第130話・最終話 家族

「あれから確か………皆でご飯食べて、実家で1日過ごしてから、柚梪と一緒に帰ったんだっけか」


 辺りは暗くなり、青色の車を運転しながら、懐かしい過去の事を思い返していた俺。


「本当に、家に帰った後の柚梪は、頑張り屋さんだったねぇ」


 両手でハンドルを握り、住宅地の少々細めな道を走る。


 住宅地のある一軒家の前まで運転してきた俺は、左右から別の車が来ていない事を確認した後、バックで車を停車させた。


 エンジンを切り、車を降りて取っ手についているボタンを押し、ピッと車から音が鳴ると同時に鍵を閉める。


 そして、一軒家の玄関の扉を軽く開き、その家の中へと入る。


「パパっ! おかえりっ!!」

「こらーっ、廊下を走りませんよ」


 すると、正面から駆け足で俺の元にやってくる、濃い灰色の髪をした可愛いらしい女の子と、女の子が来た部屋からは、別の女性の声もした。


「おぉーっ! ゆきっ、今日もお出迎えありがとう。でも、廊下走ったらママに怒られるぞ?」


 そして俺は、駆け足でやってきた女の子を抱き上げると、女の子はとても嬉しそうな顔になる。


 その女の子の名前は、如月雪きさらぎゆき

俺と愛する妻との間に産まれた女の子で、年齢は今年で4歳になった。

 いつもこうして俺が仕事から帰ってくると、必ずお出迎えに来てくれる、可愛い娘である。


「雪ーっ、何度も廊下は走らないって言ってるでしょ? 全くもうっ。龍夜さん、おかえりなさい。」

「ただいま」


 奥の部屋から雪を叱りながら歩いてくる、エプロンを身に付けた薄く長い灰色の髪を、後ろで1本に纏めた可憐な女性。


 その女性こそ、俺の妻………如月柚梪きさらぎゆずである。

 掃除・洗濯・料理と言った家事全般をしてくれている。雪と一緒に、毎日こうして出迎えに来てくれるのだ。


「龍夜さん、ご飯はもう少し時間が掛かりそうなので、先にお風呂へ入って来てはどうですか?」

「ん? 珍しいな。大抵帰って来たらご飯出来てるのに」

「すみません………ちょっとお昼から用事がありまして。買い出しもしてたので、遅くなってしまって」

「ゆき、パパとはいるーっ」


 どうやら食事の準備が出来ていないようなので、今日は先に娘とお風呂に入る事にした。


 服を脱いで、雪と浴室に入ると、湯船には可愛いらしいひよこのおもちゃが、ぷかぷかと浮かんでいた。


「パパーっ! ひよこちゃんっ!!」

「そうだな。可愛いひよこちゃんだな。雪、先に洗うからおいで」


 俺は、雪の頭と体を軽くタオルとシャンプー等を使って洗い流す。


 雪を湯船に浸からせると、浮かんでいるひよこのおもちゃで遊び始めて、俺は自身の頭や体を洗う。


「ふぅ、疲れが癒されるわぁ~」

「あーっ、ひよこちゃんが………おちたぁ」


 俺が湯船に浸かる事で、お湯の量が一気に増してしまい、浮かんでいたひよこちゃんが浴槽から落っこちてしまう。


 俺は「ごめんごめん」と雪に謝りながら、落ちたひよこを回収して雪に手渡す。そうして、約10分程度ほど可愛い雪を眺めながら湯船を堪能する。


「龍夜さん、雪、ご飯出来ましたよー」


 柚梪から食事の準備が整った報告が来た事で、俺は雪を連れてお風呂から上がる。


 大きなタオルで先に雪を拭いて、パジャマを着ている間に、自身の体を拭く。着替え終わった俺と雪は、一番奥の部屋、リビングへと向かう。


 リビングの食卓には、カレーライスが3つ並べられており、俺と柚梪が隣同士で、雪が柚梪の前に座る。


「いただきまーすっ!」

「いただきます」

「はいっ、召し上がれ♪︎」


 俺達3人は、柚梪が作ってくれたカレーライスを美味しく食べる。


「…………」

「龍夜さん? 食べないんですか?」


 すると、美味しそうにカレーライスを食べる雪を眺めていた俺に、ふと柚梪が隣から声を掛けてきた。


