こうに、きらりといくつもの赤い何かが光るのが見えた。
「うそだろ、おい……!」
「あれって! 数十人はいるわ!」
赤い光はケガレ人の目だった。
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