彼女の名前はモモ、職業はグラビアアイドル
「えっと、じゃあ自己紹介をさせてもらうね。僕はライオ。このザルードにある教会で修道士として活動している者だよ。それで、君は?」
それから暫くして、落ち着きを取り戻したライオは唐突に自宅に出現した謎の女性とリビングで対面していた。
応急処置としてベッドのシーツを巻き付けて体を隠している彼女は、かなり防御力が低い格好であるというのにどうしてだか元気いっぱいの表情を浮かべたまま、これまた明るい声でライオへと自己紹介を行う。
「は~いっ! 私の名前は
「オオカワラモモ……モモさんね? それで、どうして君は僕の家で寝てたの? それも、裸で」
自己紹介の後半部分をスルーしたライオは、未だに素性が不明なモモへと問いかける。
そうすれば彼女は、満面の笑みを浮かべたまま、こんな答えを口にしてみせた。
「簡単! 私、異世界からやってきたの! こことは別の世界からやって来た人間なんだ!!」
「は……? 異世界から、やって来た……!?」
「うん、そう! 私ってば元の世界で死んじゃってさあ。まだ十九歳だったっていうのに、残念だと思わない!? そんな私のことを不憫に思ったのか、優しい神さまが生き返らせた上で、別世界に転移させてくれたってわけ! いや~、ラッキーラッキー!!」
「うん? う、うぅん……?」
あまりにも予想外というか、想像の斜め上をいくモモの回答に頭を抱えるライオ。
彼女が異世界の住人であり、一度命を落とした上で神の手で蘇らせられて自分の家へと運ばれたというその話は、到底信じられるものではない。
だがしかし、彼女の話を信じざるを得ない証拠が幾つか揃っていることも確かだ。
昨晩、ライオは自分が何をしていたかを覚えている。酒に酔ってモモを家に連れ込んだという可能性はゼロだ。
戸締りもしっかりしており、外部から侵入された形跡もない。そもそも、泥棒に入ったのならば呑気にベッドで眠りこけるわけがないだろう。
そして何より、モモの顔はライオが知る女性たちの顔とは大きく違っていた。
異国の人間、としか表現できない自分とモモとの顔立ちの違いを自身の目で確認したライオは、彼女が別世界の住人であるという話もあながち嘘ではないのではないか……と思い始めている。
まあ、その場合はどうして彼女を生き返らせた神は元の世界で復活させてやらなかったんだとツッコミたくなるが、神に仕える修道士である彼は例え異世界であろうとも神の判断に異を唱えることは間違っていると自身に言い聞かせ、深く考えないことにした。
そうやって、とりあえずはモモの言うことを信じることにしたライオは、それを踏まえた上で彼女に問いかける。
「それで、君はこれからどうするつもりなの? 元の世界に戻りたいとか、そういうふうには思ってる?」
「ううん、全然! 私、これからこの世界で生きていくつもり満々だから!!」
どんっ、と胸を張りながら堂々と答えるモモに対して、引き攣った笑みを見せるライオ。
ここまで元の世界に未練がないって、ある意味異常なのではないか……とは思いつつも、そもそも帰る手段がないのかもしれないし、その上で考えを切り替えてこちらの世界で生きていこうと決めたのかもしれないと考え、何も言わないことにする。
そんな彼に対して、モモは唐突に両手を合わせると、拝むようにして懇願をし始めた。
「そこでなんだけどさ……お願いっ! ちょっとだけでいいから、私をここに住ませてくれないかな?」
「はあっ!? ここに住むって……僕と同棲するってこと!? いや、ダメだって!!」
「お願い! 一人暮らしができる目途が立つまででいいから、私のことを助けてください!」
座っていた椅子から立ち上がり、床に額を擦り付ける土下座をしながら頼み込むモモ。
大慌てで彼女の下に駆け寄り、頭を上げさせようとしたライオは、難しい表情を浮かべながら彼女の願いについて考えていく。
(僕は修道士だぞ? 年頃の男女がひとつ屋根の下で暮らすってだけでも色々と問題があるのに、このことが誰かに知られたとしたら……!!)