「いや、食べるさ。雪が可愛いて仕方ないんよ」

「確かに、雪はすごく可愛いですよ。でも、早く食べないと冷めますよ?」

「だな。まあ、柚梪がこの世で一番可愛いんだけどね~っ!」

「もうっ、またそうやって言う………///」

「パパとママ、らぶらぶ~」


 今日も楽しく3人家族で、妻が作ってくれた美味しいご飯を堪能した。


 やがて、ご飯を食べ終わった俺達。雪はお絵描き道具を出して、何かを描いて遊び、柚梪と俺は食器を一緒に洗って片付ける。


「じゃあ、私お風呂に入って来ますね」

「おう、いってらっしゃい。覗き行っていい?」

「ダメです~っ。龍夜さんのえっち」


 そうして柚梪は、脱衣室へと向かって行った。


「パパっ、みてみて!」

「ん? どうした?」


 すると、絵を描いていた雪が、どうやら完成したらしく、俺に描いた絵を見せにやってくる。


 その絵には、3つの人らしきものが描かれていた。


「雪、これは何の絵かな?」

「これがねっ、ゆきでしょ。こっちがママで、こっちがパパっ!!」


 1つ1つ指を差しながら説明してくれる雪。どうやら家族3人を書いてくれたらしい。


「おぉ、パパ達を描いたのか? 上手に出来てるじゃないか。すごいぞ~」

「えへへ~っ、ゆきはね、なんでもできるのっ!」


 うん。可愛い。それ以外言うことなしっ!


 そして、夜の22時頃。お風呂から上がって来た柚梪と、洗濯物を干し終えると、2人でテレビに向かってソファに座る。


 雪は、またお絵描きをしに食卓とにらめっこしているようだ。


 ソファに座る俺は、体を密着させて座る柚梪の肩に右手を通し、軽く抱き締めた状態で甘い空気を堪能する。


「こうして柚梪と肩を並べて、ゆったりと出来る時間が一番幸せだわ」

「ふふっ、私もですよ。大好きな龍夜さんと近くに居ると、とても落ち着きます」


 柚梪がそっと俺の肩に頭を添えてくる。お風呂上がりだからか、柚梪からとても良い花のような香りが漂ってくる。


「龍夜さん。1つ、聞いて欲しいお話があるんです」


 柚梪は、俺の肩に寄り添いながら、両手を軽くお腹の上に乗せて、視線もお腹の方へと向けた。


「実は、お昼の用事って言うのは………病院に行ってて」

「………え? 病院? どこかおかしいのか?」


 俺は柚梪からそう聞いて、ほんの少しだけ焦りを見せるが、柚梪は「そうじゃないですよ」と優しく声をかけて、俺を落ち着かせる。


「その、龍夜さんには黙ってたんですけど………私、お腹の中に、また新しい赤ちゃんが出来たんです」

「………っ、ほ、本当か………?」


 俺はそれを聞いて、一瞬目を見開くと同時に、胸が嬉しさで一杯になる。


「本当ですよ。ちなみに………女の子だそうです」

「そうか………女の子か………雪がお姉ちゃんになるんだな。それで、名前は?」

「もちろん、決まってるじゃないですか」


 柚梪は俺に視線を向けて、とても可愛いらしい上目遣いで見つめくる。


神奈芽かなめですっ」

「………。全く、懐かしいな」


 こうして、俺の妻………柚梪のお腹の中に、神奈芽が誕生し、俺の家族はまた一層、幸せへと近づいていく。


「パパとママ、らぶらぶーっ!」


 絵を描きながら、こっち見てくる雪が、またもやそうやって言ってきた。それに対し柚梪は、ニコッと微笑む。


「うん。ママとパパはらぶらぶだよ~♡」


 そして、雪から再び視線を俺に向けた柚梪は、綺麗かつ、甘い声で俺にこう言う。


「大好きですよ。あなたっ」


 俺の頬に、柚梪のプリっとした柔らかい唇が、そっと触れるのだった。


                   ーー完ーー

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