第2話 紫という印
野津もさすがに日曜日は休んだが、気分は上の空。月曜日が待ち遠しいくらいだった。妻の史代も、夫の仕事の行動にもう口を出さない。諦めているのではなく、そのほうが夫婦仲はうまくいくことを結婚5年で学習したのだ。
その頃、加古は寝癖でアンテナを生やしたまま、独自に推理をしていた。報道である程度はわかったが、警察が秘密にしている部分も当然ある。面識のある篠崎さやか、そして弟の陽晴、痴漢被害者の品田風美。なぜ十文字は痴漢などしたのか、どうして殺されたのか。動機や犯人への手がかりがない。
痴漢をキーワードに検索を延々と続けた。「痴漢」では限定的なものしかなかなか出ないので、試しに「されたい」を加えてみた。信憑性の低い合意痴漢のサイトもいくつかあったが、ネットの「サイモンボックス」という質問箱のようなサイトに、なんと書き込み数9000件以上の表示があった。
「痴漢されたいのは異常でしょうか」「ときどきムラムラして痴漢されたくなって、電車でされるようにして触って貰ってます。これって変態?」「本当はセックスしたいのですが彼ができなくて、代わりに痴漢で性欲を満たしてます。生理が終わると、指でもいいからズボズボして欲しい。性欲強過ぎ?」
などいくらでも書き込みがあってキリがない。加古には刺激が強い書き込みばかりだった。9000件の2/3がなりすましの偽物としても3000件。ここで加古はハインリッヒの法則を思い出した。
その法則は「1件のクレームがあったら陰に29人の同様のクレームがある。つまり1人がクレームを言ったら30人クレームがある。そして更にその陰に300人の『失敗した』と思っているスタッフがいる。即ちクレームの300倍」
加古はこの法則を痴漢にも当てはめていいかも知れないと感じた。つまり1人「されたい」書き込みがあったとすると、その30倍の女性がそう思っている。また300倍の女性は「されてもいいと思ったことがある」という論法だ。
実質の書き込みが3000件として実数約9万人。その10倍は90万人。東京近郊とと大阪近郊など電車が満員になる地域で、女性の人口は2500万人ほどだが乗車して対象になるのは10代後半・20代が中心なので多めに見ても700万人くらいと試算。そうすると、9/700、約78人に一人は「常に痴漢されたいひと」90/700、約7.8人に一人は「されたいときもある、ないし絶対嫌とは思っていない」という勘定になる。20歳前後の比率はもっと高く正規分布の頂点付近という推測も成り立つ。
『多いな』と加古は思ったが真相はわからない。本当にこんなものかも知れない。更に更に検索を深めていくと、やっと、ある闇サイトに辿り着いた。YouTubeで『黒猫にゃあこ』というマスク姿の女の子が、
「にゃあこも変態なので痴漢されてもOKなんですけど、あくまでも合意の上でないとね」などの発言があり、コメントに、「痴漢されてもいいひとは何か持ってるとかね」というのを見た。
基本、ローターを装着したまま、平静を装うように何か(ゲームや日常生活の一コマ)をするという限りなく変態向けのようなコンテンツだが、ファンはいたって常人揃いのようにコメント上は見える。彼女のツイッターをフォローした上で、加古はネットの闇に手を差し伸べるようにアンテナを張って、ついに土曜日の深夜、とあるサイトを発見した。三鷹北警察、というか野津に連絡したいのだが、月曜日の朝まで我慢した。
週明けの朝、そそくさと出かける夫に、史代は声をかける。「わたしはいいけど、無理や危ない行動はダメよ」野津は「わかってるよ」と言い残して、久我山駅に向かう。
井の頭線久我山は、結婚前から野津が住んでいる町だ。杉並区の割には安い賃貸もあり、結婚を機にマンションに越したが、それでも安月給の野津には有難い家賃だった。
署に出勤すると、間もなく野津宛に電話が入った。事件の最初に会った従弟の加古だ。
