SF童話 つきゅう
久田高一
つきゅう
これは、「ちきゅう」とよく似ているけれども少し違う、「つきゅう」という星のお話です。
「ちきゅう」と「つきゅう」の違いはふたつです。「つきゅう」には国が、「つ国」と「きゅう国」の2つしかないことと、「つきゅう」には生きていてお話ができる神様がいることです。
ある日、「つ国」の王様へ、神様から手紙が来ました。内容は次の通りです。
「つ国の皆さん、ご機嫌はいかかですかな。来週の日曜日、私の家でパーティーを開きます。皆でそろって遊びにいらっしゃい。皆が乗れる魔法の船の設計図を一緒に送ります。」
王様はすぐに、「つ国」の人々へ、この手紙のことを知らせました。すると、「つ国」の人々は大喜びして、魔法の船を作るのを手伝ってくれました。皆で協力したものですから、翌日には船ができあがりました。日曜日までまだまだ時間があります。
そこで「つ国」の人々は、めいめいパーティーに着ていくおしゃれな服を探したり、髪を切って整えたりして時間を潰しました。
そして、出発の日。「つ国」の人々は王様を先頭にして、魔法の船に乗り込みました。「つ国」の人々が全員乗っても、船はまだまだいっぱいになりません。誰かが言いました。
「おい。この空いているところに、神様への贈り物をたくさん乗っけて行かないか?その方が神様もお喜びになるだろう」
「それはいい考えだ。幸い、まだ出発まで時間はある。皆で贈り物を探してこよう」
「そうしよう」
「そうしよう」
そうして人々は贈り物を探しに続々と船を降りていきました。それを見ていた王様は、はじめは驚きましたが、事情を知ってからは急いで船を下りていきました。
さて、出発の時間になりました。飛び立った魔法の船はおしゃれをした人々と豪華な贈り物でいっぱいで、いよいよ華やかな雰囲気に満ちあふれていました。
しばらく経ってから、もうすぐ神様のお家に着こうというころ、雲をかき分け「きゅう国」の魔法の船が現れました。どうやら「きゅう国」もパーティーに招待されていたようです。「つ国」の船は「きゅう国」の船へ話しかけました。魔法の船は離れていても会話をすることができるのです。
「やあ、きゅう国の皆さん。とうとうパーティーの日がやってきたね。」
「やあ、つ国の皆さん。パーティーが楽しみで仕方がないよ。」
「そちらは贈り物は何にしたんだい?こちらの贈り物はとっても豪華だぜ」
「贈り物だって?こちらには贈り物を乗せる余裕なんてなかったよ。そちらはそんなに広いのかい?見たところ、同じ大きさに見えるけれども……」
「つ国」の人々は不思議に思いました。自分たちにも両国の船は同じ大きさに見えます。また、住んでいる人の数も大体同じです。なぜ「きゅう国」の船には余裕がないのでしょう?
その答えは、神様のお家に着くとすぐにわかりました。「きゅう国」の船からは、贈り物の代わりに、犬や猫や、虫や花たちが降りてきました。まだまだ、たくさんの生きものが降りてくるようです。
それを見た「つ国」の人々は、
「ああ、神様は私達に、『皆でそろって遊びにいらっしゃい。』と言ったんだ。つ国は人間だけのものじゃない。魔法の船は、そのために大きかったのだ…」
と言って、がっくり肩を落としてしまいました。
この後、「つ国」の人々がどうすべきなのかは、「ちきゅう」の人々でもわかりますよね。おしまい。
SF童話 つきゅう 久田高一 @kouichikuda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます