啾啾


 もうすっかり、秋だねぇ。

 涼しくなってきたし、朝早くは、肌寒いくらい。


 ……秋になると、いつも思い出すことがあるんだ。

 僕が、小学生の頃の出来事なんだけどね。


 僕の実家は、○○県の普通の住宅街の中にあったんだ。

 特に、なんも変哲もない場所だったんだけど、幽霊屋敷があったんだ。


 そこは、街のちょっと高台になっている所の洋館で、僕が物心つく頃には、すでに廃墟になっていた。

 煉瓦で出来た壁は、ほぼ隙間なく蔦で覆われていてね。街のどこからでも見ることが出来て、不気味な存在感を放っていた。


 あれは……いったい、いつから広がっていたかなぁ? 小学校中のみんなが知っているような有名な噂が、流れてたんだよね。

 それは、屋敷の裏側の窓に、少女の幽霊が出るって噂だ。


 ただ、実際に見た人は出て来ない。友達の友達が――という話でね、まあ、そういうのが噂ってもんかもしれないけど。

 だから、確かめようと思ったんだよ。これで、幽霊を見れたら、学校のヒーローだぞ! ってね。


 ある秋の、日曜日の、夕方。僕はこっそり、幽霊屋敷へ向かった。

 ずっと遠くから見ていた屋敷を、目の前にして、僕は驚きながらもそれ以上に興奮していた。それで、屋敷の門とは反対方向――大きな木が隠していて、遠くからじゃあ見えない場所へと回ってみた。


 すると、いたんだよ。窓辺に座って、薄いピンク色のワンピースを着た、女の子が。

 その子は、泣いていたんだ。顔を歪ませて、閉じた目からは、涙をいくつも零しながら。


 僕は、数秒ほどそれを見て、すぐに背を向けた。速足で、屋敷からどんどん遠ざかって行った。

 怖い、からじゃなかったよ。幽霊とか関係なく、道端で泣いている人に偶然遭遇してしまった、いたたまれなさというのかな、そんな気持ちでいっぱいで、どうしよ、見ちゃった!ってドキドキしていた。


 次の日の学校でも、誰にも言わなかった。なんか、あの少女のことが可哀そうで、同情していたからかもしれない。

 だけど、それからすぐに、あの屋敷が取り壊されるぞって、噂になり始めたんだ。今度は、解体会社におじさんが働いている子の話で、どうやら本当っぽかった。


 その前に、本当に幽霊がいるのか、確かめに行こうぜ! って、クラスのある男子が言い出してさ、色んな子が、僕も、私もって、幽霊屋敷探検隊が結成されちゃったんだ。

 僕は、やめてほしいなぁと思ったけれど、あの時見たものを言ったら、余計にややこしくなっちゃう。とはいえ、幽霊のことも気になるから、その探検隊に加わった。


 放課後に集まった探検隊は、別のクラスの子も入れて、結構な大人数になっていた。僕は、友達と幽霊いるかな、どんなんだろうねって話ながら、リーダーの子についていった。

 屋敷に着いても、裏側を見るんじゃなくて、直接入ってしまおうってことになって。本当は駄目だけど、門が簡単に開いたから、ぞろぞろ土足で入っていった。


 屋敷の中は空っぽで、絨毯すらない床の、そこに溜まった埃を舞い上がらせながら、僕らは進んでいった。みんなが期待したような、血飛沫とか手形とかなくて、廃墟にしては、綺麗だったと思う。

 立派な手すりの付いた階段をのぼって、裏側の窓のある部屋に辿り着いた。リーダーがドアを開けて、中を見た時、あっ、という声を挙げたけれど、急に困ったような顔をしてこちらを振り返った。


 部屋の中には、誰もいなかった。ただ一つ、窓に向かい合うように置かれた、少女の絵だけが飾られていた。

 写実的なその油絵を見た人が、幽霊だと勘違いしたんだろうな。それが、リーダーの意見で、みんな納得していたけれど、僕だけは信じられなかった。


 少女の絵は、いわゆる肖像画で、こちらに向けた顔は、満面の笑顔だったんだ。どう見ても、泣いているようには見えない。

 でも、みんな酷くがっかりしていて、帰ろ帰ろって、屋敷から出て行った。僕も、拍子抜けしたねって言う友達の声に頷きながら、帰っていったけれど、まだ信じられない気持ちだった。


 しばらくして、屋敷の解体工事が始まって、あの網? みたいなものに囲まれているから、どうやっても屋敷の中を見ることが出来なかった。

 それでもう、屋敷は跡形もなくなって、ただの更地になってしまったけれど、時々、あの絵は、泣いていた女の子は、どこに行ってしまったのかなって、思うことはあるよ。






































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