開拓者
紺灰
第1話 はじまりは校舎裏で
「クッソ。痛ってえ。こんな殴る必要あるか?」
暦上は秋とはいえ、未だ残暑の厳しい9月の末。
校舎裏の片隅で、少年が一人。
何か呟いているようだが、その様子は弱弱しく、か細い。
少年は今にもそのまま倒れこんでしまいそうだが、良く見るとそこまで大柄ではないものの、しっかりと筋肉のついたその体つきは立派なものである。
か細く見えるのは、体格のせいではなく存在感の、しかも一過性のもののせいであろう。
「ったく。思った事言うだけでこんな目に合うなんて、いい加減この学校にもウンザリだわ。」
「おいおい、そんな事言うなよ。仮にも俺の学校だぜ?」
「桐斗。毎回言うけど、お前の学校じゃねえんだわ。」
突然声をかけられたにもかかわらず、傷を負った少年は振り向きもせずに言葉を返した。
場合によっては失礼な態度であるが、桐斗と呼ばれた少年はこの手のことには慣れているのか口端を上げて近くの壁に背中を預け、両手を広げながら更に話しかけた。
「でもな、杏介。生徒会長である俺は、誰よりもこの発言に相応しいと思わないか?」
「思わねーよ。てか県立高校なんだから県のもんだろこの学校。」
「ごもっとも。まったく杏介は厳しいねえ。」
「思った事口に出してるだけだっつの。他のやつがおかしいんだ。」
そう言うと、杏介と呼ばれた少年はよろよろと歩き出した。
「杏介、どこ行くんだ?」
「保健室。」
「体操着、いるか?」
「頼む。」
「了解。」
二人は言い合いをしていた割に阿吽の呼吸で意思疎通を図ると、それぞれ別の方角に向けて歩き出した。
***
「ただいまー」
「おかえりなさい。って杏介、その顔どうしたの?」
「姉ちゃんただいま。冒険してたらちょっとな。」
「まったく。もう高3なんだから気をつけなさいよ?」
「ああ。いつもありがとな、姉ちゃん。」
杏介は玄関で出迎えてくれた姉の横を伏し目がちに抜けると、足早に自分の部屋へと入っていった。
***
「ああ、ミスった。顔の傷は見てなかったな。」
自室のスタンドミラーに顔を近づけた杏介は、顔の傷を認めると天を仰いで顔を手で覆った。
制服のYシャツについた血や汚れは落としたが鏡は見なかったために、杏介の証拠隠滅は失敗に終わった。
両親不在のこの家で、姉はいつも親代わりとして杏介の事を気にかけてくれており、杏介もそれを良くわかっている。
「姉ちゃんには心配かけたくなかったんだけどな。」
杏介の呟きは、杏介しかいないこの部屋に、空しく響いてそのまま消えていった。
かと思ったその時。
【お姉さまに心配をかけたくないあなたには、コチラ!『独立のすゝめ』980円がお勧めです。】
杏介以外誰もいないはずのこの部屋に、突如女性の声が聞こえてきた。
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