プリンセス・プリンセス・プリンセス
三人のお姫様が同時に攫われた。
一人は北へ、一人は東へ、一人は南へ――。
残された『彼女たちと関係がある』王子様は、助けに向かうべき寸前で足を止める。
……具体的に助け出す方法は思いついており、移動手段も確保している。
戦力も充分、頼りになる仲間を引き連れ、お姫様の救出は確約されたも同然だったのだが――問題は一つ。大きな問題だ。
さて、誰から助けにいくべきだ?
「王子っ、なにを立ち止まっているんですか! こうしてモタモタしている間にも、お姫様の身が危険に晒されているのですよ!? 相手は国へ、交換条件を出しているわけではないのです……、人質にしてはいますが、傷つけない保証はありません。
逆に傷つけた様子を見せつけ、あなたの怒りを引き出そうとしているかもしれません! 悩んでいる時間、今も三人は無慈悲な刃でドレスを切り裂かれているかも――」
剣士の少女が震える王子へ詰め寄った。
……王子は、戦いを多く経験しているわけではない。身を守る武術・剣術は教わっているので、賊を前になにもできない、ということはないかもしれないが……、
しかし今回のこれは規模が違う。
異世界からやってきた正体不明の存在が敵なのだ。戦力は充分であり、自信を持って大丈夫だ、と王子には伝えてはいるが……確実、ということはない。
それを悟った王子が恐怖で足を止めたのか……? と剣士の少女が王子へ一発、強烈なビンタでも浴びせて目を覚まさせてやろうかと思ったが、次に、彼が呟いた一言に手が止まるどころか目が点になった。
「……三股しているんだよ……で、三人はそれを知っている……」
「………………はい?」
「だからっ、三股しているんだ! 三人のお姫様とっ、もちろん周囲には黙っていたけどね! ……三人は別の彼女がいても構わないと言ってくれたんだ……だから相談して、順番を決めて、逢引をしていた……夜、体を重ねたこともある……――この意味が分かるか!?」
「あなたがクズということですか?」
「自覚はあるが違う!!」
剣士の少女の目が鋭くなる……。
剣を抜いていないのに斬り殺されそうな威圧感だった。
「いや、だからね……、三人が別々の方角へ攫われたってことは、僕は優先順位を決めなければいけないってことだろう? 北へいくか東へいくか南へいくか! それってつまり、向かった方角にいる彼女が本命であると、他の娘に宣言しているようなものじゃないか!!」
うわあ、という歪んだ表情にも気づかない王子が、頭を抱えて本気で考える……。
「理由を付けて優先順位を誤魔化すしかない……、移動経路が塞がってしまって……それとも移動手段が限られていて?
……姫の父親の命令で、と言えば、二番目三番目に回した彼女たちは納得してくれるか? いやでも、あらゆる障害があっても一番にきてほしかった、と当然のように言われるだろうし……クソ! 誰を選んでも角が立つじゃねえか!!」
「自業自得でしょ」
本気で剣を抜きたくなった剣士の少女が、抜きかけた刃を、かん、と鞘へ収めた。
「はあ。誰が一番だって、決めていなかったんですか?」
「……みんなのことが大切だ。選べるわけがない……」
「優柔不断なのか、抱え込んでいたいだけなのか……」
もしもフラれたら、すぐに隣の少女を抱けるように……――そんな企みがまったくないとは思えなかった。
「でも、良い機会じゃないですか? この際です、ここで誰が一番なのか、決めてしまいましょうよ。攫われた三人もあなたが決めたことなら文句ないでしょう。
もしも今後、粘着質な行動が目立つのであれば、わたしが斬ってもいいですし」
「あの、一応相手はお姫様だからね……?」
「では、きちんと王子であるあなたが言ってくださいね?」
王子にしかできないことだ。
「しつこく言い寄られても、二番目三番目の言葉なんて、バッサリ切り捨ててしまいましょう」
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