ライオは神に仕える修道士。慎ましい禁欲生活を送ることを誓い、教会で働く人間だ。
当然、誓いの中には性欲に溺れないというものもあり、修道士として生きる以上は生涯独身を貫くことが当然であると教会の誰もが思っているし、そうしている。
そんな状況下でライオが自宅に同い年の女性を匿っているということが知られたら……信頼はガタ落ちどころか、マイナスまで到達するに違いない。
ごくりと息を飲みながら、とんでもないリスクと心労を抱える同居生活を一旦は断ろうとしたライオは、モモへとこう声をかける。
「やっぱりマズいよ。問題しかないし、それに……」
「そこをなんとか! 今の私にはあなたしか頼れる人がいないの!」
「うっ……!?」
縋るような眼差しを向けられながらの懇願に、ライオの心が激しく揺らいだ。
モモの言う通りで、異世界から来たばかりの彼女には自分以外に頼れる人間はいない。
服すら持っていない彼女をこのまま放り出してしまえば、路頭に迷うどころかひどい目に遭うことくらい簡単に想像できる。
今現在、モモの面倒を見ることができるのは自分だけ……という状況を認識したライオは、困っている人を助けることが修道士である自分の役目ではないのかと考え始めていた。
その上で、彼女の話を振り返った彼は、異世界の神が自分の下にモモを送ったのも何かの試練なのではないかと、そう考えていく。
(これはある意味、神が与えた試練……色欲に溺れることなくこの女性を助けてみせろと、そういうことなのですね……!)
禁欲の誓いを立てた自分の下にモモがやって来たことを、ライオはそう解釈した。
ふぅ、と息を吐いて心を落ち着かせた彼は、モモの顔を真っ直ぐに見つめると、優しい笑みを浮かべながら言う。
「……わかったよ。これもきっと神の思し召しだ。君がこの世界で独り立ちできるまで、僕が君の生活の面倒を見よう」
「あ、ありがとうっ! 本当にありがとうっ!」
「おうっふ……」
感極まったモモに思い切り抱き着かれたライオが再び彼女の巨大山脈を押し当てられる感覚に妙な呻きを上げる。
しかし、裸の状態で抱き着かれた先ほどよりかはマシだろうと気を取り直した彼は、そっとモモの肩を掴んで自分から引き離すと、落ち着いた口調で話を続けた。
「ただ、これだけは守ってほしい。僕は修道士で、本来女人との関わりを禁じられている立場の人間だ。僕の家に女性が同居しているだなんてことがバレたら、大目玉どころの話じゃあない。だから、基本的にはこの家から出ないでほしい……わかったね?」
「了解しました! お世話になる以上、ライオに必要以上の迷惑はかけないように努力するよ!」
思っていたよりも礼儀正しいというか、こちらの言うことを聞いてくれるモモの素直な返事にライオが胸を撫で下ろす。
不安はあるが、異世界から来たばかりの女性の手助けをすることも修道士としての立派な使命だろうと……そう考えたライオは、続けて彼女へとこんな質問を投げかけた。
「そうだ。モモは何か得意なこととか、元の世界で就いていた仕事とかはあるかい? それを活かせば、こっちの世界でも仕事にありつけるんじゃないかな?」
「うん? ふっふっふ……! いいことを聞いてくれたね、ライオ! 何を隠そう、私にはとっておきの特技であり、元の世界での立派な職業があるのだ~!!」
「おおっ、いいね!! それで、何の仕事をしてたの? 料理? 裁縫? それとも掃除とか?」
なんだか自信満々なモモの言葉に期待を募らせるライオ。
いったい、彼女は元の世界でどんな仕事をしていたのか……と尋ねる彼に対して、モモは堂々たる態度でこう答える。
「私の職業はね……グラビアアイドルだよ!!」
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