「おもしろい闇サイトを発見しましたよ」
やや興奮気味の加古の声。
「ほう、どんな?」
「バイオレットピープル、という名の、合意痴漢グループのスレッドです」
「バイオレット、菫、つまり紫色か。主な情報は?」思わず野津も声が大きくなる。
「服装でもいいんですが、なるべく紫色の小物を身に着けるか手に持つのがグループの決まりということ。サイトの書き込みを見て、満員電車で痴漢プレイを。そして、このグループに対抗して、合意でも犯罪だから死ね、とか書き込むグループもいるようです」
「なるほど!それは興味深い。わたしは痴漢撲滅団体を当たってみようと思っていたんだ」
「バイオレットに対抗するグループと何か接点が見つかるといいですね」
電話の向こうで加古の声が弾んだ。
野津はMEAに連絡した。MEAとは、Molester Eradication Alliance の略称だ。痴漢撲滅同盟という意味になる。 幹部に繋げて貰い、内部事情は話せないと釘を刺されたが、都内某所で明日会う約束を取り付けた。
梶谷の死因は普段から鎮痛剤を大量摂取していることで難航したが、頭部打撲による脳内出血で、ほぼ即死と断定。似たような二例の案件もやっとデータが上がってきた。
「こういうの、あんまり手を出すと僕らも上司がいるので」とデータ班の男が苦笑する。
「いつもすまないな。今度一杯奢るよ」と野津が謝った。
書類によれば、
「年齢35歳、現場井の頭公園、死因頭部打撲による脳挫傷」「年齢42歳、現場武蔵関公園、死因頭部裂傷失血死」共通項は、「規模は違うが、駅付近の公園。頭部の怪我が死因。そして、二例ともMEAの顧問弁護士に捕まり、逃走して死亡」写真を見ると、みな頭部から出血していた。
最後の共通項が野津の心に突き刺さった。色川も同様の弁護士だからだ。というか色川はむしろ旗振り役なので、梶谷が三例目と考えても何ら不思議はない。しかし、犯人が同一なのか、グループの一員なのか、はっきりとした動機と手口は?必ず壁か壁状の場所で遺体が発見されているのも気になる。
加古に教わったバイオレットピープルのスレッドにアクセスすると、東京だけでも読み切れないほど痴漢希望女性の書き込みが多かった。
「ミニの中はいつも紙パンTバック。8時過ぎに高井戸で乗って渋谷まで通学。いきなりディープよろしく。なるべくフレアのミニにします」「おとなし目に見える30代OLですが、スカートの下は穴空きパンツです。7時半ころ大宮で埼京線上りの一番前に乗りますので誰かお願いします」「毎日中央線の上り8時台に乗ってます。前から3両目のドア付近。服装は主に紫のワンピかミニスカの大学生。ディープでもOKなのでお願いします」「山手線に池袋8時ころに内回り原宿まで乗って通勤してるので、ぜひ。いつも真ん中辺の車両に乗ります。タイトスカートの下、いつもノーパンです」
ディープというのは下着の中に手を入れてもいいという意味か?野津にとってはもう変態の大集団だが、ここまで多いと、
「LGBTと同じで、男女ともに痴漢プレイ好きな人種がいるので、合意の痴漢は犯罪じゃないよね」という書き込みもあった。
「痴漢は犯罪ですってなんだ。前に『非合意の』を付けてくれ」というのも。
社会が細分化されてゆくいま、ある程度の人数がいるマイノリティは認めてあげなくてはいけないのかも知れない。いや人数ではないか、と野津は思案した。犯罪性がなければ、法律さえも超えて、いかなるものも許していいのかな。MとかSというのも合意で凄いことするようだから。
「何見てんだよ」
岩田の声で我に帰る。
「加古くんに教わったサイトですよ。痴漢されたい女性が結構いますね」
「変態だろ」
「いやガンさん、一概に変態で片付けられないですよ。性的マイノリティを社会は認知したじゃないですか」
