第12話 お給料

「ふう、疲れた疲れた……早く帰って、柚梪で疲れを癒さないと」


 いつも通りのバイト帰り、俺は独り言を言いながら、柚梪の待つ家へと帰る。


 いや、疲れを癒すならお風呂だろっと思う人が多いだろう。

 しかし、最近になって柚梪が積極的に甘えてくるようになってからは、柚梪が可愛いく見えて仕方ないのだ。


 もしも、大好きな恋人の女の子が、『今日もお疲れ様』と言って、ギュッとハグをしてくれたら?男として、嬉しくない気持ちになるわけないだろう?


 そう言った行為が嫌いな男だったら、恋人なんて作るわけがない。


 彼女が出来た事が無い、ましてや……女友達すら作れなかった俺にも、こうして甘えてくれる女の子が出来るなんて、幸せ意外に何がある?


 頭の中でぶつぶつと呟きながら、ポケットからスマホを取り出し、電源を入れるもと、日付と時間が書かれたロック画面が表示される。


「あれ? 今日って、8月15日じゃん。先月の給料が振り込まれる日ではないか」


 そう、今日は月に1回の、バイト代が振り込まれる日だったことを、すっかり忘れていた。


 ちょうど今居る所は、運が良いことに、ATMが設置されている郵便局が近くにある。だいたい、徒歩5分くらいかな?


「早く帰らねぇと、柚梪が寂しがっちまうけど、ちょうど良いから、金を下ろしてから帰るか」


 俺は、目で見える位置にある、郵便局へ向かって歩き出す。


 郵便局へ到着した俺は、通帳の中に記入されている、現在の金額を確認していた。


「おぉ! 先月よりも、1.5倍は振り込まれてる! やっぱり学校が夏休みで、自由登校のおかげだな。バイトで働く時間は増えてしまったが、その分多く稼げたぞ」


 その金額は、約13万円ほど。時々人手不足と言うことで、お昼食べてからすぐに、バイトをしていた時もあったため、少し多めにお金が振り込まれていた。


 普段学校へ通っている日々に比べれば、かなりの収入だ。


「とりあえず、6万くらい下ろしておこう。よし……これで、柚梪に服を買ってやれるぞ! 先月の俺……良く頑張った!」


 通帳に振り込まれたお金を下ろし、財布にしまってから、郵便局を出る。


「これで、僅かな赤字は失くすことが出来た。今月と来月は、それなりに余裕が出来たな。柚梪にも、美味しい飯を食べさせてやれるな」


 俺はルンルンな気分で家へと帰還する。


 そして俺は、前に柚梪を歯科病院へ連れて行った際に、おにぎりを買ったコンビニの前を通りがかる。


「そうだ! せっかくお給料が入ったんだし、良いことを思いついた」


 普段なら、そのまま通り過ぎるのだが、コンビニを見た俺は、ある事をひらめいた。


 コンビニへと入った俺は、とある物を買ってから、コンビニを出る。

 片手に、そのが入ったビニール袋を持って、今度こそ寄り道をせずに、柚梪が待つ我が家へと帰宅する。


 夜21時頃、玄関の扉を開いて、『ただいま~』と言いながら、家へと入る。

 すると、俺の声を聞いた柚梪が、リビングからゆっくりと歩いて来て、俺を見たとたん、柚梪は駆け足で俺の体へと抱き付いてきた。


「あはは、お出迎えありがとう。遅くなってごめんね。柚梪」


 俺の体に抱き付いた柚梪は、そのまま顔を上げて、上目遣いで俺を見つめる。

 そんな可愛いらしい柚梪の頭を、俺は優しく撫でる。


「さあ、ちょっと夜遅いけど、夕食にしようか。柚梪、手伝ってくれるかい?」


 柚梪は1回頷くと、俺の体から離れる。


 俺がリビングのキッチンへと向かうと、柚梪はヒヨコのように、後ろをついてくる。


 片手に持ったビニール袋を、冷蔵庫へとしまってから、素早く出来る料理を作り始める。少し簡単な料理になってしまうが、もう夜遅いからな。


 野菜を手で洗ってくれたり、使い終わった道具は、手袋越しに洗剤付きスポンジを使って綺麗にしてくれる。


 日頃から、俺の料理を作っている所を見ている柚梪は、つい先日くらいから、野菜や道具の洗い方を見て覚え、こうして手伝ってくらるようになった。


 なんか……こうして一緒のキッチンに立っていると、夫婦のようだな。って、何を考えてるんだ俺は。


 ともかく、柚梪のお手伝いを受けながら、俺は料理を作り上げるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る