黄色いスカートの女
口羽龍
黄色いスカートの女
俺の名は浅野敦之(あさのあつゆき)。25歳、髪は金色に染めている。俺はこのスーパーマーケットにいる事が多い。一見すると普通の買い物客に見えるが、本当は万引きを見つける仕事をしている、いわゆる『万引きGメン』だ。全国各地のスーパーにはそんな人がいて、万引きをしないかどうか見張っている。
今日もいつものように見張っている。だが、ここで買い物している人は気づかない。俺が万引きGメンだという事を。知っているのは店員だけだ。だが、店員は普通の客のように見ている。
夕方近くになって、多くの人がやって来る。そろそろ晩ごはんを買いに来る時だ。だけど俺は一人暮らしで、コンビニで済ませている。家族とは遠く離れて生活している。彼らの姿を見ると羨ましくなる。だけど、それが自分の選んだ道だ。全うしなければならない。
「あの女、怪しいな」
俺はある女が気になった。黄色いスカートの女だ。見たところ、OLのようだ。その女は周りを気にしている。左手にマイバッグを持っている。いかにも万引きしそうな雰囲気だ。
だが、女は何も盗まず、普通にレジで会計を済ませ、行ってしまった。結局盗まなかった。だが、、どこか気になる。今後、この女性がやってきたら、気を付けよう。今度こそやるかもしれない。
結局、万引きのないまま、今日も見張りが終わった。帰り道で、俺は空を見上げた。今日もまた1日が終わろうとしている。万引きのない日。これほど嬉しい事はない。万引きでスーパーのイメージが落ちないように努力するしかない。
帰り道は人通りが少ない。もうみんな家にいるんだろう。その中には家族がいる人もいる。俺も結婚して、こんな家族が欲しいな。いつになるだろう。
俺は家に帰ってきた。だが、誰も迎えてくれない。一人暮らしを始めてもう何年だろう。孤独な毎日を送っている。早くいい女を見つけて、結婚したいな。そして、幸せな日々を送りたいな。
俺はコンビニで買ってきた唐揚げ弁当を電子レンジに入れた。料理は苦手だ。だいたいコンビニで買ってきた弁当を食べている。とても寂しい食事だ。もう何年にもなるだろう。
翌日、俺は今日もここで見張りをしている。俺は昨日の客が気になっている。あの不審な動き、移管も万引きをしそうな雰囲気だ。またあの女が来たら、見張っておこう。
「明日もあのスーパーに来るかな?」
今日もスーパーは朝から多くの人が来ている。最初はまばらだったが、11時ぐらいになると多くの人が来た。お昼の食料を買いに来たんだろう。だが、夕方に比べたらそんなに多くない。
昼前、あの女がまたやって来た。昨日と同じく、黄色いスカートで、マイバッグを持っている。そして、周囲を警戒している。
「あっ、あの女だ」
女はお菓子売り場をうろうろしている。周りを見て、警戒しているように見える。
「やっぱり周りを気にしてるし、あのバッグの動き、怪しいな。入れそうだ」
俺には見えた。今にもマイバッグに入れそうだ。注意深く見ておかないと。
「入れた!」
その時、女がポテトチップをマイバッグに入れた。このまま払わずに外に出れば万引きになる。気を付けないと。
次に女は生鮮食品に向かった。ここでも周りを警戒している。ここでも万引きをするんだろうか? その時、店に来ている人はそれを見ていない。
「会計を出た!」
俺はその女を急いで追いかけた。女は何事もなかったかのように店を去っていく。女は自転車置き場に向かう。乗る前に早く捕まえないと。
自転車に乗る直前、俺は女に声をかけた。
「すみません、店の保安員ですけど」
それに気づき、女は振り向いた。そこには金髪の若者がいる。女はその男がいる事に全く気付かなかった。何事だろう。女は首をかしげた。
「はい?」
「あなた、お金払ってませんよね」
俺は女を問い詰めた。女はきょとんとしている。何も知らないような様子だ。万引きをしたにもかかわらず。
「えっ!?」
それでも女は知らないかのような態度だ。無性に腹が立ってくる。
「とぼけないでくださいよ! あなた、払ってない商品あるでしょ?」
「はぁ?」
女は急に気性が荒くなった。今までの表情は嘘のようだ。
「とぼけんじゃねぇ!」
俺は女の服をつかんだ。ここまでキレられると俺も本気になった。こんなに怒るのはそんなにないが、ここまで気性が荒くなると、怒ってしまう。すると、女はおとなしくなった。俺に驚いたと思われる。
俺はその女を事務所に連れて行った。その間、女は下を向いている。あれだけ気性が荒かったのが嘘のようだ。万引きをしたことを悪いと思っているようだ。
女は事務所の折り畳み椅子に座った。すると、女は泣き出した。まさか泣くとは。
「ご、ごめんなさい」
「わかったから、マイバッグの中身を出して!」
女は頭を下げた。そして、マイバッグから万引きした商品を出した。中にはポテトチップの他に、しゃぶしゃぶ用の豚肉、豆腐、大根、人参が入っている。どれもこれもマイバッグに入れたのを俺は見ている。
しばらくすると、店長がやって来た。万引きを捕まえたのを俺から知らされて、やって来た。
「どうしてこんな事したの?」
「お金がなかったんです」
女は相変わらず下を向いている。涙が止まらない。反省をしているから、帰らせてほしいと思っているようだ。だが、やってしまった以上、警察に行かなければならない。すでに店長が警察に連絡している。
「だからと言って、こんな事してもいいの?」
「いけません」
いけない事だとわかっているようだ。どうしていけないとわかっているのに万引きをしたんだろう。人はどうしていけないとわかっている事をしてしまうんだろう。
「なかなか就職できなくて、辛くて、お腹がすいて」
「わかるわかる。その気持ち、わかる」
俺は女の頭を撫でた。お腹がすいているのはわかる。なかなか就職できずに貧しいのはわかる。だけど、万引きはしてはいけない。
「本当にごめんなさい」
「わかったから、もう泣かないで」
しばらくすると、警察がやって来た。女を捕まえて、警察で事情聴取をするようだ。女は素直に立ち上がり、警察と共に事務所を出て行った。駐車場に停めてあると思われるパトカーに向かったんだろう。
俺はその様子をじっと見ている。どうして万引きがなくならないんだろう。いけないとわかっているのに、人はどうして万引きをしてしまうんだろう。その答えは、今日も見つからない。
黄色いスカートの女 口羽龍 @ryo_kuchiba
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