「そういう問題?いやでもこれがヤラセじゃないんだったら、紫色はキーワードになるな」
「そうでしょ。品田風美のハンドタオル。あと、篠崎さやかの薄紫のワンピースも気にはなります」
さやかはちょっと怒った表情で署に現れた。
「夜勤明けですよ。寝てないのに。手当も出ない用事で呼び出されて」
「いやあ、本当にすみません。どうしても直接確認したいことがあるので」
野津は両手を下に振り、とりなした。
「確認って、わたしは事件の被害者の元妻というだけで」
「だからこそゆっくり伺いたいことがありまして。それと、あなたがお子さんの前で話せない案件だと思いまして」
「さっさと聞いてください。早く帰って寝たいので」仏頂面である。
「あなたと梶谷さんはそもそもどうやって知り合ったのでしょうか」
「あのころ、わたしは三鷹に住んでいて、梶谷は吉祥寺の古い借家住みでした。あの人はアルバイトで立川によく行っていて、わたしの勤務先も立川でしたから、よく朝の電車で会ったのが出合いですよ」
「そこなんですが」と野津は慎重に言葉を選んだ。
「電車で、よく会った。それからどのように交際まで?」
「立川で一緒に降りたある日、『よく会いますね。今度お茶でも』って連絡先を書いた紙を渡されたんです。『バイト先だから気軽に電話して』とも言いました」
「なるほどそうですか。ただ、これなんですがね」
野津はバイオレットピープルの書き込みを見せた。
「あなたも紫がお好きでは?もしかして持ち物も。あ、きょうはハンカチが紫ですね」
「だから?」と言いながらさやかの頬は紅潮している。
「知り合ったのは痴漢がご縁なのではありませんか?」岩田が切り込んだ。
下を向いて黙考するさやか。そして決心したように、
「子供にはとても言えません。でも、そうです。二人共バイオレットピープルの初期ころのメンバーでした」
「だから梶谷さんもあなたも紫色がお好きなんですね」
「そうですが、梶谷のことは加古くんにですか?」
「ええ、紫のことだけではなく、『そう言えば、AVをたくさん隠し持っていて、半分以上が痴漢ものだったと思う』と聞きました」
「ただ、対抗勢力が怖くなって、結婚前にサイトはやめましたけど」
「でも今回の事件は、その対抗勢力が関わっている可能性があります」
花冷えと言うには早過ぎるかも知れないが、底冷えのする日だ。つい身震いをしたくなる。さやかに本音を確認して、岩田も納得した。
「お尻合いでのお知合いか」と岩田。
「昭和の冗談はいいですよ」
野津は苦笑して、
「黒猫にゃあこにも事情を聞きたいので、素性を洗って貰ってます」
「おいおい、越権行為にならんようにな」
「心配しないでください。最後は警視庁の案件かも、ですけどね」
ユーチューバーの黒猫にゃあこに連絡がついた。対面で話すのは勘弁して欲しいとのことで、電話で話したが、
「わたし20代前半ですけど、たくさん痴漢に遭って、変態だからそういうの好きで、Hとは別物なんです。彼氏いたときも痴漢されに行ったし」
「バイオレットピープルの存在は?」
「最近まで知りませんでした。ツイッターのダイレクトメッセでファンに教わりました」
「そのサイトの対抗分子というか勢力も最近知ったわけですね」
「はい。なんかLGBT差別以上の怖さがあるように思って、注意しようってなりました」
「あなたは現在、バイオレットピープルのルールで行動してる?」
「まあそうですね。だから余計に犯罪と決めつける人たちに気を付けてます」
今度、自分の番組でもちょっと話すとにゃあこは言い残し、電話を終えた。
火曜日の午前、都内某所の喫茶店でMEAの幹部と会う。店の窓から東京タワーが見える場所。葛城秀幾と名乗る白髪の老人が現れた。岩田と野津二人である。ひとりだと何があるかわからん、という岩田の意見に頷いた野津だった。
「警察が知りたくて話せることがあるかどうかね」と幹部が言う。
「まあ話せる範囲ということでいまはいいですよ」
