2章

第20話 病院

 重たい瞼を開けると、始めに飛び込んで来たのは、白い天井だった。


「・・・・・・ん」


 ぼんやりとした頭は、それを見てもまだ上手く働かない。

 それでも今の状況を確認しようと、首を曲げて周囲を見てみる。


 すると周りには何台かのベッドが置かれていて、俺はその中の一つで眠っているのが分かった。


 衣服も『市街地』に着ていった登山用のジャケットではなく、病院で着るような病衣に変わっている。


(ここは・・・病院か・・・何故ここに・・・?)


 俺はさらに状況を確認する為、寝ているベッドから起きあがろとした。


 だが、


「っ、ぐっ・・・!!」


 身体を起こそうとした瞬間、腹に鈍い痛みが走る。

 耐えられない程ではないが、無理に動くのも危ない気がして、ベッドに戻った。


「ふぅ・・・」


 痛む箇所を抑え息を整えていると、部屋の扉が開き、動き易そうな黒いジャージに身を包んだ女性が入ってきた。


 彼女は、俺に気づくと直ぐに駆け寄ってくる。


「目が覚めたんですね!良かった・・・」


 そう言う女性の顔には見覚えがあった。

 ベッドに横になりながら彼女に尋ねる。


「あの、長田さんですよね?じいちゃん・・・俺の祖父、風音修造かざねしゅうぞうを担当してくれていた・・・」


 俺の言葉に目の前の女性が頷く。


「はい。修造さんを担当していた、長田桜子ながたさくらこです。あなたの事も覚えてますよ、風音鈴斗くん」


 そう言って長田さんが笑顔を作る。

 俺はそのまま続けて聞いた。


「会長達は・・・?俺はどうしてここに・・・」


 知っている人に会ったからか、疑問が湧き出してくる。

 そんな俺を手で制しながは長田さんは言った。


「落ち着いて。椿くん達なら無事です。宮住さんという女の子が足を痛めてましたけど、命に別状はありません。あなたに比べれば全然軽症ですから」


「そう・・・ですか・・・」


「ええ。だから安心して。今、先生を連れてきますね」


 長田さんは、その言葉を残して病室から早足で出ていった。

 そして、暫くすると一人の女性と共に帰ってくる。


 その女性は長田さんより年上で、長髪を後ろで束ねた一目で出来るといった感じの女性だった。

 加えて、どことなく顔立ちが会長に似ている気がする。


 彼女は、俺が寝ているベッドまで来ると話し掛けてきた。


「おはよう。気分はどうかしら?」


 俺は少し考えてその言葉に返す。


「悪くはありません。ただ、起きようとしたら腹が痛みました」


「そう。んー・・・やっぱり、いきなり全快って訳にはいかないか。植物から『採った』から効率悪いのかしら?もしくは・・・」


 彼女は口元に手を当てて、ブツブツと呟く。

 俺がその様子に困惑していると、長田さんが苦笑いしながら言った。


「先生、風音くんを・・・」


「ああ、ごめんなさい。今から診るわね」


 先生と呼ばれた女性は俺に謝ると、俺の病衣をまくり、腹の傷口を診察した。


 そして、それが終わるとこう言った。


「幸い、傷口は開いてないしこのまま塞がれば問題ないでしょう。跡は残るかもしれないけど」


「それは気にしません」


 動くのに支障なければ、傷痕なんて何の問題にもならない。

 俺は病衣を直し、腹をしまいながらそう答える。


 それを聞いた女性は、微笑みながら口を開いた。


「椿が、『風音くんは、傷痕なんて気にしないからなんでもやってくれ』って言ってたけどその通りだったわね。話が早くて助かるわ。今は、物資も人も足りてないから」


「はぁ・・・んっ、椿?」


 椿は、会長の下の名前だ。

 それを親しげに呼ぶこの女性は・・・?


 俺が疑問に思っていると、それを口にする前に女性が答えてくれた。


「私は、御薬袋棗みなえなつめ。こうなる前はこの病院で医者をやってたわ。御薬袋椿は、私の息子よ。よろしくね、風音鈴斗くん」


 そう言って、目の前の女性――棗さんは、会長とよく似た優し気な笑みを浮かべた。

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