魔法のカメラを手に入れたぞ!
(グラビアアイドル……男性に肌を見せてお金を稼ぐ仕事……うぅ~ん……)
夕刻、修道士としての務めを終えて帰路につくライオは、延々と家で待っているであろうモモと彼女の仕事であるグラビアアイドルについて考えていた。
まだぼんやりとしている部分はあるが、グラビアアイドルという仕事についてはある程度理解はできた。
下着とほぼ変わらないような格好を見せつけることで賃金をもらうという仕事は、色欲を否定する修道士としては受け入れがたいものだ。
モモがいた世界では一般的だったのかもしれないが、こちらの世界では違う。
万が一、彼女がグラビアアイドルとしてこちらで活動を始めた場合、多かれ少なかれ騒動が起きることは目に見えている。
モモは色んな意味で注目を集めるであろうし、そうなれば彼女の住処を特定しようとする者も現れるかもしれない。
もしも自分と彼女が同棲していることが世に知れたら……と考えたところで身震いしたライオは、恐ろしい想像を中断すると固く決意した。
(ど、どうにかしてモモを普通の仕事に就かせないと……! グラビアアイドルだなんて、言語道断だ!)
モモにもやりたいことがあるのだろうが、それでもそんな仕事を認めるわけにはいかない。
どうにかして彼女を普通の仕事に就かせようとライオが考えたところで、ちょうど彼は自宅の前までやって来ていた。
「た、ただいま~……! も、モモ、いるかい……?」
扉を開け、音が漏れないようにしっかりと閉めてから、家にいるであろうモモの名を呼ぶライオ。
暗いリビングに魔法で明かりを灯した彼は、テーブルの上に見覚えのない黒い物体があることに気が付き、まじまじとそれを見つめ始めた。
「なんだ、これ……? 僕は知らないぞ……?」
人の顔と同じくらいの大きさをしたその黒い物体の名前はカメラ。
異世界人であるライオは知らないであろうが、写真を撮影するために使用される機材である。
訝しがりながらそれを手にしたライオは、その瞬間に脳内に電撃が走ったかのような感覚を覚え、よろめく。
その後、どうしてだか手にしたカメラの使い方を理解した彼は、何かに導かれるかのようにファインダーを覗き込んだ。
「う、わ……!?」
見慣れたはずの自宅のリビングが、何故かこの機械を通して見るだけで違った景色のように思える。
テーブル周辺、キッチン、玄関方面……と、ファインダー越しの風景を楽しんでいたライオが廊下へと続く扉へとカメラを向けた瞬間、そこが開くと共に風呂上がりと思わしき全裸のモモが姿を現した。
「ライオ……? どうしてそのカメラを……?」
「わっ、わっ!?」
あっ、と思った時には既に遅く、ライオは人差し指で触れていたボタンを押し込んでしまっていた。
カシャカシャ、というシャッター音が響き、カメラの中に全裸のモモの姿が記録されていく。
「……今、撮った?」
「あっ!? えっと、ご、ごめっ――」
当然、その音にモモが気が付かないはずがない。
大慌てで謝罪するライオの手からカメラを奪い取った彼女は、そこに写真として記録されたデータを確認し始める。
「ごっ、ごめん! 本当にそんなつもりじゃなかったんだ! ただ、びっくりして指が動いちゃって……!」
「……わかるんだ? これが何をする道具で、自分が何をしちゃったのかも?」
「え……? あ、う、うん。なんか、それを手に取った瞬間、頭の中に色んな情報が流れ込んできて……」
「ふ~ん、そっか。まあ、神さまがくれたカメラだし、そういう効果があったのかもね」
自分でも信じられないことだが、ライオは名前すら知らなかったカメラの使い方を理解している。
迷わずファインダーを覗き込むことができたし、一瞬のシャッターチャンスを逃さぬよう指をボタンにかけるという基本的な持ち方も理解していたお陰……というより、そのせいでこんなトラブルが発生したわけだが、モモはそのことを気にしてはいないようだ。
「大丈夫、わかってるよ。っていうか、ライオがその気になったら普通に襲えるのに、こんな回りくどいことする必要ないじゃん」
からからと笑いながらそうフォローを入れた後、すぐにデータの確認作業に戻るモモ。
自分に対して真横に体を向ける彼女の大きく膨らんだ胸や丸々と肥えながらも形の整った尻、濡れていることで妖艶さを増させた全身の雰囲気を目の当たりにして緊張するライオに対して、笑みを浮かべたモモが言う。
「うん……! すごくよく撮れてるよ。ほら、見て!」
そう言いながら、撮影したデータを映し出すカメラの液晶部分をライオへと見せつけるモモ。
首からタオルをぶら下げただけの裸の彼女に身を寄せられる状況にドギマギしながらも吸い寄せられるように自分が撮影した写真のデータを見た彼は、驚きに小さく息を飲んだ。
タオルで頂点部分をギリギリ隠したたわわな胸。きゅっと締まったウエストとかわいいおへそ。そこから続く前から見てもわかるくらいに大きな尻に、スラッとした脚……そういった、性的な意味で目を引く部分は山ほどある。
だが、一番ライオが目を引かれたのは、他のどこでもないモモの表情であった。
いつの間にか帰宅していた上に、カメラを構えて自分の方を見やるライオと対面した時のモモの驚いた顔。
連続して響くシャッター音を耳にした彼女の眼が見開かれていく様子が、一枚の写真ごとによく撮られている。
あの一瞬、出会い頭の驚きが更に高まっていったものの数秒にも満たない時間が、こうして確かに記録されている様を見たライオは、そのモモの変化につい噴き出してしまった。
「どう? 笑っちゃうでしょ? 私の驚いた顔!」
「ああ、うん……でもやっぱり、女性の裸を撮影するなんてしちゃいけないよ」
「まあ、そうだけどさ。今回は被写体の私がいいって思ってるんだから、問題なしってことで! ねっ!?」
にこっと笑いながら、全てを水に流すと宣言したモモが手にしているカメラを操作する。
一番最初の写真までバックした彼女が液晶画面を指でタップした後で右手を開けば、そこに画面に表示されているのと同じ写真が出現したではないか。
「なっ!? えっ!?」
「はい、あげる! ライオが初めて撮影した写真だよ!」
突然の事態に驚くライオに対して、記念品としてその写真をプレゼントするモモ。
思わず受け取ってしまった後、仮にも裸の女性が写っているその写真を所持し続けるわけにはいかないと冷静になったライオが大声で叫ぶ。
「いやっ、要らないから! っていうか、自分の裸の写真を堂々と異性に渡さないで!!」
「撮影された側の私がいいって言ってるんだし、家賃ってことで受け取ってよ! それに、こういうのは大事だよ? これから山ほど撮影する写真の、最初の一枚になるんだからさ!」
「……うん? 山ほど撮影する……?」
ライオへと写真を押し付けながら、カメラ内のデータを削除したモモが何か意味深なことを言う。
その言葉に嫌な予感を覚えたライオが冷や汗を流す中、満面の笑みを浮かべた彼女がこんな宣言をしてきた。
「今日からカメラマンとして、私の写真をバンバン撮ってね! よろしく、ライオ!!」
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