第30話 ソフィアは心配された

「大丈夫ですか?」

「はい?」

「あれだけ伯爵に文句を言われたでしょう。大変な思いをされてしまって……」

「いえいえ。暴言だけだったら慣れてますから大丈夫ですよ。今まではこれに加えて暴行もたくさんありましたし……」

「はぁ。考えただけで彼らを殴ってやりたい気分ですよ……」

「お気持ちだけで結構ですよ……。どちらにしてもゼノ伯爵の処刑は免れないのでしょう?」


 領地へ向かっている際に衝撃事実を告げられていたのだ。

 それまでは私もそれなりにゼノ伯爵へ制裁をお願いしたいと思っていた。

 だが、これ以上の制裁となると生き地獄になるらしい。

 さすがにそこまで酷い目にあったり苦しんでしまう姿は見たくない。

 だから私は言及しないことにしたのである。


「それだけの行為をしていたそうですからね。ソフィア様が同じ家に住んでいながら無事でいられたこと、本当に良かったと思ってますよ」

「ところで、この領地はどうなってしまうのですか?」

「そうですね……。現状モンスターの群れはソフィア様の力によって現れていません。しかし、王都に戻ったらそうはいかなくなるでしょう……」

「でも、私は王都へ帰らないと……。せめて、魔法を阻害する結界さえなければなぁ」

「はい?」


 アーヴァイン様がなにを言っているのだというような目で私に視線を向けた。

 しまった。

 これでは結界をなくしてモンスターに襲撃されてしまえとでも言っているふうに聞こえてしまったのかもしれない。

 慌てて弁明する。


「結界さえなくなれば私の魔法で、モンスターを引きつけないような魔法を発動することもできるかなって。そんな魔法を先日発見したので」

「本当ですか!? どれくらい持続できるかわかります?」

「んーーー、たぶん一度発動すれば五年くらいは……」

「ごっ!?」


 魔法の持続なんてそんなものだろう。

 私はそう思っていたから普通に言ってしまった。

 だが、アーヴァイン様はやたらと驚かれていた。


「普通持続させる魔法は一年が限界です。この結界も毎年魔導師が結界を張り直しているくらいですからね」

「知りませんでした……」

「しかもたった一人で持続魔法を……。もはやなにが普通なのかわからなくなってきますよね」


 アーヴァイン様が苦笑いをしていた。

 いやいや、今回は笑っている場合ではない。


「結界っていつ効果がなくなるのか知ってますか?」

「まさか、この領地をソフィア様が魔法で助けようと? 領民にも散々な目に遭わされていたのでしょう?」

「そうですけど、このまま放っておいたらみんな生きていけませんよ。それに、昔は昔。今はとても幸せな毎日を送れていますし、あまり過去のことは気にしなくても良いですから」

「はぁ……。ソフィア様は本当に人が良すぎる……。なお、私も結界に関しては分かりかねます。今日のところは一度王都へ戻り、また改めて来てはいかがでしょうか?」

「わかりました」


 領民たちにはしばらく領地から出ないようにと、騎士団たちが宣告してくれた。

 少々見放し感もあるが、今はどうすることもできない。

 一旦王都へ戻ることにした。

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