第104話 花の閉架室


 乾燥させた苺やオレンジ、ライム、姫林檎、キウイフルーツ、檸檬がふんだんに入ったハーバリウムやカーネーションとダリア、アイビーのミニグラス、南天と日本水仙、黄梅、レモングラスが飾られたグラスドームがまるで、百花繚乱な宝石箱のように店内へ多彩に訪問者を誘っていた。


 こんなにドライフラワーって飾り物として愛好できるんだというくらいに。



「ここ、花の閉架室みたい。花の蔵書を集めた外国の図書館の閉架室みたい」


 ドライフラワーの中には所々、スワロフスキーの細工もしてあった。


 時折、ドライフラワーの中から燦然とした、スワロフスキーのジュエリーが斜陽に反射して、きらびやかに光る。



「いい例え。花の閉架室。僕もいつか、閉架室で寝泊まりしてみたいな。孤独な夜を過ごして」


 店内にはドライフラワーの宵祭りが開かれていた。


 大振りの白い芍薬の花のキャンドルスタンド、野ばらをあしらったローズスポットのネームスタンド。


 スプレーギクで大胆に靡いた『Long time no see!』と書かれたウェルカムボード、ホウズキでできたハートのオプジェ、菫と白いレースフラワー、ローズマリーで象ったスクエアボトル、レース使いが可愛いブルーローズのフローラルボール、中にスワロフスキーの星型のビーズを埋め込んだピンクローズのラウンドグラス……。



「久しぶりだって。英訳も面白い。花園が久しぶりなんて」


 君の笑った顔こそ、秘密の花園に咲く、一輪草のようだった。


「こういう癒される場所にずっといたい。世の中の汚濁を背負うより、ずっと。私が私でいられそうになるから」


 私がドライフラワーの花園へ神隠しに遭っていると、君がふと私の頭上に何かを挿した。



「目を閉じて」


 気配を感じる前に目を閉じた私は事が終わり、気付いた。


 ああ、何か、髪飾りが頭の上に載ったんだ、と。花の王冠を私は店内にあった鏡で知った。



「これ、ドライフラワーでできた髪飾りなんだ」


 私の前髪のほうに桜の一枝とピンクローズ、ガーデンシクラメンといった、ピンク系のドライフラワーで仕上げられた髪飾りが夕風に靡いていた。


 入り口の隙間から春風が入ったためだ。


 綺麗、と言う前に彼は私の背中からギュッと抱きしめて愛おしんだ。



「桜の花もドライフラワーになれるんだよ。一本の樹もまた来春には再び芽吹く」


 ドライフラワーは思い出を閉じ込めた花だ、だから、懐かしいんだ、と彼は続ける。


「感性は僕が決めたい。誰から何と言われようとも。このドライフラワーに美を見出した人のように」


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