第9話 つい、斬ってしまいました

 俺とレティシアは理事長室でお茶を飲んでいた。セレナは保健室の先生にお願いしてある。保健の先生は回復魔法が使えるとの事だった。大したモノだ。



「ステームが盗みを? 証拠はあるのかい?」


「残念ながら証拠は無いです。でも彼がセレナの学費を立て替えて弱味を握り、彼女を恐喝したのは事実です」


「それで決闘したって訳だね」


「……はい」


「決闘は学内でのトラブル解決として正規のルールだし、別にあんた達を咎める為に呼んだんじゃないよ」


「えっ? じゃあいったい?」


「アルクマッドさ。黒狼騎士団は強者揃いだがたちの悪い奴も多い。そんな黒狼騎士団が先生役に送ってきたアルクマッドさ。多分、リステア迷宮のお宝狙いだと思うがね」


「リステア迷宮って何だ?」


「この学院敷地内で見つかった古代迷宮よ。何故かは分からないけど多くの魔物が巣くっていて、学院敷地内だけど白狼騎士団の管理下に置かれているの」


「つまり黒狼騎士団は入れない迷宮なのさね。ところが学院関係者は入る権利を持っている。上級クラスは実地訓練や試験で入る事があるし、先生達も研究やレベルアップの為に入る事がある」


「なるほどな。ならば俺も入れるのか?」


「あんたは入れないよ」


「そうか」 


「えっ! そうなんですか!?」


「あんたは学生じゃないから、先生の指導の下って訳にはいかない。それ以外だと白狼騎士団かCクラス以上の冒険者、または白狼騎士団が認める実力者って事になるんだよ」


「……じゃあ、あた……私はライとは迷宮には入れないんですね……」


「そうとは限らないさね。ライ坊には来月のダンジョン探索クラスの荷物持ちをさせたいからね。だから、帝都で行われる白狼武闘会に出て貰うよ」


「白狼武闘会? なんだそれは?」


「白狼騎士団が主催する武闘会よ。それで結果を残せば、白狼騎士団が認めた実力者って事になるわ!」


「そうさ、それに出て優勝してくればいい。ライ坊はアルクマッドにも勝てる実力がある。まぁ、やってみるってもんだね」



 ライ坊? 俺の事か? しかし先程から話しに出てくる白狼騎士団ってなんだ?



「なぁ、白狼騎士団ってなんだ?」


「あ~、そう言えばライ坊は世間知らずだったね。この国には白狼騎士団、黒狼騎士団、赤狼騎士団、青狼騎士団、そして銀狼騎士団の五騎士団が有るんだよ。ロイヤルガードの銀狼騎士団を除けば白狼騎士団が最強騎士団と言っていいだろう」


「成る程な。それで騎士ってなんだ?」


「「そっからかいッ!」」





 俺は急遽、帝都に行く事となった。どうやら白狼武闘会なるものに出るらしいな。



「ほらライ! 早くしないと馬車が出ちゃうわよ!」



 レティシアも一緒だ。どうやら俺一人では帝都に辿り着けないらしいな。


 馬が引く馬車という乗り物で帝都へと向かった。



「レティシアは帝都に行った事は有るのか?」


「勿論よ。お父様に連れられてお城の舞踏会に何度か行ったわね。それにお姉ちゃ……姉が帝都の青狼騎士団に所属しているわ」


「そうか。それで舞踏会ってなんだ?」


「ダンスパーティーよ。貴族が集まってダンスをするのよ」


「なるほど。俺の村でも祭りの時にはみんなで踊ったな」


「へ~、今度ライの村にも行ってみたいわね」


「それは無理だな。俺は村を追い出されたからな」


「えっ!? あっ、ゴメン」


「気にするな。どうせこの体では村では住めないからな」


「?」



 馬車に揺られ大分立つ。レティシアが「そろそろ帝都よ」と教えてくれた。そして馬車が止まった。


 帝都に着いたのか?


 しかし馬車に乗る他の人達がざわついている。「如何したのかしら」とレティシアも首を傾げていた。

 

 他の人達と一緒に馬車を降りた。少し向こうに大きな石壁が見える。


 アレが帝都か?


 馬車を操っていた男が「ドラゴンだ! 帝都がドラゴンに襲われている!」と空を指差す。


 俺もレティシアもそちらを見ると、帝都の空に赤い飛び蜥蜴が飛んでいるのが見えた。



「レ、レッドドラゴン!」



 レティシアや他の人達も大きな声で騒ぎだした。少し遠くに見える飛び蜥蜴だが、小さかったコロボックルの頃に見た大きさと同じくらいに見える。



「届きそうだな」


「えっ!? なに!?」



 俺は剣を抜き腰だめで剣気を溜める。旋風剣に比べ溜める間が長いが、威力は数倍に跳ね上がる。空に向かって斬るならば木々を傷付ける事も無い。



「烈風剣ッ!」



 溜めに溜めた剣気を刃に乗せて剣気を放つ。風を切り裂き放たれた剣気は赤い飛び蜥蜴を両断した。成る程。禁断の木の実の影響で烈風剣の威力も上がっている様だな。



「どうかしたか?」



 レティシアが間抜けな顔で俺を見ている。せっかくの美人が台無しだ。



「『どうかしたか 』じゃないわよ! 何やったのよ!」


「まずかったか? すまない」


「そ、そうじゃないわよ! 斬ったの!? ドラゴンを斬ったの!?」


「ああ。俺の村でも飛び蜥蜴には大分やられたからな。つい」


「『つい』って! 『つい』で斬れちゃうの!? ドラゴン斬れちゃうの!?」


「空に向かって斬るならば木々の被害も出ないから思いっきりやれたぞ」



 レティシアが何故か騒いでいると他の人達が俺の周りに集まってきた。やはり不味い事をしたのか?



「あんたがやったのか!」 「兄ちゃん凄いな!」 「あ、あの~、騎士様ですか?」



 怒られる訳では無かった。良かった。



「いや、俺は騎士ではないな」


「じゃあ有名な冒険者か!?」


「いや、美化職員だ」


「「「………………」」」



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