第3話 始まりの光
「ふあぁー・・・」
大きな欠伸をして、念仏のように唱えらていく現代文を聞き流す。
(最後の授業がこれとか、確実に眠らせにきてるな・・・)
そう思い教室を見回すと運動部は勿論、文化系や俺のような帰宅部も夢の中だった。前の席の小野寺くんもわざわざ教科書を盾にして寝ている。
この授業の教師は、わざわざ注意するほどのやる気がないので無用な心配なのだが、変な所で真面目な人だった。
(いや、そもそも寝てる時点で真面目ではないのか?)
爆睡している小野寺くんの後ろ姿を眺めながら、そんな事を考えているとチャイムが鳴った。
それを目覚ましにして彼も頭を上げる。そしてこちらの方を向いて言った。
「いやーよく寝たわ!それで悪いけど後でノート見せてくんね?」
「いいよ。明日の休み時間にでも見せるよ」
「サンキュ」
そんなやり取りをしながら教科書を鞄に突っ込む。
今日は朝から思い出したくない名前を聞いて疲れた。早く帰って、とっとと寝よう。
そう思いながら帰り仕度をしていると、小野寺くんが彼に似つかわしくない、歯切れの悪い口調で言った。
「あのさ・・・」
「うん?」
「えっと・・・相場真司って知ってる?」
その名前が出てきた瞬間、無意識に鞄の持ち手の部分を思いっきり握り締めていた。
何故だ?
何故、小野寺くんがアイツの名前を出す?
やめてくれ。こっちはもう思い出したくないんだ。
『お兄ちゃんの・・・』
突然、後ろから女の子の声が聞こえた。
その声は、ここにいる筈のない人の声。
俺の妹、
そして彼女はある言葉を呟く。
(黙れ、黙れ、黙れ。俺には何にもない。アイツらなんて知らない。関係ない。俺は捨てられる前に全部捨ててきたんだ。思いだすな、思いだすな、思いだすな・・・)
頭の中で呪文を唱えて妹の言葉をかき消そうとする。
だけど、どれだけ必死に呪文を唱えても妹の言葉は残響のように響いてくる。
幼い俺を呪ったあの言葉を。
「・・・斗!鈴斗ってば!」
「・・・っ!」
小野寺くんの呼び掛けで我に帰る。
正面を見ると彼が俺の方を心配そうに見ていた。
「大丈夫か?顔色悪いぞ」
人と話していると落ち着いて来たのか、ようやく頭に響いてた幻聴が消えてくれた。
一息ついて小野寺くんに言う。
「大丈夫。驚かせてごめん」
「いいけど・・・というかアレ・・・」
小野寺くんが窓を指差した。そちらに顔を向けると教室に残っていた生徒は、みんな窓際に集まって空を見上げている。
「何してるんだ?」
俺は小野寺くんに尋ねてみる。すると彼はこう答えた。
「太陽がチカチカしてんだってよ」
「?」
教えられてもいまいちピンとこないので、席から立ち上がって窓へ近づく。
小野寺くんも俺に着いてきて、二人で太陽を見上げた。
「なっ、チカチカしてるだろ」
「本当だ・・・」
窓から見える太陽は不規則に明かりが強くなったり、弱くなったりしている。
空は快晴なので、雲がかかっているという訳でもなさそうだ。
(何が・・・)
「世界中で同じような現象が確認されてるみたいだよ」
いつの間にか近くに来ていた永瀬さんが小野寺くんと俺にスマホを見せる。
そこには、あるニュースサイトが開かれていて中国やアジア各国といった現在、太陽が確認されている東半球の国々で、同様の現象が起こっている事が載っていた。
「日本だけじゃないのかよ」
「うん。・・・何にも起きなきゃいいんだけど・・・」
永瀬さんが祈るように呟いたが、それに反して太陽は点滅を止め、酷く輝き始めた。
もう夕方だというのに、まるで昼間みたいな明るさが周囲を包んでいく。
更にそれで止まらず、輝きはどんどん強くなっていく。
「どうなってんだ!」
「分かんない!」
「眩しい!」
遂には目を開けていられないほど眩しくなり、叫び声が上がる。
細胞の一片までを光が刺しているような感覚がした。
そして目を閉じていても視界が真っ白に染まった所で俺達は、意識を失った。
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