まずは聞きましょう
店の外に出れば三人の侍女達は何だか打ち合わせ中。
(ロクでもない事しか話してないんだろうなぁ、暇人だなぁ)
人を陥れるのが好きなんて、絶対仲良くなれないわぁ。
「お待たせしました。それで俺に聞いてほしいことは何でしょう?チェルシーと俺は長らく同じ所で働いています。彼女の評判も人柄も、ある程度は知っていますので、余程のことなのでしょうか?」
ルドの声は怒りも焦りも何もない、平坦で良く通る声だ。
何を考えてるかわからない。
「この子が行き遅れなのはご存知ですよね。いまだ恋人も婚約者もいないんですよ?何故だかわかります」
ルドはわからないと言った表情だ。
「忙しければ恋人をつくる時間もありません。仕事に真面目だったから主より先に結婚をしないだけでしょう、それ以外に何かありますか?」
(行き遅れとか言うな、結婚が全てじゃないのよ!)
それに主より先に結婚しないと言うのはよくある話だ。
婚約者もいないまではそうないかもしれないが。
「この子ね、表向きはいい子かもしれませんが、裏では凄いんです。
とっても性格悪いのです。口も悪いしマナーも悪い。パーティ中の控室でも評判悪いったら」
表も裏も正直者って言ってほしい。
「控室での話なら、確かに俺は詳しくないですね。ちなみに具体的な何かはあるのですか?」
食い気味に、質問をしてる。
(あれ?信じちゃう?いや、まさか、ね…)
心配になりルドを見ると、あたしを庇うようにして立ち、見えないところで手を握ってくれた。
(汗やばいんで、急に握るのは勘弁してください)
ハンカチ挟めば良かった。
ルドの手は剣を握るからゴツゴツしてるし、背中は広い。
「あの…」
「チェルシー、あなたは黙っててくださいね」
しぃっと人差し指で唇に触れられる。
「最後まで聞いてあげないと、証言にならないのでね」
この流れは最後まで話聞いて言質取るやつだ。
王族の護衛をするルドは特殊な魔法を覚えている。
(魔石に記憶を覚えさせる?だっけ)
闇雲に使うとプライベートもへったくれもないから、悪用はきつーく禁止されてるけど、いいのかしら。
余計な事は言わないほうが良さそう。
あたしの声が記録に残るなんて嫌だもの。
あたしが言い訳しないように黙れと言われたんだと解釈した三人は、意地悪い顔をしている。
これ、撮られてますよ!とは言ってやりたかったな。
「その前に話に信憑性があるのかも疑わしい、うちで働くチェルシーは真面目で信頼度も高いメイドです。あなた方が仕える令嬢とはどちらの方でしょうか?言えないならばここまでの話は嘘と見なし、ティタン様へ報告します。嘘をつくような侍女を雇っている令嬢が可哀想ですし、進言しに行きます」
明らかなる動揺が走る。
ちょっと仲を拗らせてやろうとしただけなんだろうなぁ。
大事になりそうな雰囲気に引くくらいなら、絡まなければ良かったのに、今更遅い。
ルドの生真面目さを舐めるな。
ちなみにルドの言葉は、令嬢の名を言わなきゃ主に言って、お前の侍女が不愉快な事を言ってきたか、責任者のところに直接文句ぶつけに行くぞ、という意訳だ。
「マリアベル=リバーフェイル公爵令嬢様ですわ」
後ろから援護射撃する。
映像に残るならと少し可愛い声を意識した。
この一言くらいはいいだろう。
「そうでしたか。才女と言われていた彼女の…近々隣国の貴族のもとへ嫁ぐ予定ですよね」
(幸せの最中、こんな問題を突きつけられるのはマリアベル様も嫌ですよね。あたしも今日とっても嫌だったので、もっと昔から侍女の教育をしっかりしてほしかったです)
「そうです、マリアベル様の侍女をしています。なので信憑性は非常に高いはずですわ」
そうきたかー。
嘘を本当にしようと言うのね。
ルドが主を才女と言ったから気を良くしたようだけど、才女と言われていた、だからね?
過去形で言ってるわよ。
「ぜひ聞きたいですね」
チェルシーはつらつらと話をしている三人の話を右から左に受け流し、ルドとの婚約をいの一番にミューズへ報告することだけを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます