第9話 順番・運命

私達は出掛け、恋人同士のようなデートをしていた。



その日、1日を楽しみ、その日の夜―――




「尋渡さん…起きてる?」


部屋の前のドア越しから言う私。



「うん」



カチャ

ドアを開ける私。



「どうしたの?」


ベッドの上から尋ねる尋渡さん。



「…一緒に…寝て…良い…?」

「えっ?」

「あっ…やっぱり…駄目だよね…?ゴメン…」




私はドアを閉め始める。



「いいよ。どうぞ」

「…でも…」



微笑む尋渡さん。


ドキン



「言い出したの藍李ちゃんだよ」

「そうだけど…」

「じゃあ、一緒に寝ないと夜這いしちゃうよ〜♪」



ドキッ


「よ、夜這いって…尋渡さんっ!結婚してるじゃん!お姉ちゃんにバラすよ!」


「ええ〜っ!一緒に寝ようとする藍李ちゃんが言える立場?ほら、おいで」


「…いや…」

「…藍李ちゃん…早く来ないと…後ろに……」



ドキーーッ



「きゃあああっ!」



私は慌てて部屋に入ると尋渡さんに抱きついた。




「…………………」



「捕まえた♪」




ドキッ


抱きしめられている事に気付く。




バッ


慌てて離れる私。





「ご、ごめん…なさい…」



かああああ〜っ!と体が顔から体全身が熱くなり、恥ずかしい半面、抱きついてしまったという行為の申し訳なさ。




「…いや…別に大丈夫だけど…」



背を向ける私。



「藍李ちゃん?」

「ご、ごめん…やっぱり戻る…」




グイッと引き止められた。



「家族なんだし、別に義理の妹と一緒の布団で寝る事に、アイツは気にしないって」




《アイツ…そうだよね…夫婦だもん…》




「藍李ちゃんが気にするなら、俺がそっちに行こうか?」


「だ、大丈夫!」



私は振り返り、笑顔を向けると、布団に入る。



「お邪魔しま〜す♪おやすみ〜!お義理兄ちゃん」

「う、うん…おやすみ…」



そして、尋渡さんも一緒の布団に横になる


ドキドキと胸が早鐘のように早くなる。




「尋渡さん…ごめんね…」

「えっ?」

「お姉ちゃんじゃなくて」

「別に大丈夫」

「そっか…」



私は尋渡さんの方に体を向け、抱きつく。



「藍李ちゃん?」



私は瞳を閉じる。






今日だけ


あなたの隣で


あなたの傍に


いさせて下さい……



叶わない恋だから


せめて


好きな人との時間を


お姉ちゃんの


恋人で夫である彼を


1日限定で


私の彼氏にしてもいいですか…?





「あれ…?ていうか…本当に大丈夫?お姉ちゃん…」


「あー、さっき陽南から連絡あったから。ついでに、お互いの両親からも。今夜は帰らないって」


「帰らない…?」




《つまり…それって…今日は…二人きり?》



「まあ、たまには良いんじゃない?そんな日もあるよ。例え、帰って来たとしても各々ベッドで寝れるから」


「……お姉ちゃん…旦那さん放ったらかし?私なら1日でも早く帰って、夫婦の時間過ごしたいな…尋渡さんは、良いの?だって夫婦だよ?心配とか不安に、ならない?」


「あー…まあ…アイツも俺の事を信じているから、俺もアイツを信じる。だからこそ、今は、お互い仕事一番」


「そうか…」



「だけど…藍李ちゃんって美人なのに、どうして男寄ってこないんだ?」


「えっ?」



私は顔を上げる。




ドキッ


至近距離にある尋渡さんと視線がぶつかる。




「俺なら、アピールするけど」



ドキッ



私は目をそらし、うつ向く。




「な、何言って…もう、また、そうやってすぐ私をからかって楽しむの辞めてくんないかな?」


「クスクス…」


「もう寝るっ!」




私は瞳を閉じる。


しかし好きな人を目の前に落ち着いて眠れない。




「………………」




本当は一緒に寝たい


2度とないチャンスなのに



ここは私の場所じゃない


別の女の人の場所




私は起き上がり、布団から出る。




「藍李ちゃん?」

「ごめん…やっぱり自分の部屋で寝るね」



私は背を向けたまま言う。




「えっ?」


「おやすみなさいっ!」



私は部屋を足早に飛び出した。




「あっ!藍李ちゃん!忘れ物!」



私は聞こえず、自分の部屋に戻り、ドアに寄り掛かる。




「……っ…」



私は体をゆっくりと崩していく。




「…もっと…早く…生まれて…たら……こんな辛い…思い…しなくて……済んだのかな…尋渡さん…との人生…歩めてたのかな……?」





「………………」




《…藍李…ちゃん…》





偶然耳にした尋渡さんの姿があった。








ねえ……神様……


人の生まれ変わりには


順番がありますか…?




もう少し


早く生まれていたら


こんな思いになる事は


なかったのでしょうか…?




好きで 好きで


仕方がないのに


相手の想いは


一切なくて


気付いたときは


別の女の人の姿




運命のイタズラ




好きになった人が


姉の結婚相手で


旦那さんで



一枚の紙切れで


繋がれた絆




簡単に引き裂かれそうなのに


運命には逆らえなくて


こんな人生に


終止符(ピリオド)は


打てないの……?







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