さよなら2年C組

羽弦トリス

第1話ロッカー内の地獄

ここは中部地方の中京都第三高等学校。

弓道部顧問の田辺憲幸は、部活の指導を終えて更衣室に向かった。

田辺の担当の授業は物理で、一週間後定年を迎える。

田辺は教師歴38年。生徒に恵まれ、素晴らしい教師人生だったと最近、事あるごとに噛み締めていた。

現在日本では、荒れ気味の高校生に危機感を持ってもらう為に、政府が「命の授業」を始めたのは、3年前からだ。

彼は「命の授業」反対派であった。


教え子を殺すなんて、どんな脳ミソを持ったら出来るんだ!


幸い、田辺は何事も起こらず定年するはずだった。

田辺が着替える為に、ロッカーを開くとパサリと封筒が落ちた。


「……な、何故だ!この定年前の老いぼれに赤紙が届くとは」

田辺は震える手つきで、封筒を開いた。


「赤紙」とは、全国高等学校「命の授業」の、担当者になった教師に配られる真っ赤な封筒の殺人指示書である。これは、断ったり、代役を立てるとその教師は政府から抹殺される。故に「赤紙」が届いた教師は「命の授業」と言うデスゲームに無理にでも参加する事になる。


田辺は手紙を読んだ。

『2022年下半期全国高等学校、命の授業の担当者は田辺憲幸先生に決まりました。先生は担任の2年C組の生徒を一週間以内に日にちを決めて24時間以内に、殺せるだけ殺して下さい。全員殺害したら、国から特別褒賞金五千万円を差し上げます。ロッカーの中に武器を入れました。頑張って下さい』


「何が頑張って下さいだ!しかし、断われば私は殺される。定年前の私には、それほど体力が無い。前回の村正高等学校の寺前純子先生は助っ人を頼んだらしいが、私には他の先生を殺人者にしたくない。明日、朝礼で生徒に伝えるか。私に出来るのか?」


田辺はロッカー内の様々な武器が入っている。

そこに、タバコ状のモノがあった。

説明書を読むと、自信のない先生はこのタバコを吸って下さい。非喫煙の方は無理せず口の中で煙を溜めて吐いて下さい。

着替えて、ロッカーを施錠した後、駐車場に止めてある自分の車の中で、そのタバコ状のモノを吸った。

田辺は喫煙者であるため、肺に煙を入れた。

心が落ち着く。

さっきまでの苦悩がクリアになる。

定年前に花を咲かそうではないか。

明日、私を老害扱いしている生徒を皆殺しにしてやる。

このタバコ状のモノは特殊な薬剤がタバコの葉に染み込ませてあるのだ。


田辺は魔法のタバコを吸うと、校長に電話して明日「命の授業」をスタートさせると伝えた。

校長は、田辺の身体を心配した。生徒の事は残念だが生けるしかばねになる事を願うばかりであった。

田辺は、明日の事を思うと楽しみで、家族の待つ自宅へ車を走らせた。

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