コラボ企画 異端児との邂逅


 このお話は、サポーターの園山 ルベン様(https://kakuyomu.jp/users/Red7Fox)とのコラボ企画です。


 突如異世界に転移してしまったセオとパステル。

 二人が見た異世界と、出会った人物とは――?

 一話完結です。少し長いですが、お付き合いいただけましたら幸いです♪


*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


「……あれ? ここは……?」


 目を開けると、僕は見知らぬ場所に立っていた。


「……さっきまで、聖王城にいたはず」


 この場所は、見るからに聖王城とは異なる――それどころか、聖王都ですらないようだ。その証拠に、空を覆う世界樹の枝葉が、全く見えない。


 ここは、どこかの店舗の二階席だろうか。

 ベランダには椅子とテーブル、日除けのパラソルが並んでいて、眼下にはたくさんの人が歩いている。


 時折、大きな金属の塊のようなものがすごい速さで走り去っていく。

 人に危害を加える様子もないし、魔物ではなく妖精の類か、それとも魔法道具マジックアイテムの一種だろうか。


 遠くを見やると、四角く高い建物や、無機質なタワーがたくさん建っていた。

 大陸中を旅した僕も見たことのないような、何というか……圧迫感のある風景だ。

 電気の妖精の姿も見えないし、魔法回路も見当たらないのに、一体どういう仕組みなのか、電気の街路灯や室内灯が光っている。


「パステルは……?」


 先程まで、パステルと一緒にいたはず――そう思って辺りを見回すが、彼女の姿は見えなかった。


「……探しに行かなくちゃ」


 僕はベランダから身を乗り出し、普段通り風の力で空に舞い上がろうとする。

 しかし、予想に反して、僕は風の精霊ラスと全くコンタクト出来ず、バランスを崩してしまった。


「うわぁっ!?」


「危ないっ!」


 ベランダから落ちそうになってしまった所を助けてくれたのは、チョコレートのように黒い肌、金髪の女性だった。翡翠色の瞳が僕の顔をいぶかしげに覗き込んでいる。


「はぁー、危なかった。大丈夫?」


「あ……ありがとうございます」


「きみ、どうしたの? 何か悩みがあるの? 早まらない方がいいよ、まだ若いんだから」


「いえ、そういうのでは……」


 僕は女性に返答しながら、風の声を聞く。

 やはり、ラスの気配を全く感じられない。


 けれど――

 自分の魔力を内側に巡らせる。

 微かにだが、パステルの魂が僕を呼ぶ声が、伝わってくる。

 どうやら彼女は、この近くにいるようだ。

 だが、風の力を借りられない今、彼女がどこにいるのかまでは分からない。


「あの……このあたりで、虹色の髪の令嬢を見かけませんでしたか?」


「虹色の髪……。ううん、見てないけど」


「そうですか……」


 僕はその答えに肩を落とした。


「あ、でも『虹色の髪』ねえ……もしかしたら遺伝子操作の実験と関係があるのかな? ……ううん、関係なかったとしてもそんな珍しい髪色、研究所が興味を持たないはずないし……。レオ君なら何か知ってるかも」


