第15話
「ところであなたはロボットの代金どうしたの?」
「拾った」
私は思わず口走ってしまった。
「どこで?」
「家の前の歩道に箱に入れられて置いてあった」
「他人の物じゃん」
私は本当のことを言ってしまったことを後悔した。酒の勢いもあったのだろう。
「もしかして私のお金じゃない?」
「知らないよ」
「そんな当てある?」
「以前私にお金を届けてくれると話した人が結局無くなったと言っていなくなったことがある。ちょうどあなたがロボットを買った前の話。
もしかして私のお金じゃないっ」「きっとそうよ。返してよ、私のお金」
彼女は興奮していた。私はむっとしていた。
「知らない。そのお金が、私が拾ったお金であることの証拠がないじゃないか。一体何月何日の話をしているんだよ」
飲み会は険悪な空気に変わった。
「ちょっと待って、私が被害者。逆切れは止めて。
返して私のお金。警察に相談します」
と彼女は怒っていた。私はどうぞと言って、席を立とうとした。後に知ったことだが、飲み会を切り上げると、彼女は警察に相談に行ったらしい。その金額が特定できないこと、落とし主ではないことを理由に被害届は受付られないことを言われた。しかし警察には似た問い合わせが以前あったことは事実で、その拾得者を特定したいので、協力してくれないかと逆相談された。彼女はお金を他の人間に横取りされる可能性があることを感じて、私の名前は伝えずに警察署を後にした。彼女は帰り道でどのようにして自分の物にできないか考えていたそうだ。彼女の主張する落とし主とは連絡を取っていなかった。もうどこにいるかも分からなかった。彼女とその男の出会いは、彼女が一人で酒場で飲んでいるとき年寄りの男が話しかけてきた。
「野球は勝てますかね」
と、優勝争いをしているチームを応援している彼が、若い女に話しかけてきたのが始まりだった。
「今日は勝てそうですね。抑えのピッチャーが出てきたから」
そんな話から始まった。二人はその酒場で何度か会うようになり、やがて男は女を別の店にも誘うようになった。彼女も最初は拒んでいたが、老人の「お金は要らないか」という言葉が彼女を動かした。彼女の説明では使い終われないほど持っていると言われたそうだ。彼女は大よその数字を推定して尋ねたが、老人は「もっともっと」と答えたのだった。彼女には信じられなかった。何度か老人と会ううちに、彼女が手にしたお金は月給を超えていた。老人はホテルに行くのにさらに幾らかの金を渡してきた。もしその老人が持っているという大金が嘘でも、今まで握らされたお金も悪くはなかった。彼女は男の誘いに乗った。最初男は背中を流してくれと言った。それから一緒に寝てくれになり、大金を渡すと老人は言った。
彼女には夢のような話だった。
「先に頂けませんか」
と言ってはみたが、
「終わったら渡す」
と彼は譲らなかった。結局ことが終わると家に持ってくると言った。家の前に置いたとのメールがあったが実際には彼女にはその金は手に入らなかった。彼女は甘い話に飛びついた自分を責めたが、消えたお金が忘れられなかった。彼にもう一度連絡するが、置いたというお金は無かった。それ以来老人とは連絡が取れなくなった。
彼女には確かにそのお金が、私が拾ったお金と同一であるという証拠は持ってはいなかった。しかし彼女の中ではそのお金に間違いはなく、彼女はお金を手に入れるために必死だった。飲み会で彼女は、
「一体いくら手に入れたの?」
そう尋ねた。私は金額を教えるつもりはなかった。変に逆上されても困ると考えたのだ。しかし一晩でその金を手に入れようとする彼女に浅ましさを感じた。もちろん私が横取りしたのかもしれないと後ろめたくなることもあった。
「私の金よ 泥棒」
彼女は怒って店を出て行った。
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