果てしない願い
小此木センウ
1.ヴレリ
「それで、サリの望みは何?」
私の問いに、サリはうつむいた。
「叶ってからのお楽しみ、かな」
「えー? 気になるなー」
持っていた杖で肩を叩くと、サリは顔をしかめた。
「ヴレリ、その癖はやめろって言ってるだろ」
「しょうがないじゃん、このマント重くって。肩がこるの」
私は冒険者用の分厚いマントの端をひらひらさせる。サリの羽織っているのも同じだが、剣士と魔導士では筋肉のつき方が違うし、男女の体格差もある。
「誰かに見られたら顰蹙買うぞ」
「ここで誰に見られるってのよ」
変わり映えのしない周囲の景色を見回す。冬でもないのに葉を落として枯れかけた木々と灰色の空。魔獣以外の生き物には出くわしそうもない。
「つまんないなー。なんか魔獣も弱いのばっかりだし、飽きてきた」
上目遣いにサリを見る。
本当はつまらなくはない。サリといるのは楽しい。
お互い冒険者になってすぐの時期に知り合い、以来二人でやってきた。私たちの関係は単なる相棒以上だとは思っている。ではどんな関係なのか、それを口に出すのはこわくてまだ伝えられてない。
「文句言うなって。ほら、あれ見ろよ。城の鐘楼じゃないか」
サリの指差すはるか先に、何かの建造物があった。
「……確かにお城みたい。第十三番聖典に書いてあったの、嘘じゃなかったんだ」
「そりゃそうだろ。聖典なんだから」
「じゃあもう一つも」
サリは静かにうなずいた。
聖典とは、人が生まれる遥か以前から遺されている書物で、今までに十二冊が見つかっている。そのいずれもが、正確な未来の予言、革新的な魔法技術、産業の大発展をもたらす発明など、私たちに多大な恩恵をもたらした。当然、聖典の発見者はとてつもない富と名声を得ることができるから、それを目標とした冒険者も多い。
そして信じられないことに、私たちはある廃城の探索中に十三番目の聖典を見つけてしまったのだ。そこにはこう書かれていた。
「この文を読む者に、忘れられた城への道が開かれる。城を訪れた者には、その望みが一つ叶えられる」
逡巡の末、聖典を街に持ち帰る前に「忘れられた城」を目指そうと、私たちは決めたのだ。
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