4 The Youth Assistant 2
「えぇ、そうです」
「ヨロズヤ?」
聞いたことがない名前に、
「10008と書いてヨロズヤ。漢字で書くと万屋。10000プラス8イコール10008でヨロズヤって呼ばれてる犯罪集団」
「犯罪集団?」
「小林さんって都警の刑事だったのに10008を知らない? 結構有名だと思っていたんだけど」
「俺は四月に捜査一課に配属されたばかりだったから」
「へぇ。都警ではアイよりも10008の方が有名だと思ってた」
一哉の物言いに満がむっと顔をしかめると、英知がたしなめた。
「一哉。小林さんに失礼ですよ。同じ小林姓でも、他人でしょう?」
「赤の他人だけどさ。同姓だと、なんか僕と同じレベルの情報を持っててもおかしくないって思わない?」
「思いません」
英知がきっぱりと否定する。
満も「なんやそれ」と思わず声に出して呟いてしまった。
どうやら一哉は満が自分と同じ小林というだけで親近感を持ってくれたようだ。
「10008って正体不明の犯罪組織。窃盗、殺人、密売などなんでも金次第で依頼を引き受けると言われている犯罪企画集団だけど、組織の構成人数は不明。わかっているのはメンバーがお互いを番号で呼び合っていて、組織のボスは877ってことくらい。関西を中心に活動しているみたいだけと、北は北海道から南は沖縄まで、あとたまにシンガポールやタイで起きた日本人がらみの事件にも関わっていた形跡があるらしい」
「877?」
英国軍事情報局MI6であれば007だが、組織の頭領であれば001や1とするのが普通だろう、と満は考えた。それがなぜ877という中途半端な数字なのかが理解できなかった。
「877で
宙に指で数字を書いて一哉が説明する。
「バナナ!?」
思わず満は吹き出しそうになった。
「10008はメンバーのコードネームが全部数字で、しかもなんか数字の語呂合わせでお互いを呼び合ってるみたいで、ボスからして
大喜利か、と満は呆れ返った。
「そのヨロズヤって組織が絡んでるって、どうしてわかるんだ? 鑑識が二日かけて現場検証をしたけれど、高橋吾郎と被害者以外が犯行現場に侵入した形跡はなかったんだ」
満はなんとか親友以外が犯人だとほんのわずかでも立証できるものがないかと眼を皿にして報告書を読み込んだが、見つけられなかった。
「犯行現場と思われる高層マンションのベランダではなく、屋上にバナナの皮が落ちていた」
「……バナナの、皮?」
食べる前のバナナならばともかく、バナナの皮となるとただのゴミだ。
「それは、カラスがゴミ集積場から咥えて巣まで運んでいる間に屋上に落としてしまったとか、風が強い日にゴミが飛んできたとか?」
「そのバナナの皮はとても珍しい品種で、シンキョウトどころか日本国内では手に入れることができない特別なものなんだよ。そしてそのバナナは、いつも10008が関係する事件現場の近くに落ちている」
「バナナの、皮が?」
一哉が物凄く重要な証拠を見つけたような口ぶりだが、満には理解できなかった。
どんなに珍しい品種のバナナでも、皮はただの皮だ。
「10008のボスが877って名乗っているのはさっき説明した通りだよ。ボスがバナナ好きなのかどうかはよくわからないけど、とにかく10008が絡んだ事件の現場にはバナナの皮が落ちている。多分、自分たちが事件を企てたことを依頼人にアピールするために、わざと現場に残していっているんだ。そうでなければ、今回のように犯人として逮捕された人が出れば、10008の犯行かどうかなんて依頼人は確認しようがないし、10008も自分たちの犯行だって証明しづらいからね。だから、依頼人だけにわかるように、事件現場に特定のアイテムを残していくんだ。現場近くにそれが落ちていても不自然ではないけれど、自分たちの犯行であると密かに伝えられる物。それが、バナナの皮ってこと。ここまではOK?」
「バナナの皮って、ゴミじゃないのか?」
「誰だってゴミだと思うよね? そこが10008の狙いだろうな。バナナの皮が落ちていたって、ゴミが落ちてるとしか思わない人がほとんどだよ。まさか最近起きた殺人事件で被害者や犯人がこのバナナの皮に足を滑らせて転んだりしていないかな、と考えることはあっても、これが犯罪組織が残した唯一の証拠だなんて誰も考えないよね」
「被害者や犯人がバナナの皮を踏んで足を滑らせるなんてことも考えたりはしないが……まさか、マンション転落事件は被害者が屋上でバナナの皮を踏んで足を滑らせてそのまま転落したとか!」
はっと息を飲んだ満が握りこぶしを作って主張した。
「アイ、その可能性はありますか?」
「いやー、ないだろう」
英知と一哉が口々に喋る。
『――――――可能性は0.2パーセント』
市松人形から人工的な抑揚のない音声が流れ出た。
アイが声を発するまでの間が、まるで「そんなくだらないことを自分に尋ねるな」と面倒くさそうに言っているように満には聞こえた。人工知能がそんなことを考えるわけがないとはわかっていたが。
「被害者が事件当日に屋上に行った証拠がないからなぁ。ま、0パーセントでなかっただけマシと思うよ?」
慰めるように一哉に言われ、満は恥ずかしさで肩をすくめた。
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