「痴漢されたい、したい、というグループを認知していますか」と野津がかぶせた。
「まあね。そういうのは勝手にしろと思ってますが。ただし、グループの構成員と誤解して一般人に痴漢する輩がいるんで、それは絶対許せない。そういう奴は、できれば示談ではなく法で裁いて欲しいね」
「このバイオレットピープルの対抗勢力については?」
「少なくとも、ウチには関係ありません。痴漢でも生きる権利はあるから、死ねとまでは思わんよ」
「そうですか。その手先みたいな人物については?」
「だから知るわけないだろ。例え殺人を犯していても止めようがない」
これ以上聞いても意味がないという目配せをして、二人は葛城と別れた。
「仮に殺人と関係性があっても、証拠でもないとありゃ口を割らないね」と岩田。
残念だがいまは同意するしかない。
野津たち二人は、軽く昼食を済ませ、署に戻る前に3つの現場を見に行った。武蔵関へ西武線で行き、バスで吉祥寺そして中央線で立川の順番が時間のロスがない。
武蔵関公園は武蔵関駅から徒歩で5分もなかった。現場は壁状と言っても石垣のような場所だった。この公園に監視カメラは付いていない。石垣の上は民家だが、少々の音では聞こえない距離である。
「ここで大きな声も出さずに犯行が行われたら分かりませんね」と野津。
「駅から走れば、いま居る地点でも2分くらいか。殺人現場としても齟齬はないな」
岩田は手持ちの現場検証写真と照合しながら思案している。ここの被害者以外の下足痕は単数で26センチのスニーカー。単なる通行人のものかも知れない。
「まあ、よくこうも都合のいい場所があるもんだ。さて井の頭へ行くか」
駅近くのバス停から吉祥寺駅まで約15分バスに乗った。JRの下をくぐり抜けて南口の井の頭公園に向かう。
「ええと、野外コンサート場の裏はこっちか」と岩田は下った道を左へ行く。公園内の桜はもうすぐ咲きそうなように見える。急いで歩くとちょっと暑いくらいの陽気だ。長身の野津が普通に歩くと、岩田は早足になって汗ばむ。
井の頭公園はある程度防犯カメラがあるが、現場はその死角。
「場所としては犯人の計算済みか?」と岩田が呟く。
「でしょうね。このステージの裏面が現場となれば」野津が写真を覗き込んで言う。
「下足痕が多数ありますが、どれも誰でも持ってるようなブランドのスニーカーですね。ただ24~27センチと幅があります」
「ああ、男で24はまずないからなあ。男女のものと思うべきだ」
「この日の昼間、いくつかのバンドが練習していて、レディースバンドもいたそうなので、この下足痕では何の決め手にもなりませんね」
「ここも土地勘があれば駅から走って3分もあれば着くな」
二人は駅に戻ると立川へ向かった。梶谷光の現場だ。通称鬼公園はやはり駅南口から徒歩で5分。すぐそばをアンダーパスが通っており、車の走行音がかなりする。梶谷は無論土地勘があったから、病人でも走って3分あれば十分だ。ここは公園とは名ばかりの狭いスペースだった。
「この、鬼の顔の右目の辺り。厳密に特定できないがここに頭がぶつかったとされているな」岩田は写真と現物を照合している。
「ここは土砂降りで痕跡がほぼない現場ですしね」
「篠崎陽晴が言う通りなら、アンダーパスの上の歩道橋から裏道を抜けて、歩いても25分あれば奴のアパートだ」
「証言の信憑性がどうかということですが」野津は、ここでも咲きそうになっている桜を見上げながら言った。『本当に連続殺人だろうか』野津は自信が揺らいだ。
さしたる収穫がないまま、二人は三鷹へ戻る電車に乗った。
署に戻ると、しばらくして加古から野津に電話がきた。
「篠崎陽晴のブログを発見しました」
「え?どういうこと?」
「エンタグルメントというロックバンドのボーカルで、ワイズというのが彼です。陽晴だからワイズ。いや、暇な学生の僕でも散々探してやっとですよ」
