霧雨

火月未音

霧雨

空を見ると今日も雨が降っている。

重苦しい雨ではなくて軽すぎて降っているかわからない雨。


手に持っている折り畳み傘を差すべきか考えてしまう。

結局、周りが差しているという理由で傘を広げた。


だが雨は服にまとわりついて重たい色の傘が使命を果たせていない。

差すのをやめようかと思ったがやはり周りを見てしまい、しまえなかった。


自分はなぜまわりに合わせてしまうのだろうか。

そんなことをふと思ったが答えはすぐ出た。


”目立ちたくないから”それだけだ。


傘を差さないぐらいで他人はいろいろな理由を考え始める。

傘を電車に忘れたのか?失恋したのか?みたいな。

そんなことを勝手に想像されるのが自分は嫌だから。

他人の心は聞こえてこないが、なぜかそう思ってしまう。

自分は他人と関わりたくないだけかもしれない。

なんて自分勝手なんだろうかとふっと思い笑みを浮かべてしまった。

自分もこの雨のように一粒じゃ分からない存在何だろう。

この雨は存在を示すために冷たいという温度を感じさせるだけ。

たったそれだけだ。

ほかは……空を見たときだ。


真っ直ぐ地上に落ちるのではなくて、

自由に舞いながらゆっくりゆっくり落ちていく姿を見たとき。


人は彼らの名前を言わず『雨』という

なんて切ないのだろうか

全ての人に名前を知られているのにだれからも


”霧雨”と読んでもらえないなんて


片手に傘を差しながらもう片方の手を広げた。

すると粒は見えないがひんやりとした感じがしただけ。

一粒じゃ本当に分からない不確かな存在。

たくさんの粒が集まってやっと雨の種類に入れる。


それは今の社会のようだ。

1人だとなんにもできなくて、たくさんの人が集まるとやっと表現できる。

霧雨は今の自分を見せているように思えた。


そう思うとなぜか悲しくて

自分は広げていた手で霧雨をつかもうとした。


”目立つことをしたくない”そんな理由を忘れて

何度も何度もつかむ動作を繰り返した。

存在を確かめようと、ちゃんと存在していると分かるために

だけどつかまらなくて……


空を見るとゆっくりゆっくり舞い降りているのと冷たいと感じるだけ。

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霧雨 火月未音 @hiduki30n

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