アルルエル幼少期(8歳)

第12話 インフラ!

 女性のお助けアイテムを発明し続ける僕は、いつしか人気者になった。まぁ男の気持ちも痛いほどわかるが、だからと言って領分は弁えてるつもりだ。

 ガードの甘いところを見せれば「こいつ、俺に気がある?」みたいに考えるアホの事でしょ? わかるわかる。

 だから僕は幼馴染のリジーには強く否定の気持ちを表している。


「にゃあん、リジーにゃん。元気ないのにゃ、僕が慰めてあげるかにゃ?」


「アリー、リジーの事は放っておきなって。あたしのかーちゃんが言ってたけどオスの発情期は付き合うとこっちの身が持たないらしいぜ?」


 クララが男前の態度で言う。この狼っ子め!

 と言うか、リジーはクララ(特に胸元)を見るたびに前屈みになってるんだが?

 ここは男の気持ちをもつ僕が介抱してやらにゃ。

 一応? 元男としてはな。

 そんな感じで構ってやっているのだが、背後からは良からぬ話題で盛り上がる。


「チロルちゃん、アリーってリジーに気があるのかな?」


「え、それアタシに聞く?」


 眉を顰めたクララがチロルに話を振った。

 恋心なんて未だ持たぬ8歳女児の会話。

 いや、ここ最近誰に惚れた腫れただの聞くので頭はすっかり恋愛脳だ。やはり生理の発生は人を異性を強力に引きつける引力となり得るのか?

 いや、僕らまだ生理体験してないけど。

 身近な姉達がお年頃で余計な話を吹き込まれるのだろうな。

 実際僕もナナン姉から異性に対しての興味を語られたことがある。

 

 姉は脳筋なので強いオスが好きらしい。

 ただし自分の毛並みに自信があるので、それなりに面食いなようだ。いや、この場合は面食いというよりも筋肉愛好家の意味合いが強い。

 獣人のメスは毛並みを誇り、オスは『躍動する筋肉! 筋肉モリモリのマッチョマンの変態だ。力isパワー!』体の大きさとメスを守って体を張れるオスがこっちでの主流。


 なのでうちの父は引っ越してきた当時大層当たりが強かったそうだ。最近ではようやく努力が認められてきたのか、それなりの地位を築いていた。

 文官時代はペンより重いものを持ったことがなかったヒョロガリが、今じゃナルシスト張りに自分の筋肉に話しかける変態に早変わり。昔のことを思い出すたびに葛藤してる様だが、今更その風貌を同僚に見られるのは忍びないとか考えてるんだろうね?

 愛する家族のための肉体改造なら僕は全然アリだぞ?

 つーか、ほぼ僕のせいで父は筋肉モリモリにならざらなくなったのだ。ちょっとは労ってやるかな?

 なぁに、ちょっとした親孝行って奴だ。


 リジー? あいつは僕の介護で無事ノックアウトしたよ。

 こっちは顔より毛並みで優劣をつけるからな。

 僕的には心配する幼馴染の距離感で接していたんだが、どうにも刺激が強すぎたらしい。リザーディアンは獣人より少し変わった爬虫種族。毛並みより鱗の艶、尻尾のラインに惚れるって聞くが僕にデレデレになるあたりこいつは変わりものなのだろう。

 そういうことにした。僕に気があるとか間違っても思っちゃいけないね。男はもう卒業したのだ。今の僕はメスで、美人らしいから軽率な行動は控えなきゃな!


「おばさん、シシリーちゃんのお具合どうですか?」


「あら、アリーちゃん。いつも悪いわね」


「その、僕もいつかこうなるかって思うと気が気じゃなくて」


 本日シシリーはチロル団の活動をお休みしていた。

 発情期が来てしまったらしい。そりゃあんな見事なバディしてればな。多分サイズは一番でかい。

 クララも大きいが、それを上回るんだから。

 今はブラがあるから動き回っても痛くないが、なかったら地獄だろうなってくらい同じ女として気が重かった。


「ふふ、そうね。でもメスだからって誰でも彼でもこうなるわけじゃないわ。この子はきっと片想い中なの。私たちの種族って、少し思い込みが激しいのよ。情熱的って意味ね。対してアリーちゃん達のケットシーは少しクール。情熱がないってわけではないのだけど、感情を表に出すのが苦手な恥ずかしがり屋さんなのね」


 なるほど、思い当たる節はある。

 けど身近にラビリアンのオスなんていなくない?