「内容は見た?」
「もちろんです。ひと月に一度くらい、痴漢撲滅を言ってます。MEAでしたっけ?それとも違うようで、クソ紫の連中死ねという言い分もかなり論理的に書いてますね」
「ああ、バイオレットピープルの対抗勢力の可能性高いね」
「合意かどうかの合図が紫って、じゃあたまたま紫色が好きな女性はどうなるの、っていう主旨ですね」
「そうか。そういう言い方もできるもんね。いまこっちに来れるなら会いたいな」
「僕、浜田山なんで、これからウチ出てすぐ行きますよ」
「近いし、タクシー乗ってもこっちで払うよ」
「ホントですか、わかりました。すぐタクシー呼びます。少しでも推理に加われたら嬉しいです」ミステリー好きな加古のテンションは高い。
加古はパーカーだけで外に出ようとしたが、まだ春分前でさすがに寒い。とりわけきょうの予報は低温だ。すぐに裏起毛のトレーナーに着替えたころ、もうタクシーがアパートの前に来た。慌てて水で寝癖を直しながら、タクシーに乗る。
署の階段をスニーカーで駆け上がると、加古は「野津さん!」と呼ぶ。
「おお、早いね。誰にも言わなければという約束で内情も話すよ」
「うーん、まだ全然詰まないですね、この事件は。犯人がMEAでないとすると厄介です。色川はまったく絡んでないでしょうか。おそらく色川は陽晴の素性を知って、立川に来させたと思うんですが」と加古は前髪をくしゃくしゃにいじりながら考え込む。旋毛アンテナどころではない。
「いい推理だ。似た事件の犯人もじつは捕まっていない。1%だが、色川が資金をやってグループの誰か腕っぷしの強い奴が複数で犯行に及んだ可能性だってある」
「色川さんの腕の筋肉、気になります」
「どこで何のトレーニングをしてるかは、もうじきわかる」
「例えばジムだとして、そこ自体が色川の持ち物で、メンバーはすべて対抗勢力とか?」
「そこまでは考えてないけどね」
データ班が資料を上げてきた。
「30分で、ビンゴですよ。中野の加圧トレーニングジムです。色川の名義ではないですが、明らかに株は持っていて、経営にも口出ししてますよ。一例を挙げれば、もう満員と言いながら、色川の紹介だと入会できているんです」
「そうか、おもしろい。ただ、証拠が何もないな、その、殺人との接点が」
「そこなんですよねえ、いまのところ尻尾は出していませんね」
「色川に面が割れていない者が、反バイオレットピープルのフリをして中に入ればどうでしょう」と加古が提案する。
「誰もそんな暇はな」
い、と言おうとして、
「加古くん、まさかきみが?」
「ですよ。僕もこう見えて剣道二段。格闘系は未経験だけど、プロレスファンでもありますから」と笑う。
「いささか危険な仕事になるよ。まだ学生のきみだが警察はフォローできないし」
「演技し切ればいいわけで。もし身の危険があったら、和歌山の実家に隠れます」
加古の実家は和歌山の海浜地域にある。ひなびた町だが、景色はいい。高校時代から東京暮らしの加古は、1年に1回以下しか帰省しなかったが、両親はあまり文句を言わない。帰るよ、というと嬉々として迎えてくれる両親と妹だったが、三歳下の妹美海(みなみ)は最近、兄に対して指導のようなことを言う。
「お兄ちゃん。お母さんのことも考えて、夏休みぐらい帰りなさいよ。おばあちゃんも顔見たがってるから」というラインをしてきたりする。加古は苦笑するしかなく、「なるべくな♡」とか意味もなく♡をつけて返す。正直に言って、自慢の妹である。見た目と中身両方が可愛い、と思う。渋谷凪咲というアイドルに似てきた。高校生になって更にませてきたようだが、兄としては憎めない存在だった。いざとなったら、実家に居れば安全と思った。仮に身元がバレても、あそこまで訪れはしないだろうと。
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