第18話 魔王、国内外を巡るのじゃ

 ラグラの木の件が解決して数日が過ぎた。

 森は未だ解放されておらず、街中を騎士や衛兵がうろついては商人の馬車や倉庫を調べて回っておる。


「表向きは盗賊団の摘発と言う事になっていますが、アレを探しているのは間違いありませんね」


 アレとは勿論ラグラの木じゃ。


「リンド様、今日はどちらに?」


「そうじゃの、今日は北方の魔物でも狩っておくとするか」


 町を出たわらわ達は、人のおらぬ場所に移動すると転移魔法でこの国の北方に出る。

 目的は魔物退治じゃが、ただの魔物退治ではない。


「おお、おるおる」


 飛行魔法で上空から眺めると、明らかに不自然な規模の魔物の群れが見えた。


「ここの貴族も国王とはソリの合わん派閥と言う事か」


「そのようで」


 ここ数日、わらわ達は国内に増えた不自然な規模の魔物の群れを討伐して回っておった。

 というのもこの魔物の群れは国王が我等魔族の領域に攻め込む為の戦力として育てているものだからじゃ。

 さらに言えばその裏には宰相であるヒルデガルドが糸を引いておるのじゃが。

 魔物の育成が進むと、せっかくの平穏が失われてしまうからの。

 メイアの部下の情報をもとに魔物の群れを片っ端から殲滅しておるのじゃ。

 たまに本物の普通の魔物の大群に出会う事もあるが、まぁ誤差じゃ誤差。


「しかし民を危険に晒すとは感心せんのう」


 民は国の肉体そのものじゃぞ。それを大事にせんでどうするか。

 わらわは上空から攻撃魔法で魔物達を殲滅すると、素材回収の為に地上に降りる。

 折角倒したのじゃから、利用せんと勿体ないからのう。


「リンド様、負傷者がいるようです」


 メイアが倒した群れの近くを指差すと、そこには数人の冒険者らしきもの達の姿があった。


「治療しますか?」


「任せる」


 すぐにメイアが負傷者の治療に向かう。

 勿論わらわもメイアもフードを目深にかぶって変装しておるので正体がバレる心配はない。

 何故変装するのかじゃと? そりゃアレじゃ。わらわ達は別の町で待機しておることになっとるからの。北方に居たら不自然じゃろ?

 あとあとわらわ達がここに居た事がバレると移動時間的な意味でごまかしが効かなくなるからのう。

 念のため変身魔法の波長を変えて別の姿や髪色に換えてあるので、変装を解かないといかん場合でも大丈夫なのじゃ。


「あ、あの……」


 魔物の回収をしておったら、先ほどの冒険者達がやって来た。


「何じゃ?」


「助けてくれてありがとう。君達が来てくれなかったら俺達は魔物にやられていたよ」


「こちらも魔法の実験に丁度良かったから気にするな。一応確認しておくが、獲物を横取りしたとは言わんよな?」


「い、言わないよ! 命が助かっただけでも十分だ! それにしても凄い魔法だな。あれだけいた魔物があっという間にこんなになっちまった」


「まあの。強力な魔法じゃが、強力過ぎてこういう時くらいしか使いどころがない魔法じゃ。それゆえ実験には丁度良かったがの」


 ちなみにこの姿のわらわ達は旅の魔法研究者と言う事にしてある。

 強力な魔法を使えるのも古い魔法の再現や新しい魔法の実験をしているからという設定なのじゃ。


「助かったよ、本当にありがとう!」


 若き冒険者達を見送ると、わらわ達は彼等とは逆の方向の町に向かう。

 勿論変身魔法で別の姿に変身してからじゃ。


「ようこそエリゴラ商会へ」


 次にやって来たのは少々規模の大きい商会じゃ。


「うむ、商品の買取を頼みたい」


「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」


 普通の店ならカウンター越しに商品を渡せば買い取ってもらえるものじゃが、この店ではわざわざ奥の応接室まで案内された。

 というのも……


「はじめまして。私エリゴラ商店の番頭を務めさせていただいておりますラウコーと申します。この度はどのようなお品を提供して頂けるのでしょうかお嬢様?」


 そう、わらわは良家のお嬢様のような恰好をさせられておったからじゃ! メイアに!!

