第28話 それでも、知りたい


 ある意味変な美化をしていたのかな。


 存在もしない透明な少年に恋していたのかな。


 いや、違う、女の子ならある一定の少年を過剰に美化したり憧れたり少女漫画の恋にどっぷりと浸かることはよくあることよ。


 漫画のイケメンを見て、現実にこんな男子がいたらいいのに、何で普通の男子ってあんなに馬鹿なんだろうって、思うじゃない。


 蛇がどういう生まれなのかはどうでもいいじゃない。




 近藤君の出鱈目かもしれないし、決まったわけでもない。お兄ちゃんだってあいつは父さんの隠し子だってありもしない法螺を吹いているじゃない。


 実際の蛇がお父さんの子供だったらどうしよう。


 動揺が隠せなかった。


 近藤君が言ったことがもし、本当だったら?




 哀しげな秘密を抱えたまま真君は言っていた。


 君には知らないほうがいい事実がある、と。


 真君は確かに変だし、人と違う。


 どうでもいい。


 違うよ、違うよ。


 真君を引き裂いている透明な城壁を崩したいだけなんだ。




 言葉が言葉でぶつかり縛り上げる、閉ざされた鍵を自由にしたいだけなんだ。


 話せる自由が欲しいだけ、欲しいだけ、欲しいだけ。


 どうかしている。


 思いの欠片を拾い、もうひとりの自分の声がして泣いてはいけない、という。


 泣いたら負け、永久に負け、と聞こえてきた。


 お誕生パーティーのときにみんなでじゃんけんをして最後にひとりで罰ゲームをしなければいけない、そんな敗走を味わうんだよ。


 泣いたらだめ。泣いてはダメ……。




 席を立ちたくなった。


 このままでは泣いてしまう。


 考える暇もなく教室を飛び出していた。


「ざまあみろ!」


 教室を飛び出すと同時に近藤君が大声で叫んだのが聞こえた。


 それはどうでもよかった。


 



 確認しなきゃ。確認しなきゃ。


 ただそれだけを思って三年生のクラスに向かう。


 すれ違いの様に先輩が小声で話しているのも気にはならなかった。


 話さないといけない。


 本来なら一年生が使ってはいけない中庭の通路を突き抜け、一直線に走った。


 



 すぐそこまで行けば三年生の教室だ。


 早く確かめなければいけない。


 呼気が乱れて目の前が真っ暗になる。


 立ち止まり、チャイムが鳴る音が聞こえ、心の中に釘を刺しているように感じた。


 こんなことをしまえば、また嫌な噂がたってしまう。


 落ち着け。落ち着け。


 放課後にでも話せばいいじゃないか。


 仕方なくクラスに戻る。ここまで自分の心が揺れ動いたのは初めてだった。


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