第12話 仲間と拠点と新婚同然
アーティ組とステラ組が同盟を結んでからというもの、僕と愛璃はクリストフさんが所有しているというプライベートビーチ……ならぬ、隠れ小島に住まわせてもらうことになった。
僕らが異世界に転移してから半年、すっかり馴染んだこの世界での生活。
僕は、アーティ組のナンバー2として、人のためになる新しいシノギ――裏稼業の依頼をこなしている。
それが――【逃がし屋】だ。
この異世界は残念なことに、日夜、王家や貴族の横暴に苦しみ、無実の罪を着せられる人が後を絶えない。
そんな人を、依頼を受けて救出したり、追手から逃がしたり。
そういった依頼を、クリストフさんの伝手で月に何度かこなして対価をもらう。
もちろん、シアノが義賊活動をするなら、彼女を逃がし――手伝うのも、アーティ組の一員としての務めだ。
追手が来そうなルートで待ち伏せし、糸で目くらましをしたり、用意していた罠を指一本で発動させたり。僕の貧弱な魔法は、そういうところで密かに役に立っている。
それよりも驚くべきことは、僕には酒だけでなく、射撃の才能があるとわかったことだ。
この世界ではまだ普及を始めたばかりの貴重品だという銃。
試しにクリストフさんに稽古をつけてもらったら――いや、びっくりなんだけど。あの人性格最悪なヘタレのくせに、教え方めちゃくちゃ上手いんだよ。
――で。僕は百発百中――は盛りすぎた。ごめん。
百発撃ったら89中くらいかな?
それでもまぁ、かなり素質のある方だ。
残りの11%は努力でなんとかするしかない。
結局、異世界なんてとこに来たところで、最後に裏切らないのは努力と筋肉ってわけ。
うーん。これも、前の世界で趣味だったFPSの成果かな?
毎日二時間ずつくらい訓練したら、百発百中って言っても過言ではないくらいに、僕の腕前は安定した。
とはいえ、クリストフさん曰く、腕は鈍るから練習は欠かすなとのこと。
『ボクらと対等を名乗るんです。他の組織からナメられるだなんてもっての
……なんて。忙しい中様子を見に来てくれたりして。
あの人実はツンデレ?
そういうわけで、色々と面倒をみてもらってる。
シアノは基本、本土の方でシノギをしているし、ゲスツィアーノ邸から連れて来た比較的大きい子は、訓練を受けた後にシアノの活動を手助けしている。
僕と愛璃の住む島には、いまだ訓練の途中か、それにすら満たない小さな子を預かる形となっていた。ゲスツィアーノ邸から来た子もそうだが、シアノがどこからか拾って来る子も、まぁそれなりにいる。
孤児であった自身のこともあるんだろうが、「見つけるとつい……」とかなんとか。猫じゃないんだよ? まぁ、組として養える範囲だからいいんだけどさ。
僕はときおり
シアノを含めても、組の中でも最年長な僕と愛璃は、そういう子らから「パパ」「ママ」なんて呼ばれたりしていて。
それが、こそばゆくて嬉しいなぁ……なんてね。
「そうだ。愛璃ママ――」
そんなもんだから、口調もたまに移ってしまうわけで。
「あっ。ごめん……」
ハッとして口をおさえると、愛璃は頬を染めながら、「ふふっ。なぁに?」と微笑む。それがどこか嬉しそうに見えるのは、僕の妄想――勘違いなんだろうか。
(いつか、本当のパパとママになれたらなぁ……)
僕の密かな、願いだ。
「トレーニングお疲れ様。永くんさ、最近逞しくなってきたよね」
「そう?」
「うん。この世界に来た半年前よりも、だいぶ筋肉ついてきたんじゃない?」
僕は、筋トレと射撃訓練を終えたばかりで胸元に張り付いたシャツに視線をおとす。
「あ。ごめ……臭かったかな?」
「!? そ、そういう意味じゃなくて! 永くんは全然臭くないよ! むしろいい匂いっていうか、その……」
赤くなった顔を洗濯を終えたタオルで隠しながら、愛璃は呟く。
「……男らしくて、カッコイイなぁって……」
(!!)
ほら。やっぱな。
コツコツがんばっててよかったよ。
努力と筋肉だけは、僕を裏切らない。
そんな最中、小島にボートが到着し、クリストフさんがやってきた。
月に何度か食料や生活雑貨を届けに来てくれる、ステラ印の闇定期便。
用があると、クリストフさんはそれに同乗してくることもある。
「相変わらず、船旅は潮臭くてイヤになりますねぇ。髪も傷むし。やぁ、【逃がし屋】――エイスケくん、アイリくん。お久しぶりです♪」
「クリストフさん。直々になんて珍しい。よほどの急ぎか、重要案件ですか?」
「急ぎじゃないですけど、重要案件ってとこですかねぇ。とりあえず、シャワーをお借りしても?」
「あ。こっちです!」
愛璃に案内されてシャワーを浴び、さっぱりとしたクリストフさんがシャツの胸元を仰ぎながら事務所――客間にやってきた。
テーブルを挟んで、僕の向かいにアイスコーヒー片手に腰かける。
「ん~。苦い。これが噂の新商品、『コーヒー』ですか? いくら原料が豆……安いとはいえ、こんなもの売れますかねぇ?」
「コーヒーは、味もそうですが主に香りとカフェインを楽しむものですよ」
「
「カフェインです。人体には無害。むしろすっきりと目が冴えて、今後、夜に活動する同業者に嗜好されること間違いなしです」
「ふーん」。と不思議そうにストローを咥えるクリストフさん。
出されたコーヒーを半分程度平らげると、両手を組んで僕に向き合う。
「ところでエイスケくん。ボクに隠していることはありませんか?」
にこにことした表情はいつもと変わらないし、組織内外でも僕にしかわからないといわれている、彼特有の殺気も感じない。
本当にただの確認っぽいけど……
「? 裏切りを疑っているんですか? まさか。僕らはこの島を取りあげられたらお終いだ。
「ん~。こう見えてそれなりの友情は抱いていたつもりなのに。冷たい。いたって冷静だ。ボク、キミのそういうところ好きですよ」
「僕も、色々あったけどクリストフさんのことは信用していますよ。……で。用って?」
「じゃあ、単刀直入に。キミたちが罪を犯して逃げている原因――殺人とか言ってましたっけ? 実は、とんでもないヤツをヤッてしまったのでは?」
(……!!)
――バレた。
別に、隠しているわけじゃなかったけど。
聞かれなかったから答えなかった。
ただそれだけで……
「王家の三男。クレシアス。まさか、王位継承権持ちをヤッちゃってたとは。いやはや、運が良いのか悪いのか。風の噂で、
「……美味しい?」
眉を顰めると、クリストフさんはさも当然といったように語る。
「クレシアスは生前よりわがままで横暴なことで有名でした。死んでくれて嬉しい従者は百人二百人じゃ済まなかったはずだ。だから、何の取引も繋がりもないですけれど、勝手に
にこっ! とした笑みに裏はない。
割と本気で感謝されてる……?
ぜんぜん、嬉しくないけどね。
「でも、本格的にステラ組のせいにされたらそれはそれ困るんです。わかります?」
「……国家反逆罪。時効の無い終身刑ですね」
「はい。即処刑です」
……させない。
愛璃を、必ず守る。逃がす。
僕は、そのために……
拳を握りしめていると、クリストフさんはにんまりと意地悪な笑みを浮かべ……
「なにかいい手、ありません? 金なら出しますよ」
「!」
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