「研究所? パステルがそこに?」


「分からないけど、行ってみる価値はあると思う。よーし、お姉さんに任せなさい! 研究所に連れてってあげる。ところで、きみのお名前は?」


「セオです」


「セオ君ね、よろしく。私はダニエル・エリン・アルバーン。みんなダンって呼んでるから、ダンでいいよ」



――*――



「何……ここ」


 おかしい。

 私は、さっきまでセオと聖王城でお茶をしていたはず。なのに私は、気付いたら全く見覚えのない場所にいた。


 窓のない、白い部屋。

 透明なガラスケースや、何に使うのか分からない不思議な形のガラス器具、見たこともないような機材がたくさん置かれている。


「セオ、どこにいるの……?」


 あたりを見回しても、セオの姿は見えなかった。

 私は不安になって、胸元に輝くネックレスを握りしめる。


 プシュー。


 その時、空気が抜けるような不思議な音を立てて、部屋の扉がひとりでに開いた。扉から、全身を不思議な意匠の服で覆った人が入ってくる。


「はっ!? 誰!? どうやって入った!?」


「あ、あの……すみませんが、ここは一体――」


「それよりも! お前! ここでは防護服は着ろ! 早くここから出ろ、早く」


「は、はいっ」


 せき立てられるようにして、不思議な服を着た人――声からして、成人男性だろう――が入ってきた扉から、私は外へと追い出された。


「……それで? お嬢さんはどうやってこのフロアに入った? 目的は?」


 着ていた服――防護服というらしい――を雑に脱ぎながら、男性は怖い目をして問いかけた。

 ライトブラウンの髪にヘーゼルの瞳で、痩せ型だ。

 私よりも年上ではあるが、童顔で中性的な顔立ち。

 ここの施設の人なのだろうが、よほど忙しいのか、無精髭を生やしている。


「ええと、私にも何がなんだか。聖王城でのんびりしていたはずが、気付いたらここに」


「……聖王城?」


 男性は、そこで初めて私の顔をしっかりと直視した。

 いつの間にかこの部屋にいた、それ自体は不可抗力だったはずだ。けれど、何となく悪いことをしたような気になってきて、私は首を竦めた。


「聖王城って何だ? それに、俺の知ってるどの人種とも違うし……まず気になるのはその七色の髪だな。その髪は染色しているのか?」


「え? いえ、地毛です。……お見苦しくてすみません」


「地毛!? えっ!? 君の両親の髪色は? 祖父母や親戚には君と同じ髪色の人間が?」


「いえ、私だけですけど、ちょっと特別な理由があって……幼い頃は金髪だったんです」


「……は? 突然変異か? そんなこと、遺伝的には有り得ないぞ。そもそもヒトのゲノム上、髪色の遺伝子は……ぶつぶつ」


「いえ、あの……」


 何やら自分の世界に入って考え込みはじめてしまった男性に、私は置いてけぼりだ。


 部屋を見渡していると、ハンガーに掛けられた作業着の胸元に、IDカードが吊るされているのを見つけた。

 この場所は、ディニティコス生命科学研究所、生物工学部第二実験室。

 目の前の人物は、どうやらレオナルド・アルバーンという名前らしい。


「ああ、何がどうなってる! 無理だろ普通! お嬢さん、少し毛髪のサンプルを貰え――」


 その時突然、外の廊下に繋がっていると思われる扉が開いた。

 ひょこっと顔を出したのは、一人の女性。


「レオ君ーっ! 虹色の髪の子拾わなかったー!?」


「ダン? ここは立ち入り禁止だと毎回――」


 ダンと呼ばれた女性は部屋の中を見回すと、すぐに私を見つけて、目を丸くする。


「って、ここにいるじゃん。セオ君、きみの探しているのはこの子?」


「え? セオ?」


 私が声を発すると、ダンの後ろからセオが飛び出してくる。

 相当不安だったのだろう、その顔は今にも泣きそうだった。


「パステル、やっと会えた……!」


 ダンの横をすり抜けて部屋に入ってきたセオの腕の中に、私はあっという間に閉じ込められた。


「セオ……きっと迎えに来てくれるって、信じてた。私を見つけてくれて、ありがとう」


 私はセオの胸に、自分の顔を埋めて、ほっと息をつく。

 知らない場所、よく分からない状況だけれど、セオがいてくれるだけでこんなにも安心する。


「パステルが、僕を呼んでくれたから。――良かった、危ない目に遭ったりしてなくて」


 そっと顔を上げると、セオの目は優しく細まり、柔らかい微笑みを浮かべていた。セオも私と同じ気持ちのようだ。


「ねえ、ここはどこなの?」


「どうやら僕たちの住む大陸とは違う場所みたい。風の声が聞こえないんだ」


 私たちは互いの背中に腕を絡めたまま、話をする。

 手を離してしまったら、また離ればなれになってしまう気がして、不安なのだ。


 私たちの横で、レオと呼ばれた男性も、状況を確認しようと話し始める。


「……ダン、何がどういうことだ?」


「うーん、分かんないけど、違う世界から迷い込んだみたい。魔法がどうとか精霊がどうとか」


「そんなファンタジーなおとぎ話じゃないんだから……」


「それよりさ! ほら、私たちも!」


「あ? なんだ、両手を広げたりして」


「ギュッてして、いいんだよ!?」


「あー、その、だな……おっと、急に腹が……」


「あっ、逃げた! レオ君ーっ、待ってぇー! 今日こそはちゃんとお家に帰ってきてよぉーっ」


 逃げるように部屋から出ていくレオと、それを追いかけていくダン。

 二人の姿を目の端に捉えながら、私たちは笑い合った。


 突如、私たちの周りを煌めく光が取り巻いていく。

 よく知っている感覚――世界樹に魔力を流している時に感じる気配だ。


「この光……世界樹の魔力?」


 セオも気付いたようで、私を離すまいと、腕に力を込めた。

 私もセオにぎゅっとしがみつく。


『二人とも、すまぬのう。吾の手違いで別の世界に飛ばしてしもうた。世界樹の魔力をそちらに伸ばしたから、それに掴まって帰ってきてたもれ』


 大精霊の声と共に、輝く世界樹のつるが天から降りてくる。

 私はセオとしっかり抱き合ったまま、同時に光の蔓に手を伸ばした。


 世界樹の蔓は私たちの身体をしっかり絡め取り、強く光り輝いて元の世界へといざなっていった。



――*――


 ふと目を開けると、聖王城の一室だった。

 目の前にはセオが座っていて、キョロキョロと辺りを見回している。


「聖王城……?」


 私がぽつりと呟くと、セオはハッとした顔で私を見る。


「パステルも、見たの?」


「夢じゃ、なかった……?」


 少し遠くに控えていた侍女エレナは、なんのことやらと首を傾げている。

 手元のカップを見ると、紅茶は半分ぐらいまで減っているが、まだ冷め切っていないようだった。

 こちらでは、時間も経過していなかったらしい。


「不思議なことがあるんだね」


「そうね。セオ――」


「ん?」


「違う世界でもすぐに私を見つけてくれて、ありがとう」


「――当たり前だよ。どこにいたって、僕はパステルを見つけられる」


 甘く微笑むセオの顔が近づいてきて、私はそっと瞼を下ろしたのだった。



*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


*コラボ作品*


「ヒューマノイド《異端児の追憶》」

https://kakuyomu.jp/works/16817330649518420533

作者・園山 ルベン様(https://kakuyomu.jp/users/Red7Fox


より、世界設定を拝借、アルバーンご夫妻にご出演いただきました。

また、当エピソードは園山様ご本人の許可を得て、ご本人の監修の上で掲載させていただいております。


「ヒューマノイド《夢幻の虹》」

https://kakuyomu.jp/works/16817330659801937053

園山様にも、にじそら世界とパステル、セオを書いていただきました!

ぜひご覧いただけましたら幸いです。



 次回の番外編では、聖王都で新生活を始めたパステルのお話を投稿致します♪

 本編で影の薄かったあの人も登場……!

 またしばらくお待たせ致しますが、お楽しみに!

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