レインブーツを履いた猫とブーツで散歩する犬

金木犀(๑'ᴗ'๑)

レインブーツを履いた猫とブーツで散歩する犬


 ある晴れた日の朝。

 誰もいない河原を散歩していると、川辺に流れ着いた長い靴を二足、三毛猫はみつけました。

 人間の子供が使うくらいのサイズです。表面はつるつるとして、押すと柔らかく曲がり、肉球を離すとすぐに元の形に戻ります。

 猫はその感触にやみつきになりました。何度もつるっとした表面を触り、爪を立てたり、押したりしているうちに、よしこれを履こうと思い立ちました。

 その靴を履いて、二足歩行で危なっかしくてくてく歩いていると、向かい側から尻尾を振って舌をはっはっとだしている秋田犬がやってきました。

「やあ、珍しい。猫さんが靴を履いているじゃないか。しかし、あいにくレインブーツだねえ。今日は晴れだから、そりゃあ変だよ、猫さん」

「変だって」

 猫はかちんときました。

 そして口の端を曲げて言いました。

「お前さんも同じ長靴を履いているじゃないか」

 顎でしゃくった秋田犬の足には、ゴワゴワとしていて、紐がグルグルと巻きつけられてる長靴が四足しっかり履かれています。

 内心、ブーメランしてやったと猫は思いました。しかし犬はきょとんとした顔を浮かべたのち、大口を開けて笑いました。

「なにがおかしいんだい」

「いや、猫さん。同じ長靴は長靴でも、僕のは革のロングブーツさ。そっちのレインブーツは雨の時ぐらいしか履かないけど、僕のは日常的に履くものなんだ」

「だからなんだい! 長靴は、長靴だろ! 同じ長靴じゃないか!」

 猫は顔を真っ赤にして怒りました。

 素敵な気分を台無しにされてしまったような気持ちだったからです。

「ごめん」

 犬はシュンと耳を伏せ、項垂れて猫に言いました。

「同じ長靴という形であっても、本来の用途とは違うから変だって言ったんだけど。でも、そもそも--」

 犬は口元を緩めて言いました。

「僕らが履くようにはできてないから、人間じゃない僕らが履いてる時点で変だよね。変でも、この靴を履いて、散歩するのが好きなんだ。猫さんは、どう?」

「うん。同じ」

 犬と猫はしばらく顔を見合わせ、すぐに笑い合いました。

 そして、どちらからともなく、お互い不格好な足取りで、散歩を再開しました。

 しばらくして、犬は振り返り、ひょこひょこと歩く猫の楽しそうな足取りを見て、ふふと笑いました。

 犬が正面を向くと、今度は猫が振り返って犬を見ました。

 四足のロングブーツを履いてノシノシと歩き去っていきます。

 その姿を見て猫は目を細め、喉を鳴らし、「またね」と鳴き声を一つ上げました。


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