 メイア曰く、


「高級品を取り扱うのですから、それに相応しい恰好をしないと舐められてしまいますので」


 とか言って、次から次へとドレスを出してきてとっかえひっかえ着替えをさせられたわコンチクショー!!


 一瞬だけあの着せ替え地獄を思い出して遠い眼差しになってしもうたが、わらわは気を取り直して会話を続ける。


「……ポーションじゃ」


 わらわの言葉と共にメイアが10本のポーションをテーブルの上に乗せる。


「これだけで……これは」


 たったこれだけかと言いそうになったラウコーじゃったが、ポーションを見た瞬間目の色が変わった。


「お嬢様、これはもしや……」


「うむ。上級ポーションじゃ」


 わらわが上級ポーションである事を認めると、ラウコーはすぐに鑑定人を呼んでポーションを調べさせる。


「これは良い上級ポーションですね。劣化もほとんどないので高く買い取れますよ、それにしてもこれは良い。殆ど作りたてなのでは……!?」


 質の良い上級ポーションである事に鑑定人がはしゃいでおるわ。


「鑑定人がここまで褒めるとは素晴らしいですね。よろしければ一本金貨20枚で買い取りますがいかがでしょうか?」


「うむ、それで良いぞ」


 元手0で手に入れた木の実が金貨20枚とはチョロイのう。


「それでお嬢様、このポーションなのですが、よろしければ今後も我々に卸して頂くことはできますでしょうか? 勿論買取価格は勉強させて頂きますので」


 くくっ、さっそくかかったの。


「そうじゃの。定期的にとは言えんが、ある程度はこの店に卸しに来ると約束しよう」


「おお! ありがとうございます! では今回の買取価格は特別に一本金貨25枚で買い取らせて頂きます!」」


 おお、結構増えたのう。


「またのお越しをお待ちしております!」


 代金を受け取って店から出ると、ラウコーが入り口まで付いてきてわらわ達を見送る。


「現金なもんじゃのう」


「その分中途半端な店は簡単にこちらの思惑に乗ってくれて助かります。では次の町に行きますか?」


「いや、今日はもうよかろう。同じ日に同時に売るよりも、時間をずらして移動時間を算出できるようにしてやったほうが引っ掻き回せる」


「畏まりました」


 引っ掻き回す、とわらわが言ったのには意味がある。

 というのもわらわ達がわざわざ変装してまで上級ポーションを売って回るのは、ラグラの木を盗んだ犯人を領主に探させる為じゃ。


 木が盗まれてから数日後に突然国内で上級ポーションを売る者が現れ出したらどう思うか?

 答えは火を見るよりも明らかじゃ。

 領主はわらわ達を犯人の関係者と思って捕まえようとしてくるじゃろう。


 ただ変身魔法があるとはいえ、わらわの外見年齢は元の年齢からそう変えられぬのは問題じゃ。

 それゆえ、上級ポーションはわらわ達だけでなくメイアの部下である元メイド隊で変身魔法が使える者達にも頼んである。

 

 え? それならわざわざわらわが売りに行く必要ないんじゃないかって?

 ……メイア達に嵌められたのじゃ。

 魔王を辞めたのなら今後の事も考えて様々な商会との取引を経験しておいた方が良いとな。

 失敗しても変身魔法で顔を変えていれば問題ないと。


 じゃが! それがわらわを着せ替え人形にする為だったとは気付けるわけがないじゃろ!

 うっかりそれもそうじゃなと言ってしまったが最後、わらわは朝から晩まで世界各国の衣装を着替えに着替えさせられてしまったのじゃ!! なんかもう最後の方は取引どころか普段着にもならん珍妙な衣装を着せられたぞ!


「辺境の民族衣装です」


嘘じゃ! 動物の形をした全身覆い尽くす服とかある訳ないじゃろ!

 ……とまぁ、そんな事もあってわらわも商取引に参加した訳だったんじゃが……

 はぁ、服なんて仕事着が一着あれば十分なのじゃ。

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