家電娘との生活~幼馴染のドライヤー娘に世話を焼かれる2人きりの1日~

たけし888

第1話 一日の始まりは熱風から


 僕はプールにいた。

 水着の女の子に囲まれ、心地よい冷たさを楽しみながら過ごす時間……。

 

 しかし、そのまったりとした空間は突然灼熱の炎に包まれた!


「あぁ、熱い! 熱いっ! 誰か助けてくれ!」


 逃げる間もなく炎に巻かれ、どんどん身動きが取れなくなり……。

 もうここまでかと思われたその時!


「寝言言ってないで早く起きていただけますか?」

「うわっ!!」


 突然聞こえてきた声にびっくりして目が覚める。

 そこはプールでも炎の中でもなく、いつも通りの自分の部屋だった。

 ああ、良かった……あれはただの夢だったんだ!


「よ・か・っ・た・じゃありませんが」


 ぶおおー。

 枕元に立った少女が手をかざすと、またたくうちにその手が変形し強力なファンが唸り出す。僕は首元に熱風を吹きかけられ、また悲鳴を上げてしまう。


「やめてくれ! さてはプールが燃えたのもライヤのせいだな!?」

「せいとは何事ですか。流々るるが朝ごはんに起きてこないから、わざわざ起こしに来て差し上げたというのに」

「その起こし方が問題なんだよ……」

「ほら、早く食べに行かないとご飯が冷めますよ」

「わっわっわっ、わかったからもう風を出さないでくれ!」


 幸せな布団空間から追い出され、仕方なくリビングへと歩き出した。


 僕は田辺流々、高校2年生!

 それで僕を叩き起こしたこの子はライヤ、『ドライヤー娘』のライヤだ。家電機能が一体化した高性能アンドロイド、2040年モデルの特別品……だったっけ。

 中身がメカなのは分かってるけど、オレが赤ん坊だった頃から一緒にいるせいでそんな実感は湧かない。ずーっと見た目の変わらない、ちょっとおかしな幼馴染みって感じだ。


「見た目が変わらないのはいいとしてもさぁ、もう長い付き合いなんだし、ちょっとは僕に合わせて優しくしてくれてもいいんじゃない?」

「ダメです。流々こそもっと成長したほうが良いと思いますよ? 小学校の時から寝坊癖がついたままじゃないですか」

「ぐっ……ぬぬ……」


 子どもの頃のことを持ち出されると、僕はもうライヤに勝てない。向こうは何でも忘れず覚えているし、無表情で痛いところを突いてくるんだ……。


 僕の休日はいつもこんな感じで始まる。

 熱風で叩き起こされて、小言を言われながらリビングへ連れ出されて……。


 でも、なんだかんだこうやって朝を迎えるのが心地良く感じるんだよね。

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