第17話 ソフィアは自分が魔女だと知る

 公爵様の言っていることが本当なのだとすれば、私は魔女らしい。

 魔女についても魔法の勉強をしているときに調べていた。

 魔女は人間と姿形は一緒だが、人間とは別の生物としての括りになってしまうらしい。


 そもそも初代魔女というのは、モンスターと人間の間から生まれたそうだ。

 その子孫もモンスターと人間のはざまという難しい括りとして今も議論が進んでいるそうだ。

 だが、現状は人間と子孫繁栄が続いたため、偏見こそほとんどないそうだが、私は動揺を隠せなかった。


「すまない。知っているものだと思っていて口にしてしまった」

「いえ、むしろ今回私が公爵様にお会いしたかったのは自分を知りたいためだったので」

「どういうことだね?」


 私は、生まれてから十歳くらいまでの記憶がないこと、ある人物に拾われてそこで生活していた記憶しかないことを話した。

 横で聞いていたアーヴァイン様はかなり驚かれていた。


 さらに、魔力が強いという公爵様なら、もしかしたら私の両親を知っているかもしれないことも聞いてみた。


「なるほど……。ソフィア殿を拾ったという人物とは、ゼノ伯爵なのか?」

「どうして……わかってしまうのですか? 誰にも話していなかったのですが……」

「ソフィア殿が説明をしてくれている間に私の魔力も回復……、いや、そこは伏せておく。ともかく、もしもゼノ伯爵が拾った人物がキミなのだとすれば、ソフィア殿の母親のことは知っている」


 できればアーヴァイン様には義父様=ゼノ伯爵のことを知られたくない。

 だが、ここまで来て情報が手に入らないほうがデメリットは大きいだろう。

 もしかしたら伯爵邸へ帰るよう促されてしまうこともあるかもしれないが、私は両親のことを知りたい。


「同一人物で間違いないです。もし、私のお母様のことを知っているのであれば、教えて欲しいです。できれば会いに行きたくて……」

「名前はリリス。彼女は魔女の中でも最強と謳われていた伝説の魔女だよ。とは言っても魔法研究学会や一部の人間にしかその存在は知られていないがね」

「ではやはり私は魔女なんですね……」

「魔女は魔女特有の魔素が身体中に流れているのだよ。魔女は人間の魔力の流れを察知することができないらしい。おそらくは魔女とは別の魔力であるために、ゾクッとする感覚がないのだろう」


 心当たりがおもいっきりある。

 私はアーヴァイン様たちの魔法を感じ取ることができない。

 それに、魔力察知だけはどんなに訓練してもどうすることもできなかった。

 どうやら、私は本当に魔女のようだ。


「ソフィア殿には申し訳ないことを言うことになってしまうが……かまわないか?」

「問題ありません。全部知りたいです」

「リリスは国の敵なのだよ……」


 もしかして、私もゆくゆくは国の敵になってしまうのではないだろうか。

 私が魔女であるのと同時に、これからの生き方も考えていかなければならないのかもしれない。


「リリスは正義感が強く、悪を絶対に許さないような魔女だ。彼女は人間の邪悪な部分を見つけると、呪い魔法を放つ特性を持っている。まれに殺生をすることすらあった。つまり、国の敵として位置づけされているのだよ」

「そんな……」

「だが、リリスのような規格外の魔女を倒せるものなど誰もいない。それに、呪いを放ったおかげで救われている人間も多い。故にリリスは放置するという結論に至ったのだ」


 お母様の放つ呪いが結果的に人助けになっているのなら、なにも殺生などしなくてもいいのではないだろうか。

 どうしてそんなことまでするのかがわからない。


「これはあくまで私の推測だが……。ソフィア殿の記憶がないというのも、リリスの呪いを受けているのではないだろうか?」

「私がお母様からの呪いを……?」

「理由はなんであれ、リリスは国の敵であることには変わりない。そんなことを知ったら将来大変な思いをしたり苦労するかもしれない。そこで呪いをかけて外に放ったのではないだろうか」


 もしそうだとしたら、私はお母様に会えたら呪いを解いてもらいたい。

 お母様がたとえ国の敵だったとしても、私にとってはお母様でしかない。

 それに、散々苦労してきたし国中からの敵になったとしても、それでも私は本当の母親と共に過ごしたい。


「お母様がいる場所はわかりますか?」

「私の魔力を察知する力は他人よりは優れているのだが、さすがに超長距離まではわからぬ……。ソフィア殿の魔力を感じてからはリリスが来たのかと錯覚したがな」

「もしかして公爵様にかかっていた呪いもお母様が……?」

「いや、違う。腕も呪いも、オロチという、ドラゴンの次に強いと言われているモンスターにやられてしまった。私にはオロチを辺境地から追い出すことが精一杯だった……。まったく、我が国の中で一番の魔力の持ち主と言われていた私が完敗するとは笑えてしまう……」


 あらら……。

 まさかじゃないけど、ここへ向かっていた最中に、私たちが全員で協力して倒したあのオロチじゃないよね……。


「公爵様、そのオロチかどうかは存じませぬが、ここへ向かう最中、ソフィア様がオロチを退治してくださいました」

「は!? ばかな! いや……魔女のソフィア殿なら不可能ではないか……。何度私を驚かせてくれるのかねきみは……」

「はは……でも騎士団全員で協力して倒したので」


 こんなとき、返答に悩む。


「ところで……。ソフィア殿に尋ねたいのだが、もしも記憶がない理由が呪いだとしたら、私の声を戻してくれた魔法で治せるのでは?」

「あ……」


 どうしてこんなことに気がつかなかったのだろうか。

 さっそく私自身に呪いを解く魔法を発動してみた。


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