お貴族様の長男、つまり後継として生を受けた主人公。約束された未来、安定した暮らしはしかし、ある日突然、弟が「加護」と呼ばれる別な力を覚醒させたことにより危機を迎える。実直で、誠実で、天才な弟。国の風習的にも彼を後継にという声が高まっていく。
そんな状況で、兄である主人公に出来ることはただひたすらに努力を続けることだった。
やがて時を経て、兄弟が直接対決し、雌雄を決する日を迎える。努力か才能か。国全体の考え方をも変えかねない転換点。勝負がついた時、そこに立っているのは——。
一人称で丁寧に綴られる物語。作り込まれた世界観でありながら読みやすさを損わないため、隅々まで物語の世界、そして魔法を堪能できます。また、何気ない1つ1つのシーンにも意味があって、読み進めてみると「なるほど!」と思わず唸ってしまいました。
物語はおよそ、魔法を使った大会の模様を中心に進みます。努力の末に手に入れた最強の魔法で、向かい来る敵を倒していく姿は爽快感抜群。また、主人公の力が“与えられた力”ではなく“勝ち取った力”であるため、己の力に造詣が深く、不足の事態にも創意工夫で対策していく。謙虚で嫌味のない、どこまでも読みやすい印象を受けました。
日々研鑽し力をつける主人公は、当然、魅力的。彼を取り巻く周囲の人々もきちんと“理解”があって愛がある。そのため、身内に「やな奴」が居らず、安心して読み進めることができました。
そして迎えるライバル——弟——との対決。主人公の人生は弟に勝つための日々そのものと言っても良いでしょう。その弟がまた好青年で、主人公との確執がないことも好印象。周囲の評価など気にせずに彼と積み重ねた日々が、主人公にとって文字通り「希望」だったわけですね。大会最終盤の胸熱バトル展開と、主人公・弟の奮闘…。ワッとなって、エッとなって、グッとくること請け合いです。
個人的には固定概念を覆すという他にも、弟さんの秘密にも納得できる要因とテーマ性が感じられてその辺りも好きでした。
深みのある世界観と読みやすさ。嫌味のないキャラクターたちが描く、後味の良い大会の結末。ここから物語はどのように広がっていくのでしょうか。今後にも大いに期待できる、異世界ファンタジー。必見です!