 そんな僕の疑問はあっさり解決した。

 シシリーの母親からの爆弾発言によって。

 なんと意中の相手はリジーらしい。

 けど僕がいつも身近にいるからお話しできなくてモヤモヤしてるんだって。

 僕とリジーのどっちを取るか悩んだ末に知恵熱出して寝込んだらしい。これが恋煩いってやつか。


 え、僕。そんなにリジーに絡んでたか?

 全く記憶にないのだが。


「アリーちゃんもリジー君に気があるんじゃないかって思ってるのよ、この子」


「それだけは絶対にないです」


「でも、尻尾は言葉よりも素直よ?」


 尻尾の動きで感情を読み取られて困惑する。

 なんてこった! 僕はすっかり元男としての友情を育んでいたつもりだったが、身近のお友達を誤解させる様な行為に出ていたとは!


「にゃあん、おばさんも意地悪言わないでほしいにゃ」


「ふふ。アリーちゃんにその気がないのはわかってるわ。でもね、オスって馬鹿だから構ってくれるメスにその気があるんじゃないかって思い込む生き物なのよ。アリーちゃんは悪くないわ。勿論リジー君もよ? うちの子の妄想が招いた結果だから。あんまり心配しないで?」


「僕、シシリーに謝らないと」


「何を謝るの?」


「リジーにあんまり接触しないって」


「それじゃあ今度はリジー君が寝込むわよ?」


「にゃあん! それじゃあ僕は一体どうすればいいにゃ!?」


「ふふ、気持ちの整理は時が解決してくれるわ。だから今は寝込むシシリーのことを許してあげて? それと、謝罪は不要よ。なんせあの子の勝手な思い込みだもの」


 口の前で人差し指を立てて、シシリーのお母さんはウィンクした。

 オスだったらイチコロの破壊力がある。

 同じメスでもうちの母とは大違いだ。

 やっぱり僕は前世の記憶に引き摺られて顔で判断しちゃうんだよなー。非常に眼福でありがたい限りだが、この世にはこれくらいの愛嬌の持ち主は吐いて捨てるくらいにゴロゴロ居る。

 まるでその手のアニメみたいな世界だ。

 いい絵師に当たったなってのが僕の本心。

 モブに至るまで可愛いとか最高かよ。


 つーか、なんかの作品のヒロインとかじゃないよな、僕?

 今から怖くなってきたぞ。


 母曰く、興味があるなら10歳になったら魔法学園に通ってもいいとのお達しだ。

 正直今のチロル団を置いて魔法学園に赴くメリットがなんもないんだよな。

 魔法ならシシリーのお母さんにも習えるし。

 でも生まれた時に得意属性が決定してしまうこの世界において他の分野の魔法を学ぶのは最適だとされた。

 シシリーの属性は水、風、そして火。

 獣人属性で火を扱う魔法使いはそうそう居ないのだが、どうもそっちの才能が芽生えたのは僕のせいらしい。


 思い当たる節はある。

 水浴びが当たり前のこの環境下でお風呂相当の熱湯、温風での乾燥を実装したのは僕の魔道具だ。

 僕は生まれつき魔力的性が高いらしく、それが毛並みに表れてるらしい。そして生まれついた属性が全種類と多すぎて喧嘩してしまったのが虚弱体質の原因じゃもしれないとおばさんは指摘した。

 本来得意属性の反率する属性は苦手なものだとか。

 お互いが衝突しあって肉体を蝕んだ。それが産まれたばかりでまだ力の弱い僕が死にそうになった原因かもしれないとおばさんは指摘する。


 魔力は生命の根源なのだと説明されて腑に落ちた。

 多分僕はラノベの様に全属性を認知して使役しようとしていたのだろう。そこでしっぺ返しを食った。

 そう思えば納得出来た。

 でも魔法を使うたびに発情に近い感じになるのはまだ納得いってない。


 なので僕は魔法を使わずルーン文字を刻んだ刻印石を使うことで魔法の代わりとした。肉体を媒介にしないので負担がないのだ。

 天性的な魔力操作で己の肉体の延長線の様に魔石を自在に操る僕も大概イカれた存在らしい。


 と、話が脱線したな。

 僕が言いたいのは魔法についてのデメリットの話。

 僕の肉体は魔法の属性同士が反発する衝撃に耐えられない。その癖全属性の適性を持つから厄介ってこと。

 さらには魔法学園に通うには最低一種類の魔法の使役が出来ること。さらに僕は魔法の行使をする度にエッッな気持ちになる。

 このことから察するにそこまでして行くメリットはないよねって話だ。

 でも魔法は覚えたいよね、どうするか?


