身を知る雨、少女

第7話 梅雨の朝


 朝の空は珍しく晴れやかだった。


 蛇は目覚めが悪い兄をよそにさっさと仕度を済ませ、食卓に座っていた。


 蛇は生気がない目で母が声をかけても、蚊のような声で仕方なしに挨拶をしていた。


 眠気を堪えながら歩いていると、見慣れた通学路はまだ十二分に湿っていた。




「おはよう!」


 莉紗の、朝から爽快な挨拶のおかげで多少気分は良くなった。


 セーラー服の皺を直してから私もおはようと返した。




「あのさあ、私の家に親戚の子が来たの。急に親の用事で半年間面倒を見なきゃいけないみたいで本当に迷惑だよ。それが親戚の子って男子なのよ」


「ええ、男子! 部屋とかどうするのよ」


 莉紗の眼は目玉親父みたいになっている。


 ああ、やっぱり。


 見知らぬ男子がのそのそと住みつくのはやっぱり耐えがたいんだ。




 莉紗だってこんなにびっくりして話を聞いてくれる。


 あんな親戚の子は一時間でも部屋にいたら追い出したくなる。


 女の子ならみんな嫌ってしまうだろう。


 そう、嫌ってしまう。それが当たっているといいんだけど……。


 何か嫌なものが頭によぎった。




「そう、その親戚の子って本当に変なの」


「どこが?」


 その話を少しばかり躊躇っている自分がいた。


 こんな爽やかな朝にベラベラと話すのもどうだろう、と思ったのだ。




「ねえ。莉紗。男子がリスカをしていたらどうする?」


 莉紗は話の流れで感づいたのだろう。これでもかと思うくらいの不愉快な顔になった。


 やっぱりそうなんだ。


 中学生になっても下品な替え歌を歌っている男子に悩みなんてあるのだろうか。


「あいつすごく変なの。だってすぐに泣きべそになるし、そう思えば難しい言葉を遣って、自分を強く見せたがっているしとにかく変なの。あとね、裏表もあるの」


「裏表もあるの! それならめちゃくちゃ最悪じゃない!」




 莉紗は思い描いていた反応を示した。


「だってこんな中途半端な時期に転校してくるなんて変だもの。絶対に何かがある。そう、莉紗も思わない?」


 すると、莉紗はウンウンと頷いて思ったとおりの答えを出した。


「絶対にそうだよ。ねえ、真依。あたしが先輩に情報を仕入れてくるから安心して。知り合いの先輩に噂話にすごく強い先輩がいるから、その先輩に聞いてくるよ。すぐに漏れるからその親戚の子のこともわかるよ、きっと」


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