プロローグ

 関所にて手続きをするボク達。手際良く鮮やかに書類を書いていくルーブル、こんなことボクには出来ないよ。改めてボクの選んだ人は優秀だと思う。


「冒険者2人か・・・通って良し」

「どーもっ!ここがシャンゾル王国だよ、ルーブル」

「おお、随分遠くまで来たもんだな」


 目の前に広がる田園風景。ここはシャンゾル王国だ。何でも建てられてまだ50年ぐらいしか経ってない新しい王国との事。


 ルーブルの予習情報によると領地を持ったお貴族様がたくさんいるんだとか・・・相変わらずルーブルの勤勉さには感心するけど先に分かったら面白くないじゃないか。


「広い穀倉地帯だな、田舎のブレベスじゃ考えられん・・・」

「ボクの故郷でもね・・・それよりルーブル、こっちだよ?」


 そう、今回はロザリスの町に遊びに来た。以前ゼルベの町のギルド・ラジムから追い出された時ボクとクローデュ・リィロ・シルとのパーティー「ライオネス」の4人でこの国に来た事があった。あの時は追い立てられてたからすぐ近くの国に行く事しか頭になかったなぁ。



 ◇


 ボクとルーブルは今大陸の向こうにあると言われている「エーゼスキル学園」を目指して旅をしている。その目的は「念属性」の正体を調べるためだ。


 この世界では「七鬼学セプテム」という、人体の生命エネルギーである「鬼力きりょく」を扱う技術がある。その力は光・電・火・風・水・土・念の7種類の属性を元にしたスキルがある。


 ボク達の属性は7つの中でもよく分からない「念」だった。他の6つの属性のような自然のエネルギーを使う事は不可能。分かっているのは偉い人の言葉で「対象周囲の分解と結合を司る禁断の力」って事だから何を言ってるのか解らないよ。


 ちなみに同じ念属性でもボクとルーブルの力の使い方は違うようだ。

 ボクが使えるのは「反発力」を利用したバリアーを張るスキル。

 ルーブルが出来るのは手を使わず小さな物体を動かす「念動」だ。


 ルーブルの故郷ブレベス村では念属性はハズレ属性ってバカにされるぐらいで済んでいるようだけど、ボクの故郷アルクア村では「念属性は悪魔の力なり」と言われていて属性を持っていると村を追放される。追放されたボクはたまったものじゃなかったよ。


 だからボク達は普段から属性を偽って行動している。他の冒険者達の前ではボクは地面を利用するスキルを使う事から「土属性」を、ルーブルは念動力のスキルから「風属性」を名乗っている。


 同じ属性を持つルーブルとクトファの町で出会ってから色んな本を見て調べたけど念属性の正体が何であるかはとうとう分からず終いだった。


 しかしその中で「七鬼学セプテム」を専門的に研究している「エーゼスキル学園」の存在を知る事が出来た。そんな研究機関ならボク達の属性の正体も分かるかも知れない。


 問題は大陸の向こうにあるという事しか分からないけど、急ぐ旅でもないのでのんびり観光を兼ねて旅行している。パーティーを組んでいた時とは違って2人っきりなのでお気楽気分だ。


 ◇



 2~30分歩いたところでロザリスの町に到着する。クトファと同じぐらいの大きさだけど今日はなんか大人しい?ちゃんと時期に合わせて来たのに。


「ここがロザリスか、話に聞いた通りでなかなか大きいな」

「あれぇ?おかしいなぁ、前に来た時はもっと賑やかだったんだけど・・・そこのおじさん、今日は収穫祭やってないの?」


 道行くおじさんを捕まえて話を聞いてみると、


「ああ、最近モンスターが一気に増えたとかでギルドが厳戒体制を出してなぁ・・・こちとら非戦闘員も自粛しとるワケだ、エライ時にきたもんだよアンタ達も」

「そっかぁ・・・ありがとぅおじさん」


 肩を落としてしまうボクにルーブルが語りかけてくる。


「収穫祭?そんなのやってたのか?」

「うん、前にクローデュ達と来た時はちょうどお祭りの真っ最中でそれはもう楽しかったんだけどね・・・せっかく来たのに残念だなぁ」


「仕方ないな、それじゃ行き先はギルドに変更だ」

「はぁ~遊びに来たのにさっそくクエストかぁ・・・」


 ボヤきながらボクはルーブルをギルドに案内する。




 ロザリスのギルド・グラーナ、ダンジョンを2つ持ってるから所属している冒険者の数が多いらしい。受付の女の子に手続きをお願いする。


「外国からの参入ですか?ギルドカードを出して下さいな」

「ボク達、旅をしてて・・・少しの間お世話になりまぁす」


「ぇ、元Aランク??そちらの方は荷物持ちのようですけど・・・同じランク??」


 女の子がボクのギルドカードを見るなり驚く。そう言えばカードには前パーティー「ライオネス」だった時の情報も書かれていたんだった。


 確かに戦闘をしない荷物持ちがAランクなんておかしな話だけど・・・受付の娘の態度にちょっとムカついたので言い返す。


「失礼だなぁ、彼は間違いなくAランク・・・いやそれ以上の才能を持ってるんだ!」

「止せウィルマ、驚くのも無理はない・・・実は彼女ントコのパーティーがAランクにまで上り詰めたから便乗させてもらっただけだ」


 ルーブルはトラブルを起こさないように穏便に説明する。ボクは思わず反論しそうになるけどボクの手を優しく握りしめているのでそれもできない。こんなのズルイよ。


「そ、そうでしたか・・・それは失礼しました、それでお二人のパーティー名は『ライオネット』で現在はEランクですね?」

「うん、間違いないよ」

「では少々お待ち下さい」


 受付嬢が手続きのために引っ込む。この「ライオネット」というのは前に立ち寄ったゼルベの町で申請したものだ、その時の事を思い出す。


 ◇


「ルーブル、その名前は?」

「勝手に決めてしまって済まん、『ライオネス』はクローデュ・リィロ・シルの3人を加えての名前だ、解散したとはいえそのまま使ったら彼女達に申し訳ないような気がしてな?名前の意味は『小さなライオン』または『若いライオン』ってトコだ」

「ライオネットか・・・2人っきりのボク達にはピッタリだね?」


 ◇


 彼のこういう気遣いはホントにスゴイ。できればその優しさはボクだけに向けて欲しいところだ。

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