 こうした。


 ◇


「アリー、これは一体何事だい!?」


「あ、おかあにゃん。見ての通りだけど?」


「見て分からないから聞いてるんだよ!」


 母の驚きも尤もだ。僕が最初に着手したのはインフラの整備。

 街の家を一旦土塊つちくれに変えて更地にし、さらには下水道を完備。土を踏み固めた往来を獣人の足に優しい芝生に置き換える。

 そこはまるで草原の一角。

 でも伸びすぎてもアレなので長さは調節してある。ここが僕の魔道具の凄いところだ。

 そして一旦土塊に変えた土を元の家々に再変換。

 暮らしはそのままに交通の便、糞尿の始末。水浴びを室内でできるようにした。シャワーヘッド付き。勿論水かお湯かは手元のスイッチをひねるだけの簡単調整。


 まぁ集落の長を始め偉い人たちにめっちゃくちゃ怒られたので両親と一緒に頭下げに行った挙句に事情説明に奔走した。

 魔道具の出来は良いが、なんの説明も行わずにやったことが問題だった。まぁそりゃね、事情説明したら突っぱねられるのは目に見えていた。今なら子供の悪戯で済ませられる。

 大きくなってからの仕業だとテロ行為だが……大人達からの反応は上々だ。

 寒くなると毛並みの劣化が気になるしね。

 「もう工事した後だから撤去するのも時間の無駄だ」みたいな感じで嫌々使ってるみたいな口振りだけど僕は知ってるよ?

 もう手放せないくらい日常で必需品になっていることを。

 下水があるだけで貯水する必要もなくなり、水汲みの仕事が消えた。お水は魔法で出してるから魔物の糞尿入りによる疫病の撤廃、ついでに温水をいつでもどこでも使えるためか女性陣の毛並みは普段より良く思えた。

 

 獣人つったって、ほぼ人間ベースで耳と尻尾ぐらいしかついてないんだからそりゃ人間の暮らしが最適ですよ。

 僕はなんの悪びれもなくそう唱えるが、この集落の変化はこれだけには止まらない。


 集落の塀を高くして魔物の侵入を防いだり、良質な布を提供して独自のファッション性を磨いたり、とにかく野蛮で野生的な暮らしを撤廃した。

 勿論、オスの仕事を奪ったりはしない。

 オスの仕事はメスでも仕留められない様な近隣の大型モンスターの討伐だ。

 メスの仕事はオスが無事に帰ってこられるように家を守ること。

 僕の仕事はメスの手助けに一貫してる。

 当然オスにも使う権利を持たせることでメスばかりの特権ではないぞと主張。

 水道のあるなしは街の景観にも左右されるからね。


 今回僕がなんでこんな事をしでかしたかと言えば。

 これに尽きる。


「は? 魔法学園から講師を呼び込みたい? その為に集落を整えたっていうのか?」


「ダメだったかにゃ?」


「かわいい……じゃなくって、お父さんは無理じゃないかなと思ってる。いや、前と比べて十分と暮らしやすくはなった。けど向こうの人達は野生派獣人を蔑視してるんだ。そう簡単に考え方を覆せないはずだ」


「だからこの集落を見て驚く姿を見せたいのにゃ!」


「アリーはいつからそんなに悪戯っ子になったんだい?」


 父の困った様な顔のすぐ横で、今更何寝言をほざいてるんだと言わんばかりの母、姉1、姉2、姉3、姉4。

 僕の信頼は同性から地に落ちてるらしい。

 いや、発明の賜物ではあるけど。さんざん実験に付き合わせた結果だろう。

 チューノレとか、ブラとか、調理器具とかも作ったな。

 毛並み調整グッズとか、言い出したらキリがない。

 極め付けは集落のインフラ整備。

 もう前の姿は見る影もない。完璧にやりすぎた結果だった。

 子供の悪戯で済むレベルではなくなっている。集落のお偉いさん達も良く許してくれたものだ。美人ってだけで得だな。


「難しいかにゃ? 僕はお父にゃんにもこの集落は素晴らしい場所だって威張ってほしいにゃん。昔いた場所より全然いい暮らしだぞって誇ってほしいにゃ。惨めに思ってほしくないのにゃ」


「そんなことを気にして……いや、俺も悪かったな。何かにつけて昔のことを引き合いにして自分の心を誤魔化してた。そうだな、アリーの言う通りだ。俺がもっと今の職場を誇って、故郷に手紙を書くことにする。でもお父さんじゃ説明し切れないからその時はお手伝いしてくれるかい?」


「勿論だにゃ!」


 こうして僕は父を味方につけ、ハーゲン王国の首都ダッツから家庭教師を呼び込むことに成功した。

 これで新しい魔法の錬成陣ゲットだぜ!

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