僕が見たい、君の姿を
「あ、あれ? なんか、手が……?」
カメラを持つ手が、小刻みに震える。
知らず知らずのうちに自分が想像以上のプレッシャーを感じていたことに気が付いたライオがごくりと息を飲む。
面倒事であるという意識が一番にあった撮影が、こんなにも責任重大であっただなんて……と、その事実に緊張を高めていく彼へと、モモが優しく声をかけた。
「大丈夫、大丈夫だよ。最初はみんな初心者で、わからないことばかりなんだから。だからさ、まずは一つずつ覚えていこうよ。ライオが撮ってみたい、私の姿……教えて?」
「僕が見たい、君の姿……?」
胸とか尻とか、ポーズとかではない。もっと前にある、単純なこと。
今、自分が見てみたいモモの姿はなんなのか……? 今度は真剣にそれについて考えたライオは、一つの答えらしきものを見つけると顔を上げ、それを彼女へと伝える。
「僕はまだ、グラビアアイドルの仕事とか君のことをよく知らない。だから、まずはもっと君のことを知っていきたいと思う。君のことを知るためにも、飾らない君の姿が見てみたいっていうのが、僕の答えだ」
「……うん、了解。凝ったポーズとかどこかを強調するんじゃなくて、まずは私自身をよく見たいってことだね?」
ライオの想いを上手くまとめたモモが大きく頷き、その意見を了承する。
すっと立ち上がった彼女は僅かに左足を前に出すと、両手でVサインを作りながら緩く両腕を開いてみせた。
「こんな感じでどうかな? ライオはいいと思う?」
「うん、いいよ。そのまま、笑って……」
年頃の乙女らしい無邪気な姿を見せるモモの全身をファインダーに収め、神経を集中させるライオ。
目の前の彼女が明るく弾けるような笑顔を見せてくれたその瞬間、彼は人差し指でカメラのボタンを押し込み、シャッターを切る。
パシャッ、パシャッ……と、数えきれないほどのシャッター音が寝室に響いた。
呼吸すらも忘れてファインダーの中のモモを見つめ続けるライオは、彼女が一瞬だけ見せたお茶目にウインクをする姿を目にしてぐっと心を掴まれたような感覚を覚える。
(これが、いいって感覚なのか? 僕は今、価値のある写真を撮ることができたのか……?)
生まれて初めて覚えたかもしれない、女性を魅力的だという想い。
今、一瞬だけモモが見せてくれた彼女自身の最高の姿をもっと多くの人に見てほしいと、ライオは素直に思うことができた。
写真を撮り終えた彼はすぐさまカメラを操作し、ウインクの一瞬を捉えた写真を液晶に表示する。
モモのかわいらしいお茶目さとセクシーさの両方を切り取ったその写真は、彼女のあふれんばかりの魅力を見事なまでに写し出していた。
「うん、いいよ。すごくいい。私のこと、かわいく綺麗に撮ってくれたね」
いつの間にか隣に立って、一緒に撮影した写真を確認していたモモの言葉に、ライオは気恥ずかしさと確かな達成感を覚える。
彼からカメラを受け取ったモモは会心の出来である写真を二枚実体化させ、その一枚をライオへと手渡しながら微笑んだ。
「はい、ライオがカメラマンとして初めて撮影した記念の写真だよ! んで、こっちは私が初めてグラビアアイドルとして撮ってもらった写真~! お揃いだね! ぶいっ!!」
写真の中の彼女と同じようにピースしたモモが、満面の笑みを浮かべながら言う。
不純だと、こんなの普通ではないと……そう思いながら臨んだカメラマンとしての仕事の中で得た、確かな成果物を見つめるライオは、彼女の姿と自分が撮影した写真を見つめながら、込み上げる想いに強く拳を握り締めるのであった。
※教訓・何事も実際に体験しなければその本質はわからない
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