帰るところ

「母上、こちらチェルシーと用意したカフェのケーキです。折角だから一緒に如何ですか?」

「あら嬉しいわ、ありがとう」


(選ばれたのはご子息です、あたしはちょっとだけ持つくらいしかしていません)

そんな事を口にするわけにはいかないのて、笑顔で乗り切る。


「甘い物って幸せになるわよね。リトル・ベアーのマカロンも美味しいわ」

「わかります、味も見た目もいいですよね。あたしはウサちゃんが好きです」


前にマオと買って帰って、その夜ミューズ様も入れて三人で女子会したの楽しかったなぁ。


マオは食べなかったけど、付き合ってくれてたっけ。


いや、猫ちゃん選んでてそっくりって言ったら大事そうに持って帰ったんだ。

きちんと食べたかしら?


「スイーツは好きなのかしら?」

「大好きです。公爵夫人のミューズ様が好きでよく買いに行きます。今日もいっぱい買ったので、後で渡したいと思います」


色々買ったので渡すのが楽しみだわ。


「お使いだったの?時間は大丈夫?」

「今日は休日ですから、夜までに戻れば大丈夫です」

クレアは不思議そうだった。


「休みの日にあなたの主人は買い物までさせるというの?それって普通なのかしら」


おっと、ミューズ様が休みも寄越さないひどい雇い主とは思わせないわよ。


「これはお使いではなく、あたしが贈りたくて買ったものです。そうしたくなる程素晴らしい人なのです。

休日なんていらないくらい尽くしたくなる最高の女性…誰にでも優しく、美しく、慈悲深い、まさに女神のような人です。パーティとかで食べて美味しかったスイーツは後日取り寄せて使用人達に振る舞ってくれるほど優しい…!」


餌付けじゃないですからね。


「なのであたしは今の仕事を辞める気はなく、ルドもそれでいいと言ってくれました。女は家に入る、という考えも悪くはないですが、あたしは今こうして理想の主人に出会い、一生仕えたいと思っています。

ルドはそんなあたしの気持ちを受け止めてわかってくれる、最高のパートナーだと思います」


きちんとルドを好きですよってアピールもしとこ。


さっき淹れてもらった紅茶苦いんだもん。

初めに貶した報復だわ。

ちょっと当主褒めとかないと。


「俺の仕事は命を落とす危険があり、理解をしてくれる女性は少ないと思います。仮に俺に何かあっても、働く能力があるという事は将来も安心です。もちろん充分なお金は残すつもりですが」


自立は大事よね。男も女も。


「チェルシーは間近で仕事を見ていますので理解をしてくれています。

何より彼女のハキハキとした明るい性格は俺を励まし、元気づけてくれます。ライカも応援してくれました」


あっ、そうなるとあたし義姉になるのか。

義弟になったら何してくれようかな。


「婚姻してもこの家には戻らず、ティタン様の屋敷近くに家を借りて二人で住むつもりです。仕送りについてもですが、これを機会にライカと話し合い、額の変更を考えたいと思ってます。後日三人で話しましょう」


まぁ実の親子で話し合いをするのが一番ですよね。

ルドがいくら貰ってるかは知りませんが、無理な金額じゃなければいいんじゃないかな。


「そう大きくは変えるつもりはないですが、茶会やパーティなどの参加を減らせば、必要な資金も少なく済むでしょう。俺達の為にもう婚約者候補を探さなくていいのです。母上は母上の人生があります」


ルドは頭を下げた。


「俺達ももう大人です、母上には沢山苦労を掛けましたが、もういいのですよ。父を亡くし、俺達を一人前にしようと、頑張られていたことは伝わっていますから、今度から茶会は家柄と気の合う御婦人方としてくださいね。子爵家だと下に見る者に、媚びへつらったり愛想を振る必要はありません」


息子の為に良い家柄の令嬢を探してたのか。


想像するだけで大変だわ。


カフェでの侍女達もそうだけど、蔑む者は徹底的に蔑むわよね。

それが自分の品位を下げるってのがわからないのかしら。


「釣書は俺から断りの手紙を出しますので、貰っていきます。誰か纏めて持ってきてくれ。

チェルシーとの婚約の書類も早急に出しますので、これから来る縁談の手紙は全てお断りしておいて下さい。それ系の茶会やパーティも、不参加にしてくださいね。ライカの分も全て要りませんよ。あれももはや子どもではありませんから」


わたわたと使用人達が動き始める。

新人の子はオロオロしてるが先輩が連れてってくれた、頑張れー。


「アンネ。俺とライカのために用意している衣類や食事ですが、今までありがとうございました。しかしこれからは別家庭として、きちんと先触れを出してから来るから、もう用意しなくてよいですよ。長い間安心して帰る場所をつくって頂けたこと、感謝しています」


「坊ちゃま…いえ、旦那様。そのような、お言葉ありがとうございます」




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